E1064 – スミソニアン協会,資料デジタル化についての戦略文書を公表

カレントアウェアネス-E

No.173 2010.06.24

 

 E1064

スミソニアン協会,資料デジタル化についての戦略文書を公表

 

 スミソニアン博物館等を運営する米国のスミソニアン協会(以下「スミソニアン」とする)は,2010年5月に,今後5年間における資料デジタル化の戦略を示した文書「デジタル・スミソニアンの創造」(“Creating a Digital Smithonian”)を公表した。その概要を紹介する。

 文書の前半では,所蔵資料のデジタル化の意義や現状等が説明されている。デジタル化の背景には,知識の共有は民主主義の理想であり,地域・文化・経済状態等により制限されてはならないという信念があるとし,デジタル化の重要性を説いている。

 スミソニアンでのデジタル化は1960年代に所蔵資料の目録情報のデジタル化から開始され,その後,画像,音声,動画,研究データへと対象が拡大されてきた。資料の文脈や意味の理解のため,研究や説明情報等もデジタル化の対象に含まれている。デジタル化のメリットとして,これまで十分な利用ができなかった人に利用してもらえることに加えて,スミソニアン内での機関や学問分野を越えた協同が可能となることが挙げられている。

 スミソニアンには,19の博物館・美術館,9つの研究施設,20の図書館,1つの動物園等があり,あわせて1億3千万点以上の資料を所蔵している。スミソニアンでの過去のデジタル化の取組みは散発的なものが多く,フォーマットや手法が統一されていなかったという側面があったため,今後は,デジタル化の基準を示したガイドラインに基づき統一的なプログラムを策定するとしている。

 文書の後半では,「現在世代及び将来世代による最大限の利用のため,スミソニアンの資源をデジタル化する」というミッションと,それを実現するための3つの戦略的目標が提示されている。

 目標の1つ目は,デジタル資産の作成・管理・利用促進により,スミソニアンのコレクションへのアクセスを拡大することである。デジタル資産の管理計画を導入し,既存のデジタル資産の評価,デジタル化対象の選択基準の作成,ライフサイクルマネジメントの導入,共通データモデルの構築等を行うとしている。ITインフラの整備や,スミソニアン内外への利用促進活動も活動内容として挙げられている。

 目標の2つ目は,デジタル化をスミソニアンの中核的機能として位置付けることである。スミソニアン全体としての方針を規定することや,戦略計画実施に向けた組織・役割の見直し,デジタル化を受け入れる組織文化を育てること等が示されている。

 目標の3つ目は,「デジタル・スミソニアン」を維持するための財源・人的資源を確保することである。デジタル化プロジェクトの論拠を補強する事業計画の作成,スポンサーシップやパートナーシップのためのガイドラインの策定等が内容として挙げられている。組織や人材に関しては,各機関において適切な人材をデジタル化の担当者とすることや,職員以外のボランティアや研究者等の協力を得ること等が挙げられている。

Ref:
http://www.si.edu/about/documents/2010_SI_Digitization_Plan.pdf