カレントアウェアネス-E
No.504 2025.07.03
E2803
瀬戸内に「こども図書館船 ほんのもり号」就航!
香川県政策部地域活力推進課・滝本海翔(たきもとかいと)
●「ほんのもり号」就航まで
「こども図書館船 ほんのもり号」は、世界的建築家である安藤忠雄氏から、香川県に寄贈された小型船舶である。瀬戸内海で長く旅客船として活躍していた船を、安藤氏が子どもたちの図書室に改修したものである。「本は子どもたちの豊かな感受性や創造性を育むとともに、子どもの頃に瀬戸内海で思い出をつくれば、大きくなってから郷土愛となるはず。香川や瀬戸内海でしかできないことをやろう。」との安藤氏の呼びかけから、瀬戸内の島々で、子どもたちに無限の好奇心を刺激する本と体験を届ける「こども図書館船 ほんのもり号」のプロジェクトが始まった。
●「ほんのもり号」出航!
2025(令和7)年4月24日、天気は晴れ。ほんのもり号就航の日である。高松港で開催された就航記念式典の後、ほんのもり号は、寄贈者である安藤氏を乗せて男木島に向けて出港した。
ほんのもり号は19トンの小型船舶で、乗船定員は12人(12歳未満の子どもは24人まで乗船可)。市町によっては、公立図書館が運行する小型のトラックなどによる移動図書館車があるが、ほんのもり号は個人への貸出機能のない移動図書館の「船」版と言っても良いかもしれない。
階段を数段くだり、海面に近い船室には、絵本や児童書を中心に、5つのテーマに分けられた「せとうち」を連想する約2,000冊の本を収蔵した、淡い色調の木製の大きな本棚が船内いっぱいに優美に設置されている。その本棚の間からは、ガラス越しに波打つ海面とその先に広がる重なりあう島々を望むことができる。瀬戸内の海と船と本が一体となった、この船内の風景だけで、大人でもワクワクと気分が高揚するので、子どもならどれほどのものかと思料する。
高松港を出港して30分後、男木島では、男木小中学校の児童生徒や地域の皆さんに喜びをもって出迎えられた。子どもたちは早速乗船し、ほんのもり号での読書と、自分たちの住む男木島一周クルーズを楽しんだ。ニコニコと満面の笑顔でほんのもり号に乗り込み、甲板から大きな声で「行ってきまーす」と、岸で見送る人々に手を振る姿がとても印象的だった。
瀬戸内海の素晴らしい風景の中で本に親しむという、初めての体験が、子どもたちの心に残る良い思い出となることを願う。
●今後の展望
2025年度は、香川県内の離島などに約40回の運航を予定している。既に、10港に寄港し、島の保育所や小中学校による授業での活用や港近隣で開催されるイベント内で、親子で絵本を楽しむ時間や、クルーズやワークショップによって島や海に親しむ時間を提供するなどし、約800人がほんのもり号を楽しんだ(2025年6月16日時点)。利用した子どもからは、「見たことない絵本があって楽しかった」や「ほんのもり号でのクルーズが楽しかった」といった声が寄せられている。
また、離島の小学校等では、子どもたちと本棚をつくり、その本棚に収める本を、子どもたちが船内から選び、学校に貸し出す取り組みを実施している。これは、プロジェクトの目標の一つである、瀬戸内に本が広がり、本を介して、瀬戸内での思い出や人々のつながり等を生むことの第一歩として行っている。子どもたちがほんのもり号での読書や様々な体験を通じて、ふるさと瀬戸内をもっと好きになってもらいたいと思っている。
Ref: こども図書館船 ほんのもり号. https://www.honnomori-gou.com/ こども図書館船事業について. 香川県. 2025-01-21. https://www.pref.kagawa.lg.jp/chiiki/rito-kaso/kodomo-tosyokansenjigyou.html