E1934 – 東北大学附属図書館の24か国語ベーシックガイド整備事業

カレントアウェアネス-E

No.329 2017.07.27

 

 E1934

東北大学附属図書館の24か国語ベーシックガイド整備事業

 

 東北大学附属図書館(以下,当館)では,2017年3月に,留学生のための24か国語(中国語の簡体字・繁体字版を含め全25種類)による「図書館ベーシックガイド」(以下,ガイド)を整備した。この整備事業に着手する契機となったのは,「留学生には,(英語を母語とせず,かつ母語以外は不得手という学生がいるため)何でも英語で対応すればいいというものではない」という学習支援委員会での教員からの一言である。学習支援委員会とは,2016年4月に発足した,教員と図書館の協働による学生の総体的学習支援を推進する当館の委員会である。確かに,日本人の間では「英語=世界共通語」という公式がほぼ常識化しており,大学においてもグローバル人材育成というミッションの下に,英語習得が推奨されている。しかしこの発言は,これまで疑うことがあまりなかった英語万能観に対して「一喝」を加えたような瞬間であった。

 東北大学には,約2,000人の留学生が在学している。そのうち約半数の1,000人が中国語圏から来ている。また,最近増加傾向にあるのがインドネシア語圏からの留学生である。一方,英語圏からの留学生は全体の3%に満たない。正に,これが落とし穴であった。代表的な外国語とは,英・中・韓・独・仏というのが日本社会一般の常識のように思われるが,グローバルラーニング(国際的な学習)を支援する当館として,その認識では不十分であると改めて気づいた。その結果,当館における英語中心のグローバルラーニングサービスの姿勢を,見直す契機となった。

 そこで,多様な言語による図書館サービスを目指し,この事業を企画した。幸い学内経費である留学生施策充実経費を得ることができたため,既存の留学生コンシェルジュ(留学生サポートのため当館で採用している留学生)を含め,様々な国の留学生を翻訳スタッフとして採用することが可能となった。

 具体的な対象言語は,2016年度の本学留学生数の上位の母語24言語とした。スペイン語やアラビア語のように複数国にまたがって話される言語は,該当国の留学生数の合算で順位付けを行った。その結果,中国語(簡体字・繁体字),インドネシア・マレーシア語,韓国語,タイ語,ベトナム語,英語,ドイツ語,スペイン語,フランス語,ベンガル語,アラビア語,ヒンディー語,タガログ語,ロシア語,ポルトガル語,スウェーデン語,トルコ語,イタリア語,ウルドゥー語,モンゴル語,フィンランド語,ネパール語,ペルシャ語,ポーランド語(以上順位順)のガイドを作成した。

 翻訳スタッフは,本学留学生課の協力により,留学生メーリングリストで求人を告知し,応募の結果を当館に繋いでもらった。その際,留学生課には,英語とその他使用言語の能力を重視する求人であることを周知してもらった。その後,当館で面接を行い,条件を満たしていた学生・院生を採用とした。応募者は,「同じ国の留学生の役に立ちたい」「母語のことを本学の人々に知ってもらいたい」という熱い意気込みを持つ留学生がほとんどで,この翻訳業務にも熱心に取り組んでいた。

 翻訳作業方針は,既存の英語コンテンツを基準とし,それを各国語に翻訳する方式をとった。日本語能力の高い翻訳スタッフも多かったが,微妙なニュアンスは外国人には伝わりにくいため,英語からの翻訳が確実と考えた。また,英語版をテンプレートとして上書きすることで,共通の画像を利用し,レイアウト修正を最小限にとどめた。作業中のファイルは,オンライン上の共有フォルダに保存し一元管理した。翻訳開始時には,留学生へ図書館専門用語の英文解説や当館固有のサービスやエリア名称表現等の基本ルールを説明し,これ以外の質問には職員が随時対応した。翻訳チェック作業は,可能な限り翻訳スタッフ以外の留学生や教員等に依頼した。より完成度の高いガイドにするため,更新作業を随時行っている。

 公開は,冊子版とPDF版の2形態で行った。冊子版は,英語及び本学留学生数の上位の母語3言語(中,インドネシア・マレーシア,韓)をA5判フルカラー全28ページの小冊子として刊行し,留学生オリエンテーション会場や,学内の各図書館で配布している。PDF版は,当館英語版ウェブサイトから入手可能とした。また,このガイドを元にした多言語ガイダンス(中,韓,伊)を実施しているほか,留学生コンシェルジュデスク(留学生用利用案内・相談デスク)を訪れた新入留学生に母語のガイドを印刷提供している。今後は,新入留学生向けの図書館ガイダンスでの活用やオンラインでの図書館利用セルフラーニング教材作成も見据えたい。

 「国際水準の図書館」とは,英語で対応可能な図書館のことを示すのではなく,日本語に不慣れな留学生や外国人研究者でも,日本人利用者同様,図書館機能を十二分に活用できる状態にあるものを指すと考えている。そのため,本事業はこのガイドの活用を定着させることが最終的な目標となる。多言語による図書館サービスの一つとして,今回の試みが,本学の留学生・学生・(教員を含む)研究者に定着し,さらに,当館作成のガイドが,他の図書館でも活用され,学術研究のさらなるグローバル化への貢献ができれば幸いである。

東北大学附属図書館・村上康子,吉植庄栄,西村美雪

Ref:
http://www.library.tohoku.ac.jp/about/policy.pdf
http://www.library.tohoku.ac.jp/en/news/20170330_guide.html
http://www.library.tohoku.ac.jp/en/mainlibrary/guidance.html
https://tohoku.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=106987&item_no=1&page_id=33&block_id=38