E1612 – GreyNet Award受賞の池田貴儀さんにインタビュー

カレントアウェアネス-E

No.267 2014.09.25

 

 E1612

GreyNet Award受賞の池田貴儀さんにインタビュー

 

 灰色文献に関する国際的なネットワーク“Grey Literature Network Service”(GreyNet)が,2014年8月1日付で,2014年のGreyNet Awardを日本原子力研究開発機構(JAEA)の図書館員である池田貴儀氏に贈ることを発表した。同賞は,灰色文献の研究活動や流通促進など,灰色文献の分野における優れた功績に対して贈られるものであり,アジア地域からの受賞は池田氏が初となる。池田氏にお話しをうかがった。

●受賞おめでとうございます。受賞のご感想をお聞かせください。

 ありがとうございます。このような国際的な賞を受賞したことを大変嬉しく思います。友人や知人,同僚,国内外の図書館員の方々からも沢山のお祝いのメッセージをいただきました。おそらく受賞の中身はよくわかっていないと思うのですが,両親が今回の受賞をとても喜んでくれていて,それが一番嬉しかったです。

 GreyNetは毎年11月~12月頃に灰色文献国際会議(International Conference on Grey Literature:GL)を開催しています。その会議前夜にGreyNet Award Dinnerが催され,その中でGreyNet Awardの贈呈がおこなわれます。

 今年の第16回灰色文献国際会議(GL16)は,12月8日~9日にワシントンD.C.の米国議会図書館で開催されます。GreyNet Award Dinnerは前日の7日夜に,バージニア州の旧市街のレストランで開かれる予定です。また,この12月7日は私の誕生日でもあるので,素敵な誕生日プレゼントをいただく,そんな気分です。

●今回の受賞は,福島第一原子力発電所事故関連の情報の収集,整理,発信に関する活動が評価されたものとのことですが,池田さんの,またJAEAのこれまでの活動について教えてください。

 JAEA図書館は,「原子力科学技術情報の収集・整理と提供」「研究開発成果の管理と報知・普及」「国際原子力機関(IAEA)が推進する国際原子力情報システム(INIS)のナショナルセンターとしての活動」という三つの業務を担っております。東日本大震災後は,「福島第一原子力発電所事故対応に係る研究開発の支援」も主要な業務の一つとして新たに位置づけ,取り組んできました。

 私たちの活動については,カレントアウェアネス-Rでも何度も取り上げていただきましたが,2011年4月4日に3.11原子力事故参考文献情報ポータルサイトを開設し,JAEAの研究開発成果や,福島第一原子力発電所事故関連の参考となる過去の原子力事故に関するインターネット情報や文献情報を主題別に整理し,リスト化して発信してきました。

 多くの福島第一原子力発電所事故関連情報が発信される中,政府機関及び東京電力などが公開しているプレスリリースやモニタリングデータなどのインターネット掲載情報については,恒久的なアクセスが保証されていない問題やメタデータが無いと検索しづらいという課題を認識しておりました。このような観点から,福島第一原子力発電所事故関連のコンテンツの散逸や消失を防ぐとともに,アクセスを保証して発信するために,アーカイブの構築に向けた取り組みを開始しました。

 アーカイブ化においては,国立国会図書館のインターネット資料収集保存事業(WARP)と連携を図ることで,インターネット情報の恒久的なアクセスを確保し,メタデータの作成を進めていきました。また,より利便性の高い情報の組織化をめざし,IAEAの「原子力重大事故タクソノミー」という分類を採択し,これをアーカイブの中で活用することにしました。このような経緯を経て,2014年6月23日に,福島原子力事故関連情報アーカイブの公開へといたりました。

 この辺の経緯につきましては,2014年9月1日に刊行されました『情報の科学と技術』にて触れておりますので,ぜひご覧いただければと思います。また,この取り組みの途中経過は,『日本原子力学会誌』『情報知識学会誌』掲載記事,日本学術会議の学術フォーラムでのポスター発表などでも,その都度経緯を紹介してきました。

●GreyNet Awardのノミネートには,どのような条件があるのでしょうか?

 GreyNet Awardにノミネートされるには,(1)GLでの発表内容に対する参加者からの評価,(2)GLの会議録への投稿,(3)GreyNetが刊行する学術誌“The Grey Journal” (TGJ)などへの投稿又は編集委員会選定による論文の掲載,(4)灰色文献分野における著者の実績,という4つの条件を満たす必要があります。

(1)は,GL会議時に参加者に会議評価シートが配布され,その中に最も良かった口頭発表を記入する欄がありますので,おそらくこの得票数が評価になるのだと思います。これが4つの条件の中で一番ウェイトが大きいそうです。

 (2)について少し補足をすると,会議当日には抄録と発表用スライドが掲載された“Program Book”が参加者限定で配布されます。抄録とスライドは,後日,灰色文献を収録したリポジトリ“OpenGrey”や,灰色文献分野のグッドプラクティスを収録したリポジトリ“GreyGuide”にも掲載され,誰でも自由に見ることができます。これとは別に,会議後には,発表内容をより詳細にまとめた論文が会議録として刊行されます。これが(2)です。この(1)と(2)の条件からもわかるように,GLでの発表が必須となります。

 会議録に投稿された論文の中で,評価の高いものは編集委員会選定により,学術誌TGJに再掲載されることがあります。私の会議録の論文もTGJに掲載され,これが(3)に該当しました。

 また,(4)の貢献は色々あると思いますが,私の場合は,過去の2007年に開催されたGL9と,2009年のGL11での筆頭著者としてのポスター発表,そして2010年のGL12の共著者としての3回のポスター発表が評価された形です。

 2014年4月初めに,この4つの条件を満たしているので今年のGreyNet Awardに私を推薦したいという連絡がGreyNet代表のDominic Farace氏から届きました。その後,4月末にワシントンD.C.で開催されたGL16プログラム委員会において審議され,満場一致で承認されたそうです。

●GreyNet Awardは,これまでどのような方が受賞されてきたのでしょうか?

 過去の受賞者は,灰色文献に関する雑誌の編集者としての貢献,灰色文献の著作権に関する研究,灰色文献の中の科学的データの提供,灰色文献のためのシステム構築,灰色文献のオープンアクセスへの貢献などが,優れた業績として評価され,受賞しています。

 例えば,2010年に受賞した,フランスの国立科学研究センター/国立科学技術情報研究所(INIST-CNRS)のChristiane Stock氏は,OpenGreyの前身である,OpenSIGLE Repositoryに収録されている数十万の書誌データを,インターネットを通じて利用できるようにしたことが高く評価されました。

 受賞者たちは,Grey Literature in Library and Information Studies(2010)やGrey Literature Repositories(2010)などの灰色文献に関する編集・執筆に携わったり,GLの基調講演や各セッションの議長を務めたり,GreyNetの中に設置された委員会の委員をするなど,受賞後も灰色文献分野やGLと関わりを持ちながら,多岐にわたる活動に取り組んでいます。

●ノミネートの一つ目の条件について,GLでの発表内容や,そこでの参加者の反応についてお聞かせください。

 2013年12月にスロバキア共和国のブラチスラヴァで開催されたGL15にて,「灰色文献の流通性向上への貢献:JAEA図書館における原子力事故に関する情報の収集,整理,発信の取組み」というタイトルで,福島原子力事故関連情報アーカイブの取り組みについて発表してきました。

 福島原子力事故関連情報アーカイブの収集対象とする情報のほとんどがインターネット情報です。インターネット情報は,入手が容易であるように思われがちですが,情報へのアクセスが恒久的に保障されない点や書誌コントロールの欠如など,情報の流通や保存の面において課題が多くあります。そのため,インターネット情報の多くは,灰色文献的な側面を持ち合わせています。そこで「福島第一原子力発電所事故関連の情報の収集,整理,発信」と「インターネット情報と灰色文献の課題」という2点が発表の中心になりました。

 発表直後にDominic Farace氏から「とても素晴らしい取り組み。次回以降の会議でも継続して報告してほしい」というコメントをいただきました。コーヒーブレイクのときには,米国議会図書館,フランスやスイスの研究機関の方からも興味深い内容だったという感想をもらいました。また,アイスランドの方は,「インターネット情報と灰色文献の問題については池田さんが述べたように…」と,ご自身の発表の中で,私の発言内容を引用してくださるなど,好意的な反応をいただくことができました。

●今後の活動への意気込み,また新たに考えられている活動などあれば,ご教示ください。

 福島原子力事故関連情報アーカイブを公開して3ヶ月が経ちました。現在収録しているデータは約5万件で,収録対象も東京電力,経済産業省,文部科学省などに限られています。福島第一原子力発電所事故関連のインターネット情報の収集には,(1)ウェブサイトは階層構造を持っているため必要な情報の有無を確認し,抽出する作業が単純にはできないこと,(2)データベース,ストリーミング,ライブカメラの映像などといったテキストや画像以外の保存が十分なされていないこと,(3)許諾の関係でWARPに収録されていない情報の扱いなど,課題も多くあります。今後は,収録するメタデータを増やしていくとともに,国立国会図書館やIAEAなどの外部機関との連携を深め,情報発信の拡大を図っていく予定です。

 また,インターネット情報には有用な数値データ(モニタリングデータ,プラントパラメータなど)がありますが,タイトルや分類のメタデータだけでは数値データを含むものかを識別することができません。数値データを含む情報を識別・検索するために,原子力分野の国際的なデータベースであるINISデータベースで利用されている“データ・フラッギング”の仕組みを,福島原子力事故関連情報アーカイブに応用する予定です。この取り組みについては,今年のGL16で発表します。

 他方,灰色文献については,『情報の科学と技術』や『情報管理』にも書かせていただきましたが,GLの中で,灰色文献の定義についても現在検討をおこなっています。2010年のGL12において提案されたプラハ定義は,現在も確定にはいたっておりません。過去の灰色文献の定義は,情報へのアクセス可能性などを前提においていましたが,そこに資料自体の品質や法的な側面に関する内容が盛り込まれました。今後,プラハ定義が同意を得られるかは,各国の事情も踏まえた議論にかかっているのではないかと思います。この動向についても注視していきたいと思っています。

●最後に,国内外の図書館員に向けて一言お願いします。

 図書館員って,国が異なっても似ているのかなと思いました。図書館の仕事や研究に熱心で,懇親会では交流を深め,会議後の飲みの席で図書館のことを熱く語るんですよね。リポジトリがどうとか,図書館予算が削減されて頭を抱えているとかいった話を聞いて,悩みは世界共通なのかもしれないとも思いました。会議後に,スロベニア,オーストラリアの女性に誘われて,人生初のスケートを体験したのですが,アイスリンクのあるクリスマスマーケットの屋台でワイン片手にクリスマスツリーを眺めているときも,その後バーでウィスキーを飲んでいるときも,半分以上は図書館談義でした。英語力が無いからと躊躇するかもしれませんが,実際に行ってしまえば何とかなるものです。ただ話を聴いたり,一緒の時間を過ごしたりするだけでも色々な気づきが得られます。ぜひ,一度,海外の会議に参加してみてください。図書館や図書館員に対する見方が,ほんの少し変わるかもしれませんよ。

協力:日本原子力研究開発機構・池田貴儀
聞き手・編集:関西館図書館協力課調査情報係

Ref:
http://www.iaea.org/inis/highlights/2014/news-20140804.html
http://www.greynet.org/images/Award_Recipients_1999-2013.pdf
http://www.greynet.org/thegreyjournal/subscriptionform.html
http://www.textrelease.com/publications/proceedings.html
http://www.jaea.go.jp/index.html
http://jolisfukyu.tokai-sc.jaea.go.jp/ird/sanko/fukushima_sanko-top.html
http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/search/servlet/search?5046158
http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/search/servlet/search?5036174
http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/search/servlet/search?5033996
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http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/search/servlet/search?5037947
http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/search/servlet/search?5027145
http://www.infosta.or.jp/journals/201409-ja/#5