E1926 – JSTオープンサイエンス方針の策定について

カレントアウェアネス-E

No.327 2017.06.22

 

 E1926

JSTオープンサイエンス方針の策定について

 

 科学技術振興機構(JST)は,2017年4月1日付で「オープンサイエンス促進に向けた研究成果の取扱いに関するJSTの基本方針」及び「同運用ガイドライン」を公表した。これは,国際的にオープンサイエンスに関する議論が高まる中,JSTとしても,JSTの研究開発から創出された成果の取扱いについて方針を策定し研究実施者に対して示す必要があるとの認識から,半年以上の時間をかけて議論し策定したものである。本稿では,その背景・経緯・今後の展望等について述べる。

 JSTにおけるオープンサイエンスに関する取組は,2013年5月に開催された,世界各国の科学技術に関するファンディング機関の長によるフォーラムであるGlobal Research Council(GRC)年次総会で論文とデータへのアクセスのオープン化が取り上げられたことが,一つの契機となっている。同総会ではオープン化に向けた行動方針やフォローアップ計画が策定されたが,JSTはこれに先立つアジア太平洋地域準備会合の共同議長を務め,地域内各機関の意見を集約し,その結果をJST中村理事長(当時)が同総会で報告した。またこれと前後してJSTは2013年4月に,論文に関する取扱方針を定めた「オープンアクセスに関するJSTの方針」を公開した。

 その後,オープンデータ(今日で言うところの「研究データシェアリング」)についても対応の必要性を認識し,議論を深めると共に,2016年3月に研究データ同盟(Research Data Alliance:RDA)第7回総会の東京開催を誘致するなど(CA1875参照),活動を展開してきた。この総会は,欧州・北米域外で初めての開催として意義深いものであった。またオープンアクセス(OA)については,米国におけるOA推進のための取組であるCHORUSの試行的導入(パイロットプロジェクト)を,2016年7月から2017年5月の間,千葉大学と連携して取り組んできた(E1844参照)。

 他方,日本におけるオープンサイエンスに関する議論は,2015年3月に,内閣府に設置された「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会」が取りまとめた報告書が公開されたことを契機に,大きく高まったと言える。これに続いてJST,文部科学省や日本学術会議も相次いで審議まとめや提言書を公開している。またこれと歩調を合わせるように,大学等研究機関におけるOA方針や機関リポジトリ運用指針等の策定・公開が活発化した(E1686E1914参照)。

 こうした背景の下でJSTは,2013年策定のOA方針を見直し,また研究データについても取扱方針を新たに定めるため,2016年度に検討を開始した。検討に当たっては,内閣府や文科省が示している方向性や,諸外国のファンディング機関が定めている方針を考慮しつつ,日本の情勢に合わせた無理のない方針を定めることを目標に据えた。具体的には,(1)研究成果論文は原則としてOA化すること,(2)研究課題の採択後にデータ管理計画(DMP)を提出すること,(3)研究成果論文のエビデンスデータは公開を推奨すること,を基本方針として定めた。(1)については,2013年の方針では「推奨」としていたところ,機関リポジトリの整備が進み,グリーンOAへの対応が現実的になったことから「原則」に変更した。逆に(3)については,研究データ公開のための情報基盤の整備は必ずしも十分進んでおらず,公開を原則化した場合に研究者への負担が過大になるであろうことから,「推奨」にとどめた。また公開に当たっては,公開すべきでない,または公開を延期すべき場合については慎重に判断し,研究者の不利益やその他の毀損を招かぬよう,十分に注意するよう喚起している。

 ところで,海外,特に欧州や北米では日本に比べて国・機関レベルでOA化・研究データ公開が進んでおり,既に研究現場においても実践されている,と見なされることが多い。しかしながら実状を見ると,「義務」と謳った方針を適用していながらなかなか遵守率(compliance)が上がらないケース,そもそも義務化は困難として「推奨」にとどまるケースも散見される。行政機関の担当者と意見交換をすると,研究コミュニティの賛同を得られない,無用な負担を強いるべきではない,という理由からそのような現状にとどまっているということである。

 このようにオープンサイエンスの推進を巡っては,政策主導で一通りポリシーが整備されてきた感があるが,他方で研究コミュニティにおける議論(例えばRDAの分野別議論を行うワーキンググループ等)も進みつつあり,今後は両者一体となって取り組んでいくことが課題であると言える。JSTもポリシーの策定・運用を通じてこの一翼を担っていくが,最終的な目的は,研究成果の共有促進により実現される新しい研究開発の形であるオープンサイエンスが,日本におけるイノベーション創出に大きく貢献する形で実現することである。JSTとしてもこれに向け,研究者の理解を得つつ取組を進めて行きたい。

科学技術振興機構・小賀坂康志

Ref:
https://www.jst.go.jp/pr/intro/openscience/index.html
https://doi.org/10.1038/490337a
http://www.globalresearchcouncil.org/
http://www.globalresearchcouncil.org/sites/default/files/pdfs/grc_action_plan_open_access%20FINAL.pdf
https://www.rd-alliance.org/plenaries/rda-seventh-plenary-meeting-tokyo-japan
http://www8.cao.go.jp/cstp/sonota/openscience/
https://www.jst.go.jp/report/2015/150622-02.html
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/036/houkoku/1368803.htm
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t230.pdf
https://www.rd-alliance.org/rda-disciplines
E1844
E1686
E1914
CA1875