E2002 – 留学初年度の大学院生に必要な図書館の支援とは<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.342 2018.02.22

 

 E2002

留学初年度の大学院生に必要な図書館の支援とは<文献紹介>

 

Liz Cooper, Hilary Hughes. First-year international graduate students’ transition to using a United States university library. IFLA Journal. 2017, 43(4), p. 361-378.

   2008年に,日本政府が2020年を目途に30万人の留学生受入を目指す「留学生30万人計画」を策定して今年で10年を迎える。独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)による最新調査では,2017年5月現在の外国人留学生数は26万7,042人で,大学院留学生に限っても4万6,373人在籍し,策定時と比べ41.9%増加している。また,日本の高等教育機関への留学生の92%はアジア地域出身者が占めているという。増加する外国人留学生への大学図書館(以下,図書館)の対応状況だが,日本図書館協会(JLA)が2017年3月に刊行した報告書は,留学生を対象とした図書館のサービスの必要性は徐々に認識され他部局との連携が進みつつあるものの,具体的な実践や要望調査の積み重ねが不足していると指摘する(E1900参照)。

    一方,留学生受入大国で,2017年現在大学院留学生だけでも約39万人在籍している米国の図書館の状況はどうだろうか。本文献は,大学院留学生が新しい研究環境に馴染むために必要な図書館による支援について検討するために行われた,米・豪の図書館による調査プロジェクトの成果である。調査実施の背景には,米国の図書館でも,年々増加する外国人留学生の支援が大きな課題となっていることがある。

    調査は,2015年,カーネギー高等教育機関分類で「最高度の研究活動(R1)」に分類される,公立の米・ニューメキシコ大学(UNM)の留学初年度の大学院生を対象に,オンラインアンケート(61人)及び半構造化インタビュー(5人)により実施された。回答は,UNMの大学院留学生の構成を反映し,STEM分野を専攻し,南アジア系の言語を母語とする男性からのものが多くなっている。本文献は,調査結果を,図書館の利用方法,出身国の図書館との比較,図書館による学修支援,情報利用行動,研究能力,図書館への提言等に分けてまとめており,大学院留学生の情報利用行動・図書館利用等を理解するうえで参考となろう。本稿では,調査結果を受けて本文献が指摘する,UNMの大学院留学生への図書館サービス改善のための3つの提案を紹介する。

    1つ目は,出身国の図書館との違いを把握して支援することである。同大学の大学院留学生には,学術情報環境が整っていない新興国出身者が多く,Google Scholarでの検索や,他大学に留学する友人からの取り寄せ等で資料を入手する傾向がある。一方,図書館内での電子ジャーナルの利用,自宅からのデータベースへのアクセス,ILLサービスによる資料の取り寄せ等のサービスの存在を認識しておらず,折角の豊富な学術情報環境を活用できていない。レファレンスサービスに関しても,英語での会話能力への不安や,図書館の専門用語を知らないことから利用をためらい,また,サブジェクトライブラリアンの存在を知らない留学生の姿も浮かび上がる。本文献では,各種図書館サービスへの認知度を高め親しみを感じてもらうために,日常的に多様な方法で積極的に大学院留学生にアプローチすることを推奨している。

    2つ目は,米国の学術環境での成功に必須の技能を身に着けてもらうための支援である。多くの大学院留学生は,出身国で論文を執筆したり読んだりした経験がなく,文献の引用や著作権といった概念に遭遇したり,文献管理ツール等を使ったりした経験がない。本文献では,学習支援センターや留学生支援センターとの既存の連携を戦略的に発展させ,このような技能の習得を支援することを提案する。あわせて,大学院留学生の研究上の主な相談先で,文献調査を含めて研究方法を指導する教員と連携し,図書館サービスの改善に繋げることも提案している。

    3つ目は,「場としての図書館」の重要性である。大学院留学生は,図書館を,静かな学習環境は勿論,グループ学習のための設備が存在し,個人での購入が困難な情報機器やWi-Fi,ソフトウェアを利用できることから,研究を進めるための重要な場所と考えている。加えて,図書館は,留学生コミュニティーにとって重要な役割を果たしていると認識しており,他の図書館でも行われているように,グローバル教育センターと連携し,留学生による諸活動を支援・促進するプログラムを実施することを勧めている。

    日本の図書館でも,館内ツアーや講習会の実施,ウェブサイトや館内掲示の多言語化,日本文化や出身国関連の資料・情報を集めた図書コーナーの設置等,留学生を対象とした各種取組が行われている。一方で,学部留学生を含めたアンケート調査であるが,本文献で紹介された調査結果と同様,電子ジャーナル・データベース,ILL,レファレンスデスク,講習会,図書コーナー等の利用・参加の少なさや知名度の低さが言及され,図書館職員との会話への不安や,教科書の所蔵の少なさへの不満等も指摘されている。本文献での提案に即せば,京都大学附属図書館による,同大学の中国・韓国に続く留学生出身国上位3か国(インドネシア・タイ・ベトナム)の学習環境調査や,東北大学附属図書館による留学生コンシェルジュや24か国語によるベーシックガイドの整備(E1934参照),近畿大学アカデミックシアターによるインターナショナルラウンジの設置(E1959参照)等,積極的な取組も見られるようになってきている。今後も,国内外の各種取組や優良事例について着目していきたい。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://www.ifla.org/files/assets/hq/publications/ifla-journal/ifla-journal-43-4_2017.pdf
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/07/08080109.htm
http://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student_e/2017/index.html
http://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student_e/2017/__icsFiles/afieldfile/2018/02/02/data17.pdf
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1345878.htm
https://www.iie.org/Research-and-Insights/Open-Doors/Data/International-Students/Academic-Level
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I025370642-00
http://hdl.handle.net/10097/00104402
http://hdl.handle.net/2261/996
http://hdl.handle.net/10291/13430
http://hdl.handle.net/2241/121249
http://ir.lib.shimane-u.ac.jp/34836
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I028116085-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I025108588-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I025108665-00
E1900
E1934
E1959