E1844 - CHOR,JSTのOA拡大にむけた試行プロジェクト(千葉大)

カレントアウェアネス-E

No.312 2016.10.06

 

 E1844

CHOR,JSTのOA拡大にむけた試行プロジェクト(千葉大)

 

   千葉大学は2016年8月,米国の非営利団体CHORと科学技術振興機構(JST)による学術論文のオープンアクセス(OA)拡大にむけた試行プロジェクトに参加した。

   千葉大学はOAを学術情報流通活性化の実現手段として位置づけ,国内初の機関リポジトリ構築(2003年),学術情報検索エンジンScirusとの連携(2006年),国立情報学研究所による最先端学術情報基盤(CSI)事業の受託(2005~2012年度),「千葉大学オープンアクセス方針」の策定(2016年)と様々な取組を行ってきた。本学では紀要等の大学出版物の公開においては,既に機関リポジトリは不可欠の基盤的サービスとなっている。しかし,学会・商業出版社等が発行する学術雑誌に掲載された学術論文のOA化については,機関リポジトリは依然として十分に活用されているとは言いがたい。これは千葉大学だけではなく全国的な傾向で,査読済みの国際的な学術論文が機関リポジトリ上でOA化されている割合は現在でも数%程度にとどまっている。機関リポジトリへの学術論文登録は,研究者によるセルフアーカイビングおよび大学図書館による登録支援を前提として業務設計されてきた。しかし,OA拡大の方策としては,セルフアーカイビングには限界が見えてきていると言わざるをえない。

   一方でCHORは,米国を中心に研究成果のOA化に取り組む組織で,主要な商業学術出版社・学協会出版部が参加している。米国政府から助成をうけた研究の成果論文の情報をデータベース化・提供するサービスCHORUS(Clearinghouse for the Open Research of the United States)を運用し,各出版社はウェブサイトで“publicly accessible versions”(著者最終稿ではなく,出版社側が提供する公開可能なバージョン)を公開している。

   本プロジェクトは,日本でCHORUSと同様の取組を試行的に実施するものであり,米国以外では初の試行である。プロジェクトは2017年2月までの6か月間で,期間中にサービスの実効性や,研究者,学協会,機関リポジトリ等への影響を調査する。実施にあたってはCHORとJSTがプロジェクト実施に関する覚書をとりかわし,それに出版社および大学図書館が参加する形をとり,CHOR及びJSTが参加を認めれば,出版社,大学図書館とも試行期間中でも途中参加が可能となっている。

   プロジェクトでは,まずCHORが,プロジェクト参加出版社が出版する学術雑誌の中から,JSTの研究助成を受け,かつ千葉大学の構成員(研究者,学生)による論文を抽出・リストアップし,ダッシュボードと呼ぶ情報提供用のウェブページを作成,JSTへ提供する。

   千葉大学は該当論文のメタデータを機関リポジトリに登録する。機関リポジトリからは,DOIで出版社のウェブサイトの該当論文の本文へリンクする。出版社のウェブサイトにアクセスした際のレスポンスは各出版社のプラットフォームの機能に依存するが,通常はアクセス元のIPアドレス等から自動的に判断し,購読誌では出版社版を,非購読誌では“publicly accessible versions”もしくはメタデータのみを表示する。

   CHORはプロジェクトに参加する出版社に,該当論文の“publicly accessible versions”公開のほか,Portico(CA1597参照),CLOCKSS(E1117参照)等のアーカイブへの保存を求める。さらに各出版社のプロジェクト実施状況のモニタリングも行う。なお公開する論文のバージョンや,エンバーゴ,利用条件については各出版社の裁量にまかされている。スタート時点のプロジェクト参加出版社は,Association for Computing Machinery(ACM),Elsevier社,オックスフォード大学出版局(OUP),John Wiley & Sons,Inc.である。

   今回のプロジェクトでは,原理的にはDOIが付与されている論文は,機械的かつ網羅的に把握でき,かつ個々の機関は著者から著者最終稿を取得する必要もなくなる。現在はメタデータの受渡方法(API,CSV等),メタデータスキーマ等を検討中である。特にメタデータスキーマについて,国内の機関リポジトリの標準的なフォーマットであるjunii2では,FundRef(E1450参照)やORCID(CA1880参照)への対応,著者と所属機関の紐づけ等が困難である。またメタデータと本文をリンクさせるDOIについても,本文へのリンク項目であるfullTextURLに記述するか,doiに記述するか判断が難しい。そのため,本プロジェクトでは千葉大学側でプロジェクト用のスキーマを新たに開発する予定である。また今回のプロジェクトでは,FundRefのIDが確実に入力され,かつ著者の所属が確実に同定されることが前提条件となっているが,その検証も必須である。

   今後は運用面についても検討していかなければならない。今回の実験では,機関リポジトリで本文ファイルを保存しないので,機関リポジトリの位置づけ(研究者情報データベースとの住み分け)(E1791参照)や運用指針等についても見直しが必要である。さらに費用も重要である。プロジェクト期間中は,データおよびデータベース使用費用は発生しないが,実運用時はどうか。運用費用が高騰し大学予算を圧迫するような事態になったら本末転倒である。持続可能なビジネスモデルをいかに作りあげていくかが,本プロジェクトが成功するかどうかの鍵になると考えている。

千葉大学附属図書館・三角太郎

Ref:
http://www.nii.ac.jp/irp/rfp/
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2013/pdf/20140207_6.pdf
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/pdf/junii2guide_ver3.pdf
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/pdf/JaLC_guideline_ver2.0.pdf
http://www.jst.go.jp/report/2016/160817.html
http://www.chorusaccess.org/announcing-chor-pilot-project-japan-science-technology-agency-jst/
E1117
E1450

E1791

CA1597

CA1880