カレントアウェアネス-E
No.185 2010.12.16
E1131
書架は不要:図書館における電子書籍<文献紹介>
Polanka, Sue ed. No Shelf Required: E-Books in Libraries. American Library Association, 2010, 200p., ISBN-13: 978-0-8389-1054-2.
本書は電子書籍提供サービスNetLibrary(CA1648参照)が開始された1998年以来の米国の図書館の電子書籍(E-books)への取り組みの成果であり,電子書籍が図書館と図書館業務にもたらす課題を調査した英語で書かれたおそらく初めての図書であろう。本書のタイトルは「図書館と出版社が電子書籍に投資するなら,私たちは書架が不要な図書館をやがて持つかもしれない」という編者の主張に由来している。編者のポランカ(Sue Polanka)氏は米国オハイオ州に本部を置くライト州立大学図書館の参考調査担当課長であり,各章の執筆者は大学図書館員,学校図書館員,公共図書館員,大学教員,出版社副社長,調査会社調査サービス責任者である。
本書は全9章から構成される。第1章「インターネット上の電子書籍」は概論に当たり,電子書籍の歴史,現状,将来について述べる。第2章「学生の学習と電子書籍」では電子書籍を学習のための新たなツールととらえ,読書指導の組織体系とどのように関連しているかを説明している。第3章から第5章では,電子書籍が学校図書館や公共図書館,大学図書館でどのように利用されているかについて議論している。これらの章では,電子書籍の収集,ライセンス契約,目録作業,ワークフローへの組み込みについて取り上げるとともに,電子書籍へのアクセス,利用,統計,マーケティング,便益と課題について調査している。また,イリノイ州のリバーフォレスト公共図書館におけるKindleの貸出やペンシルベニア州立大学図書館におけるソニーのReaderの実験プロジェクトについての短い事例報告がある。第6章「電子書籍の収集」は大学図書館の視点から電子書籍の購入プロセスを検討している。第7章「電子書籍の利用と保存」は電子書籍について提供されるCOUNTERやSUSHI準拠の利用統計レポートや,デジタルコンテンツの保存のためのCLOCKSS(CA1645参照)やPortico(CA1597参照)プロジェクトを扱っている。第8章「電子書籍の標準」ではEPUB,DRM,DOI,国際標準テキストコード(ISTC;E1044参照),SERU等の規格の他,図書館員が要求するライセンス契約,価格設定,フォーマットの標準を扱っている。最後の第9章「学術書籍出版の将来:電子書籍とその先」では印刷からデジタル世界への出版社のパラダイム転換について述べ,電子書籍の経済性や学術出版に対する電子書籍リーダーの影響を論じている。
各章は独立して書かれているので,関心のあるテーマについての章を選んで読むこともできれば,図書館への電子書籍の導入のために通読することもできよう。電子書籍は絶えず進化しているので,最新の情報については編者の運営する本書と同名のブログ“No Shelf Required”を参照するとよい。なお,本書は電子書籍でも出版されている。
(東北大学附属図書館・加藤信哉)
Ref:
http://www.alastore.ala.org/detail.aspx?ID=2902
http://www.libraries.wright.edu/noshelfrequired/
http://epublishersweekly.blogspot.com/2010/09/no-shelf-required-edited-by-sue-polanka.html
CA1597
CA1645
CA1648