カレントアウェアネス-E

No.185 2010.12.16

 E1129

学術雑誌を電子媒体のみとするための課題と提言（英国）

　2010年11月，英国研究情報ネットワーク（RIN）は，「電子媒体のみの学術雑誌：課題を乗り越えて」（E-only scholarly journals: overcoming the barriers）と題するレポートを公開した。これは，RINや情報システム合同委員会（JISC），出版社協会等，英国の学術情報流通に関わる13を超える機関・団体が合同で行っている「学術コミュニケーションにおける変化」（Transitions in scholarly communications）をテーマとした研究プロジェクトの成果の一つである。このプロジェクトは，学術コミュニケーションにおける様々な技術的変化の本質とその意味，そしてそれぞれの変化の間の関係について明らかにすることを目的に掲げている。

　レポートでは，学術雑誌が紙媒体と電子媒体の双方で出版されているために，出版から利用までの各段階で余計なコストが発生しているとして，英国内では学術雑誌を電子媒体のみで提供することを各関係者に提案している。そして，その実現に向けた課題と課題克服のための提言をまとめている。

　レポートが最も重要な課題として指摘しているのは，出版社の価格設定方針と電子ジャーナルに対する付加価値税（VAT）である。具体的には，紙媒体と電子媒体をセットにして販売する出版社の価格設定方針が多いことと，紙媒体に対するVATが0％であるのに対して電子媒体に対するVATが17.5％という税制の実態である。そしてそのほかに，研究活動の様式や，いくつかの研究分野での紙媒体に対する根強い要望，電子ジャーナルの長期保存等も課題として挙げている。レポートでは，以上の課題を踏まえて，「図書館」「出版社」「購読代理店」「出版社と図書館双方」「アドヴォカシー」の5分野について提言を示している。ここではそれらの中から主に図書館に関連するものを紹介する。

• JISCと英国研究図書館コンソーシアム（RLUK），国立・大学図書館協会　（SCONUL）は，英国の大学図書館が団結して，電子ジャーナルの価格体系やその他ライセンス条件等に関する要件を声明として出すように促すべきである。
• 英国の継続教育・高等教育機関に代わって，電子ジャーナル等の調達業務，出版社・データベース事業者等との交渉・契約業務を代行するJISC Collectionsは，出版社の購読料金に関する詳細な情報提供に努めるべきである。
• 個々の大学が，学術雑誌の電子媒体のみへの移行によるコスト節減について確認するために役立つ実証データやツールに関する研究が行われるべきである。
• 学術雑誌を電子媒体でのみ提供することが，経済的にも他の面でも有益となることを図書館員が理解し，それを推進するのに役立つセミナーや資料が必要である。
• JISC Collectionsには，電子ジャーナルライセンスの一括購入モデルの検証を継続し，パッケージの一括購入が紙媒体の所蔵を減らすことにつながるかどうかを調査することが求められる。
• JISCは出版社，図書館，大学その他関連機関と共に，電子ジャーナルの分かりやすい料金体系の構築や，電子ジャーナルに対する付加価値税の改正のためのロビー活動の継続，電子ジャーナルの長期保存のための英国全体での明確な戦略の提示，現在紙媒体のみで発行している学術雑誌についてそのオンライン化を進める援助等を行うべきである。
• 出版社と図書館はそれぞれの代表機関を通じて，大学図書館員が学術雑誌を電子媒体のみで提供するよう移行することについて，教員や大学職員に対して説明するための支援を行うべきである。

　なお，プロジェクトでは，このレポートのほかにも，「（研究成果への）アクセスのギャップ」（Gaps in access），「研究論文へのアクセス向上のダイナミクス」（Dynamics of improving access to research papers），「学術コミュニケーションの未来」（Futures for scholarly communications）の3つの研究等を進めており，今後もその動向が注目される。

Ref:
http://www.rin.ac.uk/system/files/attachments/E-only_report_for_screen.pdf
http://www.rin.ac.uk/our-work/communicating-and-disseminating-research/transitions-scholarly-communications-portfolio-res