E2120 – 『リーガル・リサーチ』刊行15周年記念シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.366 2019.03.28

 

 E2120

『リーガル・リサーチ』刊行15周年記念シンポジウム<報告>

 

 2018年12月17日,成城大学(東京都世田谷区)で,ロー・ライブラリアン研究会主催『リーガル・リサーチ』刊行15周年記念シンポジウム(成城大学法学部現代法研究室共催,株式会社日本評論社・株式会社TKC後援)が開催された。『リーガル・リサーチ』は,2003年に日本評論社より刊行され,現在では第5版まで版を重ねる法情報の調べ方を網羅した定番ツールである。シンポジウムは,この刊行15周年という節目の年に,改めて『リーガル・リサーチ』の意義を問い直し,これからの法情報提供サービスのあり方やロー・ライブラリアンの育成について,ともに考えるために企画された。

 「第1部 講演の部」では,山本順一氏(桃山学院大学経営学部・経営学研究科教授)が「もめごととの付き合い方」と題し,公共図書館において法情報サービス(CA1723参照)に日夜奮闘するライブラリアンにとって,『リーガル・リサーチ』は座右の書とも言うべきレファレンスツールであることを紹介した。GoogleやAmazonが競争相手となっている現代の図書館においては,高度な専門性を持った人材が求められており,ロー・ライブラリアンには,信頼性の高い情報源を選択しながら,法情報を提供し,またその探し方を教えることにより,日常の様々なもめごとを抱える市民を支援する役割が期待されていることが述べられた。

 「第2部 トークの部」では,「著者3人『リーガル・リサーチ』を語る」と題し,著者のいしかわまりこ氏(元筑波大学ビジネス科学研究科企業法学/法曹専攻講師)・藤井康子氏(元大宮法科大学院大学図書館課長)・村井のり子氏(元國學院大学法科大学院准教授/ロー・ライブラリアン)が登壇し,監修者の指宿信氏(成城大学法学部教授)・齊藤正彰氏(北海道大学法学部教授)が聞き手となり,『リーガル・リサーチ』が出版されるに至った背景や経緯,原稿執筆で苦労したこと,出版後の展開等が明かされた。まず,出版の端緒として,1990年代後半に,学生向けの分かりやすい法情報調査ツールの出版を思い立った指宿氏が,「執筆者はライブラリアンがふさわしい」と考え,院生時代に院生と資料室員という関係で旧知だったいしかわ氏に声をかけ,さらにいしかわ氏が法律図書館連絡会等でともに活動していた藤井氏,村井氏を誘い,3人で分担執筆することになったことが紹介された。いずれの著者も本の執筆は初めてであったが,編集者や法学教員の助言を受け,またこれまでの法律専門図書館での勤務経験を結集して書き上げられたことが語られた。そして,時を同じくして司法制度改革が始まったことで,3氏は法科大学院のロー・ライブラリー立ち上げからその運営,さらにリーガル・リサーチ教育に携わるという『リーガル・リサーチ』を実践する機会にも恵まれたことが述べられた。

 山本氏の講演のなかで,米国における高度な専門性を持ったサブジェクト・ライブラリアンの存在について言及があったが,著者3氏は,法律専門図書館での勤務経験とこの本の執筆,さらにリーガル・リサーチ教育を通して自らの能力を高め続け,日本におけるロー・ライブラリアンというサブジェクト・ライブラリアンの道を切り開き,その課題と可能性を示してきたと言える。このようなロー・ライブラリアンの手によって執筆された『リーガル・リサーチ』は,大学図書館や公共図書館等様々な図書館において,法情報提供サービスの進展に大きな役割を果たしてきた。そして今回,この記念シンポジウムが開催され,著者・監修者をはじめ,様々な館種のライブラリアン,大学教員,書店・出版社・データベース会社等の企業関係者といった法情報関係者が一堂に集う機会となったことは,これからの法情報提供サービスに大きな意味を持つのではないだろうか。

成城大学法学資料室・金澤敬子

Ref:
http://www.seijo.ac.jp/events/jtmo42000000o2ss.html
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000010087367-00
http://www.kyorin-u.ac.jp/univ/faculty/general_policy/student/journal/pdf/2016vol32no2_01iwakuma.pdf
https://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027501869-00
CA1723