カレントアウェアネス-E
No.185 2010.12.16
E1130
図書館のアドヴォカシーについての国際シンポジウム<報告>
2010年11月30日,東京ドイツ文化センターで,図書館のアドヴォカシーをテーマにした国際シンポジウム「図書館は知へのアクセスを提供する~活発な図書館のための戦略」が開催された。「アドヴォカシー」とは,自らの権利や見解を説明していく行動を意味する。図書館関係者のあいだでも,図書館が図書館自身を説明していくことの重要性は認識され始めているように思うが,それ自体をテーマとしたシンポジウムは,日本ではまだ珍しいと言えるだろう。各講演者の講演の概要は,以下のとおりである(講演順)。
国際図書館連盟(IFLA)会長のタイス(Ellen Tise)氏は,「アドヴォカシー」を「ある事柄や考えを前進させるための行動」と定義した。そのうえで,組織のアドヴォカシー能力を高め,プライオリティの高い課題に的を絞ることによって,より戦略的なアドヴォカシーを進めるIFLAの活動を紹介した。なかでも,IFLAの最重要の課題の一つである「情報へのアクセスの自由の保証」のための世界知的所有権機関(WIPO)等との協議について,その動向を紹介した。
国立教育政策研究所の神代浩氏は,2010年1月に発足した文部科学省の支援する「図書館海援隊」の活動について紹介した。図書館海援隊は,貧困・困窮者に対する図書館の課題解決支援サービスの一環として,日本司法支援センター「法テラス」との連携(CA1723参照),口蹄疫に関する情報の提供などを行ってきたが,2010年秋からは参加館がJリーグとのコラボレーションによる地域振興活動(E1122参照)を始めるなど,新たなサービスの創造や諸機関との連携強化を進めていると報告した。図書館海援隊は当初7館でスタートしたが,2010年11月現在で37館を数え,さらなる参加館の拡大が進められている。
IFLA事務局長のニコルソン(Jennefer Nicholson)氏は,2010年8月に立ちあげられたIFLAによる各国の図書館協会の機能サポートのためのプログラム“Building Strong Library Associations”について紹介を行った。各国の図書館協会が多くの場合財政難やスキル不足等の課題を抱えていることを指摘したうえで,同プログラムはこのような図書館協会をサポートし,設立から維持までの手法,さらには成功するアドヴォカシーの戦略を学ぶ機会を提供するものであると利用を促した。オンライン研修のためのプラットフォームがIFLAのウェブサイトで提供されている。
日本図書館協会理事の常世田良氏は,2008年の図書館法の改正の際に国会議員に働きかけるなどした日本図書館協会の取り組みについて報告を行った。法改正自体はマイナーチェンジであったが,国会の審議において,図書館の制度そのものについてのレベルの高い討議が長時間行われたことは大きな成果であったと評価した。そして,図書館関係者が組織的に,また市民とともに活動すること,政治の仕組みを理解して行動することの必要性を認識する機会となったと振り返った。図書館関係者は中立を重んじると傍観者になりがちだが,自ら主体となって行動することが重要と述べた。
慶應義塾大学教授の糸賀雅児氏は,2008年から図書館総合展で開催している図書館政策フォーラムについて報告した。2010年のフォーラムでは,片山善博総務大臣をはじめとする元知事や現職知事をパネリストに迎え,「地域主権と図書館」についての議論が行われた。糸賀氏は,「地域主権」等に見られる政策課題に対し図書館が行政支援活動を行い,それが正当に評価されるならば,自治体の首長の図書館への認識が変わり,その結果図書館のプライオリティは高まるはずであるとの見解を示した。そしてそのためにこそアドヴォカシーが必要であると述べた。
今回のシンポジウムで講演者が口々に強調したのは,他業界や海外と協力し,戦略やツールを共有することの重要性である。その意味で,国内外から図書館関係者が集い意見交換を行った今回のシンポジウムは,意義の大きいものだったと言えよう。日本の図書館におけるアドヴォカシーが今後どのような展開を見せるのか,注目されるところである。
(調査及び立法考査局・伊藤 白)
Ref:
http://www.goethe.de/ins/jp/tok/ver/acv/bib/2010/ja6749451v.htm
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/kaientai/1288450.htm
http://www.ifla.org/en/bsla
CA1723
E1122