カレントアウェアネス-E
No.303 2016.05.19
E1798
小さな島の小さな図書館という試み:男木島図書館
「なんか面白い本はあるかいな?」
訪れる島民の一言目はみなそれぞれ大体決まっている。この人の好きな本は……,と人と本を思い浮かべながらおすすめする。それが筆者の日常だ。
――瀬戸内海に浮かぶ男木島(おぎじま)。人口175人のこの小さな島に2016年2月14日,小さな私設図書館,男木島図書館が開館した。
◯高松市立男木小・中学校の再開
図書館について語るにあたり,男木島がどんな島かということからはじめたい。2014年4月,この島で小・中学校(高松市立男木小・中学校)が再開したというニュースが瀬戸内を沸かせた。2013年の瀬戸内国際芸術祭を契機に,筆者の家族を含め3世帯が島へのUターンを決意し,島民と共に学校再開を求め,島の人口を大きく上回る881名の署名を高松市長に提出し,小・中学校の再開が決定された。その中心となったのが,筆者の夫であり,その後男木島図書館の設立メンバーになる福井大和だった。
学校が再開する前の男木島は住民の大半が70歳をこえる限界集落となっていた。地域として考えると,学校の再開はゴールではない。学校の再開を契機として,地域の継続を可能にしていく仕組みを作ることが必要だ。では,そのために具体的に何をするか?そこで,筆者が考えたのが「図書館」であった。
◯なぜ,図書館か
持続可能な地域づくりには,島民の満足と,移住者が必要と考えた。ずっと人が住みたいと思える島にするには何が必要か。まずは魅力。そして移住者の不安を解消すること。図書館は,この2つの役割を兼ね備えていると考えた。地方での生活を選択する時に問題となるのは住まいと仕事であると指摘されることが多い。それは確かに事実ではあるが,この2つさえあればそこに住むかというと,そういうわけではない。その場所にしかない魅力があってこそ「ここに住みたい」と思わせることができる。島に図書館という文化の新たな担い手を生みだし,その図書館をこの島にしかないものにすることでここにしかない文化を発信して島の魅力を高めることができるのではないかと考えた。
また,島民とのコミュニケーションをどのように取っていくか,塾がない島で子どもの学習環境をどうしていくか,子どもたちが雨の日でも集まれる場所がないなど,筆者が島に移住するにあたって不安だったことがいくつかあった。「自分が不安に思うことは,これから移住を考える人も同じように不安に思うのではないか。それなら,不安は自分たちの手で解消していこう!」と考えた。筆者が感じていた不安,それは図書館という場所を作ることで解消できるのではないかと考えた。
2013年11月から図書館の開設に向けて筆者を中心に動き始め,2014年は図書館となる空き家の取得,それと並行して行った運営母体となるNPO法人の設立がメインの活動となった。
◯島内の空き家事情
島内に「空き家」とよばれる家は多くあるが,・長期休暇には帰島して過ごす・仏壇があるので貸したくない・権利者がわからないなどの理由で,借りることができる家はとても少ないのが実情である。その中で一軒の家に惹かれたのだが,これは家の権利者がわからない空き家であった。そこで司法書士にお願いし調べてもらったところ,相続が行われておらず権利者が13人いるという状況で権利を得る手続などに2014年12月までかかった。
◯図書館運営母体としてのNPO法人の設立
行政や民間との協力関係を築いていくためには,個人としてではなく法人を設立して,長く継続できる体制を整えることが必要と考えた。NPO法人には島民のみならず,島外の識者の方にも入っていただき,島の内外の視点を活かせるようにした。
◯移動図書館の稼働
2015年2月,NPO法人の設立と同時に,手押し車(島では「オンバ」と呼ぶ)による移動図書館を始めた。図書館となる古民家の修復に時間がかかることから,島民に図書を提供し「図書館」というものがどういう場なのか知ってもらいながら,本のニーズ調査も行いたいと考えての取組だった。
移動図書館は古民家の修繕と同時並行で,図書館を開館するまで,週に一度島内で稼働させた。
◯古民家の修繕とクラウドファンディング
古民家の修繕には,島民を中心に島外からも広くボランティアをつのり,120名ほどが参加した。本と本棚の資金を調達するため,クラウドファンディングも行い,205名の方が資金を提供くださった。島民175名の島で,男木島図書館は資金面,古民家の修繕に300名以上の協力を得て完成した。
自分たちで建物の修繕を行うことによって得られた効果として,修繕のボランティアに関わった1世帯が島への移住を決め2016年3月から男木島へ住み始めた。また,修繕作業から島内外の方と「図書館」とのつながりが生まれ,また図書館の場に愛着を覚えてもらうこともでき,本に興味がないと口にしていた方も開館後,本を借りに足を運んでいただいている。
◯最後に
図書館は,誰でも無料で来ることができる。人と話すことも,話さずにいることもできる。本という知の資産を誰にでも平等に提供できる施設である。本と人の関わりだけではなく,本を媒介にして人と人とが繋がることもできる場所である。
男木島図書館の今後の大きな課題は,継続のための運営資金の確保であると筆者は考えている。資金面に関しては,現在,新しい本の追加はAmazonのウィッシュリストで欲しい本を公開し,一定数の本を寄贈していただいている。グッズの販売や企業スポンサーを募るなどして,これからも新しい方法を模索しながら,島に愛される場所としてあり続けたいと考えている。皆さまには今後もこの小さな島の小さな私設図書館を見守っていただくことをお願いして結びとしたい。
特定非営利活動法人男木島図書館・額賀順子
Ref:
http://ogijima-library.or.jp
https://www.facebook.com/OgijimaLibrary/
https://twitter.com/ogijimalibrary
https://readyfor.jp/projects/ogijimallibrary-book
http://www.edu-tens.net/syoHP/ogisyouHP/
http://www.amazon.co.jp/registry/wishlist/1KGBA7GXNO8VB/ref=cm_sw_r_tw_ws_fztZwb0TD2S78
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