カレントアウェアネス-E
No.173 2010.06.24
E1065
国立情報学研究所オープンハウス2010<報告>
2010年6月3日と4日の2日間にわたり,国立情報学研究所(NII)において「NIIオープンハウス2010」が開催された。特に2010年はNIIの10周年記念イベントを兼ねており,多様なテーマの講演,展示等が催された。ここでは筆者が参加した6月4日のプログラムについて報告する。
午前はCSI(Cyber Science Infrastructure:最先端学術基盤)イベント「次世代学術コンテンツ基盤ワークショップ」として実施された「共に創る,電子ジャーナルアーカイブ-大学図書館,出版社,そしてCLOCKSS-」に参加した。CLOCKSS(CA1645参照)とは,出版社と図書館が連携し,電子ジャーナルをはじめとするコンテンツのダークアーカイブ(出版社がコンテンツを提供している間はアーカイブの構築のみを行い,出版者が何らかの理由でコンテンツを提供できなくなった際に初めて,保存したコンテンツを公開するという方式のアーカイブ)を共同で構築する国際的な事業で,日本からはNIIが参加している。プログラムではまず,CLOCKSSのディレクターであるVictoria Reich氏より“CLOCKSS: Archiving in the Hands of the Community”と題する講演があり,CLOCKSSの活動や意義についての説明と,日本の出版社や図書館もCLOCKSSに参加してほしいとの呼びかけがあった。
次に東京大学附属図書館の尾城孝一氏より「我が国の大学図書館コンソーシアムの現状とCLOCKSSへの期待」と題する講演があり,日本の大学図書館コンソーシアムが抱える課題や,CLOCKSSに対する要望,非営利組織ITHAKAが運営しているダークアーカイブであるPortico(CA1597,CA1645参照)とCLOCKSSの比較等について発表があった。意見交換では,契約終了後アクセス保障(Post-Cancellation Access)の是非に関する議論や,「CLOCKSSは大手出版社を中心に運営されているが,日本は小出版社が多く,CLOCKSSの仕組みをそのまま日本に導入するのは難しい」等の意見があった。
午後は同じく「次世代学術コンテンツ基盤ワークショップ」として催された「いつでもCiNii,どこでもCiNii-ウェブAPIコンテスト第2弾-」に参加した。まずNIIの大向一輝准教授より,CiNiiの近況について報告があった。大きな動きは「著者検索」の公開であり,その大きな特徴は,機械処理による地道な著者同定作業に「利用者からのフィードバック」というユーザ参加型機能を組み合わせた点であると紹介があった。利用者からのフィードバックは1日50件から100件ほどあり,これまでに4,000件程度のフィードバックが寄せられているとのことである。
プログラムの後半では,CiNiiウェブAPIコンテスト第2弾の概要説明や,ウェブAPIコンテスト第1弾応募者による講演の後,トークセッションが行われた。トークセッションは,ACADEMIC RESOURCE GUIDE株式会社の岡本真氏の司会により,大向准教授,Nota Inc.代表で図書館蔵書検索サイト「カーリル」を運営する洛西一周氏(E1035参照),ウェブAPIコンテスト第1弾で優秀賞を受賞した筑波大学の柿島大貴氏を交えて行われた。トークセッションでは,「システムやサービスをいかに組み合わせ,新しい切り口を提示するかが重要である」という話から,iPadやiPhoneとの連携,コンテンツでは
なく「人」を主軸に置いたサービスの可能性等について,意見交換が行われた。
NIIオープンハウス2010では,NIIが,研究者の専門知識を活かし,「NIIだからこそできる事業」を着実に行っていることがうかがえた。引き続きNIIの活動に注目したい。
(総務部企画課・白石 啓)
Ref:
http://www.nii.ac.jp/?page_id=317
http://www.clockss.org/clockss/Home
http://www.portico.org/digital-preservation/
http://ci.nii.ac.jp/info/ja/web_api_contest_2010.html
http://togetter.com/li/27142
CA1597
CA1645
E941
E1035