カレントアウェアネス-E
No.282 2015.06.04
E1681
内閣府の検討会によるオープンサイエンスに関する報告書
内閣府に設置された,国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会(以下検討会)から,2015年3月30日付けで報告書「我が国におけるオープンサイエンス推進のあり方について~サイエンスの新たな飛躍の時代の幕開け~」(以下報告書)が公表された。この検討会は,オープンサイエンスに係る世界的議論の動向を的確に把握した上で,日本としての基本姿勢を明らかにするとともに,早急に講ずべき施策及び中長期的観点から講ずべき施策等を検討することを目的として,2014年12月9日から6回にわたり開催された。報告書は,その内容をまとめたものである。
報告書は,3つの章と参考資料から成る。第1章・第2章では,オープンサイエンスの国際的な広がりとその推進の必要性について述べられている。オープンサイエンスは,オープンアクセス(OA)とオープンデータを含み,イノベーション創出に繋がる概念として捉えられている。2013年6月に英国で開催されたG8科学大臣会合は,論文だけではなく研究データのオープン化についても言及し,世界的な議論を加速する契機になった。一方,これまで日本では,国としてオープンサイエンスに関する統一的な考え方が明確化されていない。このような状況では,日本が明確な意思表示をすることなく国際的にサイエンスのオープン化の議論が進み,日本特有の事情に十分な配慮がなされないままにオープン化が進行してしまうという懸念が報告書では述べられている。また,オープンサイエンスは,従来の科学研究活動の枠組みを大きく変える可能性を持つ概念でもあるが,これまでの研究手法を代替するものではなく,従来の研究方法に対して新しい研究方法を提示するものであるとしている。サイエンスのオープン化は,天然資源の乏しい日本が,科学技術イノベーションにより新たな価値を創出し持続的な発展を続けていくための環境整備にほかならないという認識をステークホルダー間で共有し,推進体制を構築する必要があるとしている。
第3章では,オープンサイエンスに関する国際動向への対応として,まず,公的研究資金による研究成果(論文,研究データ等)の利活用促進を拡大することを日本のオープンサイエンス推進の基本姿勢とすることを明確にした。その上で,各省庁,資金配分機関,大学・研究機関等のステークホルダーが,オープンサイエンスの実施方針及び計画を策定し,実施の責任を果たすものとしている。また,オープンサイエンスの推進に当たっては,内閣府及び国の重要な科学技術政策の企画立案を担う総合科学技術・イノベーション会議が政府全体を通じて中核的な役割を担い,各ステークホルダーにおける進捗状況をフォローアップすることとしている。
引き続き第3章では,関係機関における実施方針等のあり方について述べられている。公開の範囲として,公的研究資金とは,競争的研究資金及び公募型の研究資金に該当するものとし,その研究成果のうち,論文及び論文のエビデンスとしての研究データは原則公開とすることが求められている。その他の研究データについても,可能な範囲で公開することが望ましいとされている。研究データには,メタデータ,数値データ,テキストレコード,イメージ,ビジュアルデータなど多様なデータが含まれる。なお,個人のプライバシーに関わるデータ,商業目的で収集されたデータ,国家安全保障等に係るデータなどは公開適用対象外としている。各機関においては,論文,研究データ等の研究成果の管理に係る規則を定め,研究成果の散逸,消滅,損壊を防止するために,永続性のあるデジタル識別子(Persistent Object Identifier)を付与し管理する仕組みを確立することが求められている。
また,関係機関が実施方針及び実施計画を定める際には,あらゆるユーザーがアクセス・検索・読み出し・分析できるよう長期間にわたって保存すること,グリーンOA及びゴールドOA(E1287参照)への対応を示しておくこと,研究分野によって研究データの保存と共有の方法に違いがあることを認識しそれぞれの特性に応じたルール作りをすること,公開するデータには自由に利用できる規則を付すこと等を含めることが求められている。なお,今後の検討課題として,著作権ポリシーの策定,研究データの評価方法の確立,研究者に対するインセンティブ,技術インフラ・人材の確保などが挙げられている。
この報告書を受けて,関係機関でも検討が始まっている。文部科学省の第8期科学技術・学術審議会学術分科会学術情報委員会では,主に学術情報のオープン化について議論が行われている。日本学術会議では,2015年4月13日にオープンサイエンスの取組に関する検討委員会の第1回委員会が開催された。科学技術振興機構(JST)の科学技術情報委員会からは,2015年4月付けで「わが国におけるデータシェアリングのあり方に関する提言」が公開された。外務省においても,オープンサイエンスは科学技術外交を進めるうえで考慮すべきと捉えられている。また,報告書でも,2016年度から始まる第5期科学技術基本計画に確実に反映されるべきとされており,今後の動向が注目される。
関西館図書館協力課・高城雅恵
Ref:
http://www8.cao.go.jp/cstp/sonota/openscience/index.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/57/2/57_80/_html/-char/ja/
http://data.nistep.go.jp/dspace/handle/11035/2972
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-h140930-3.pdf
http://data.nistep.go.jp/dspace/handle/11035/2999
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/036/index.htm
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/openscience/openscience.html
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=8062
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_002096.html
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