E1680 – 離島の情報環境調査から見えてきたこと‐LRG第10号から

カレントアウェアネス-E

No.282 2015.06.04

 

 E1680

離島の情報環境調査から見えてきたこと‐LRG第10号から

 

 季刊誌『ライブラリー・リソース・ガイド』(以下,LRG)では,第10号で特集「離島の情報環境」を掲載した。この特集では,日本の全有人離島を対象に図書館やそれに類する施設・サービスの有無や内実に関する悉皆調査を実施した。このような調査は日本初のものであり,その調査結果は今後,離島の図書館のあり方を考える上での基本資料となるだろう。

 そこで本稿では今回の調査から見えてきた,日本の離島における図書館の実情を紹介したい。まず調査の方法だが,『2012 離島統計年報』(日本離島センター,2012年)に収録されている319島から架橋されていない315の離島をピックアップし,これらの離島を有する自治体を対象にメールを中心に電話や郵送,FAXによって回答を得た。調査の実施期間は2015年1月から2月にかけてである。

 概況としては,離島を有する134自治体のうち,108の自治体で読書や情報収集の活動支援を実施していることがわかった。図書館(条例に基づかない類縁施設を含む)を有する離島は186島(134自治体)であり,離島における図書館設置率は59.1%であった。全自治体の図書館設置率は75.7%(『日本の図書館-統計と名簿』2014年版)であり,この設置率は平均を下回る。しかし,離島の多くは町村で構成されている。町村の図書館設置率である54.7%を上回っており,健闘していると言っていいだろう(なお,離島町村の図書館設置率は54.5%である)。これらの数字はLRG第10号で詳しく紹介している。

 ここで,いくつか具体的な事例についてふれておきたい。離島の図書館といえば,「島まるごと図書館構想」やクラウドファンディングでの資金調達が評価され,Library of the Year 2014を受賞した海士町中央図書館(島根県)が有名である。しかし,その他にも注目すべき離島の図書館と図書館サービスは少なくない。

 たとえば,図書館に町営の書店が併設された礼文町(北海道)のBOOK愛ランドれぶんがある。ここは当初の書店在庫は一般社団法人出版文化産業振興財団の支援を得て整え,それ以外の施設の維持費や人件費は町が負担している。人口3,400名ほどの離島だが,年間で3,000名の利用がある。

 トカラ列島の,7つの有人離島を持つ十島村(鹿児島県)にはセブンアイランド移動図書館がある。島を巡航するフェリーに図書を積み込み,島から島へと本を受け渡していくものである。木箱に積み込まれた本は1か月から2か月ごとに島々を巡回していく。

 また,極めて印象的だったのが,離島への巡回サービスに市が所有する船舶を利用している笠岡市(岡山県)の取り組みである。毎月1回,笠岡市立図書館の本が市艇「しらさぎ」を使って北木島等の4島に届けられている。

 さらに,自治体ではなくNPOが設立を進める男木島図書館(香川県高松市)もユニークな存在である。人口200名に満たない男木島は険しい坂が多く,車での移動があまり合理的ではない。そこでこのNPOは「オンバ」と呼ばれる手製の乳母車に本を詰め込んだ移動図書館を島内に巡回させている。現在,男木島図書館はこのオンバによる移動図書館主体の活動だが,今年中にはクラウドファンディング等によって資金を調達し,施設としての図書館もオープンする予定である。

 このように離島の図書館と言っても,一つにくくれるものではなく,その姿は実に多様である。では,なぜいま私たちは離島の情報環境に注目するのだろうか。そのきっかけは前出の海士町にある。地方創生の文脈でも注目を集める海士町だが,その注目度の高さの理由の一つが,この町が人口減や高齢化,産業の衰退といった地域を巡る諸課題の存在とその対策において「日本の未来の縮図」であるからだ。人口減少や産業の縮小は日本全国が直面している課題だが,他のへき地や中山間地域以上に人口流出が激しい離島の場合,問題がより生々しい。それだけに,私たちが直面する未来を先取りしているといえる。

 そして,地域の話と同様に,離島の図書館は,日本各地の図書館の未来の縮図と言えるのではないだろうか。人口減や自治体消滅が叫ばれる中,図書館もその存廃が揺れうる。事実,2007年に事実上の財政破綻をきたした夕張市では,市立図書館が閉館に追い込まれている。このように将来への不安を抱える中で,離島においてどのような図書館サービスが展開されているのかを知り,その知恵や工夫に学ぶことが欠かせないのではないだろうか。これが,本特集に取り組んだ最大の理由である。LRG第10号には全調査結果を各島の概況と共に掲載しているほか,いくつかの特徴的な事例を紹介する記事も複数本掲載している。日本の図書館の未来の縮図を感じ取り,その先の行動の一助としていただければ幸いである。

 なお,2015年3月には,有志で「しまとしょサミット2015 in 海士町」というシンポジウムを開催した。隠岐諸島の海士町で開催したこの催しは,隠岐諸島外から30名,隠岐諸島内から35名を集める大盛況となり,離島の図書館に対する関心の強さをうかがわせた。2016年も引き続き「しまとしょサミット」を開催しようという機運も盛り上がっており,これらの取り組みによって,一人でも多くの方に,離島の図書館への,ひいては図書館の未来への,継続的な関心を寄せていただければと願っている。

アカデミック・リソース・ガイド株式会社・岡本真
        アカデミック・リソース・ガイド株式会社・ふじたまさえ

Ref:
https://www.facebook.com/LRGjp
http://www.nijinet.or.jp/publishing/statistics/tabid/68/Default.aspx
http://www.nijinet.or.jp/
http://lib.town.ama.shimane.jp/mkpage/hyouzi_editor.php?sid=6
https://readyfor.jp/projects/ama-library
http://reikyoi.jp/index.php/社会教育施設/Book愛ランドれぶん/
http://ogijima-library.or.jp/
https://www.facebook.com/OgijimaLibrary/posts/1593634677518873
https://www.facebook.com/LRGjp/posts/643405675763640
http://oki.keizai.biz/headline/53/
http://www.arg.ne.jp/node/7836
http://kamakurasachiko.com/archives/1022679504.html