E1203 – 電子ジャーナルアーカイビングのコストと事例研究(英国)

カレントアウェアネス-E

No.198 2011.08.11

 

 E1203

電子ジャーナルアーカイビングのコストと事例研究(英国)

 

 2011年7月,英国情報システム合同委員会(JISC)が “E-Journal Archiving For UK HE Libraries”という17ページのペーパーを公開した。書庫スペース狭隘化や予算削減等の理由から,英国の高等教育機関は冊子体雑誌の購読を中止して電子ジャーナル(EJ)契約のみ(e-only)へ移行することを迫られており,EJへの長期的なアクセスを保証するためのEJアーカイビング(CA1597参照)が課題として浮上している。同ペーパーは,そのような機関がe-onlyへの移行に向けてEJアーカイビング方針を策定することを支援する目的で作成され,内容はEJアーカイビングのコストとケーススタディの紹介が2本柱になっている。以下ではこれらの概要を紹介する。

 まず,e-onlyへの移行によるコストが第4節で試算されている。移行の結果,冊子体雑誌の整理・製本・配架等に必要なコストや,外部書庫スペースのレンタル料金等が削減できるが,一方で,EJアーカイビングのコスト(一般的に年間資料購入費の1%程度),紙と比べて高いEJに対する付加価値税(E1129参照),EJの複雑な利用条件への対応コスト等が増加する。ケンブリッジ経済政策協会(CEPA)が2008年に発表した調査結果によると,英国の大学図書館がe-onlyへ移行(90%の雑誌が移行したと仮定)すると年間予算の8~10%程度を削減できるという。ペーパーでは,これらの結果と以下のケーススタディを合わせると,EJアーカイビングに必要なコストは製本費等の削減分で吸収できると述べられている。

 第7節から第10節にかけては,グラスゴー大学,ハダーズフィールド大学,ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE),スコットランド高等教育電子図書館(SHEDL)という規模・特色が異なる4機関のケーススタディを紹介している。

 スコットランドのグラスゴー大学は学部生15,000人と大学院生5,000人を抱える大規模研究大学である。2010年,ある大手出版社のビッグディール(CA1586参照)のうちSTM分野の契約を中止したが,ライセンスに含まれていた永久アクセス権によって,契約していたタイトルへのアクセスが維持されている。同大学図書館では,永久アクセス権に保険をかけるためにEJアーカイビングのPorticoとLOCKSS(UK LOCKSS Alliance)に参加している。CLOCKSS(E1117参照)には未参加である。同館は,PorticoとLOCKSSの違いとして保存対象タイトルと保存先(前者は外部サーバ,後者はローカルサーバ)を挙げ,「1つのEJアーカイビングに頼らないことが重要だ」と述べている。

 中規模大学のハダーズフィールド大学では,LOCKSS,CLOCKSS,Portico,OCLCのElectronic Collections Online,BLのe-Journal Digital Archive,オランダ王立図書館(KB)のe-DepotといったEJアーカイビングを保存対象の範囲やニーズとの一致等によって評価し,LOCKSSとPorticoに参加した。その費用は製本費の削減分で賄ったという。

 社会科学に特化した研究・教育機関であるLSEもPorticoとLOCKSSに参加しているが,それでもカバーできないタイトルがあるとのことである。

 2009年に誕生したSHEDLは,スコットランドの19の高等教育機関が加盟するコンソーシアムである。支払一元化や全機関契約といった特徴によって交渉力を強めており,JISC Collectionsの協力の下,米国化学会(ACS)やSpringer等の有名出版社と1,850タイトル以上のナショナルサイトライセンスを結ぶことに成功した。ペーパーでは,SHEDLの革新的な点として,パッケージに含まれるEJのうち非購読タイトルについても永久アクセス権が与えられていることと,コンソーシアムでPorticoに加入していることの2点が挙げられている。

Ref:
http://ie-repository.jisc.ac.uk/556/
http://www.jisc-collections.ac.uk/Documents/practical_guide_to_ejournal_archiving.pdf
http://www.rin.ac.uk/our-work/communicating-and-disseminating-research/activities-costs-and-funding-flows-scholarly-commu
http://www.ukrr.ac.uk/
http://scurl.ac.uk/WG/SHEDL/index.html
CA1586
CA1597
CA1645
E1117
E1129