E2121 – 米国議会図書館の新たな戦略計画

カレントアウェアネス-E

No.366 2019.03.28

 

 E2121

米国議会図書館の新たな戦略計画

 

●はじめに

 米国議会図書館(LC)は,2018年10月,2019年度から2023年度までを範囲とする新たな戦略計画「図書館体験を豊かにする」(Enriching the Library Experience;以下「新戦略計画」)を公表した。本稿ではその内容と特徴について概観してみたい。

●新戦略計画の背景

 今回の戦略計画策定を主導したのは,初の女性,初のアフリカ系米国人館長として2016年に就任したヘイデン(Carla D. Hayden)第14代館長である。ヘイデン館長は就任後,戦略計画の担当部署を館長直属に格上げし,2017年2月には「2025年を構想する(Envisioning 2025)」という検討体を設けて策定を進めてきた。実は,その前の戦略計画は2020年度までを期間とするものであったが,それを発展させるという形で期間の途中にしてこの新戦略計画ができあがった。

 新戦略計画公表に先立つ2018年8月には,LCのロゴといったビジュアルブランドも一新されている。前任のビリントン(James Billington)第13代館長の任期が28年の長きにわたったこともあり,一連の流れはLCの変化を印象付けるものになっている。

●新戦略計画の構成

 新戦略計画は大きく分けて,使命,ビジョン,統合的役割,進むべき方向性,目標の5つの要素から成っている。

 まず「使命」として,議会と国民に対して,普遍的で持続的な知識と創造の源を用いて「関与(engage)」し,「刺激(inspire)」し,「情報提供(inform)」することが掲げられている。

 次に「ビジョン」として,「すべての国民がLCにつながる」ことが目指されている。この「つながり(connected,connection)」という言葉は,新戦略計画における重要なキーワードである。

 「統合的役割」としては,普遍的なコレクションの構築・維持・提供という「記録」,信頼性のある客観的な調査・分析・情報の提供という「知識」,創造性への刺激と活気づけ・米国人創作者の活動の促進と支援という「想像」,の3つのキーワードが挙げられている。

 「進むべき方向性」としては,「利用者を中心にする」,「デジタルで可能にする」,「データで駆動する」の3点が記載されている。

 最後に「目標」として,「アクセスの拡大:利用者がいつでもどこでもどのようにでもLCの特色あるコレクション,専門家,サービスを利用できるようにする」,「サービスの向上:すべての利用者のために,LCとの生涯にわたるつながりを育むための価値ある体験を創出する」,「資源の最適化:LCの業務能力を現代化,強化,合理化する」,「インパクトの測定:外部世界に対するLCのインパクトを測定し,説得力のあるストーリーを分かち合うためにデータを活用する」の4点が掲げられている。

 以上,5つの要素について説明してきたが,各要素の関係について新戦略計画の中では明確には説明されていない。内容から推測するに,そもそものLCの設置根拠としての「使命」と将来的な姿としての「ビジョン」がまずあり,その下に5年間で実現すべき「目標」が位置し,どの目標の実現に際しても準拠すべき役割と方法がそれぞれ「統合的役割」と「進むべき方向性」として明記されているという形で整理できるだろう。LCの多様な業務を横断的・統合的にとらえようとする姿勢がうかがえる。

●新戦略計画の特徴

 その他に特徴的なポイントを3点挙げる。

・「利用者」と「利用」の重視
 「進むべき方向性」の1つとしても「利用者を中心にする」が掲げられているが,それを受けて「利用者」と「利用」が分析・細分化されている。すなわち「利用者」は「議会」,「創作者」,「学習者」,「仲介者(Connector;利用者とLCとをつなぐ団体や機関)」に類型化され,「利用」は「認知」,「発見」,「利用」,「つながり(Connection)」という連続体を構成するものとして整理されている。利用の最も進んだ形態である「つながり」は,単なる一回的な利用ではなく,それぞれの利用者がLCで個人として価値ある体験をしたという気持ちを保持できるようなものとして考えられている。この理念は,新戦略計画のタイトル「図書館体験を豊かにする」にもつながる。

・デジタル戦略の策定
 新戦略計画と同時に,それを補足する「デジタル戦略」も合わせて策定・公表された。デジタル戦略は「宝箱を開ける」,「つながる」,「未来に投資する」という3つの目標から成っており,デジタル化する世界の中で「すべての国民がLCにつながる」という新戦略計画のビジョンを実現するための指針として位置付けられている。館外からの資料等へのアクセス,障害者向けサービス,業務合理化,組織文化醸成といった幅広い分野でのデジタル技術の活用について触れられている。

・2023年度以降の構想
 冒頭で紹介した「2025年を構想する」という検討体の名称からもわかるとおり,新戦略計画は2023年度より後も含めた中長期的な視野の下で構想されている。文書の終盤には,各部局が新戦略計画に従って「計画指針」を作成し,それらをもとにした「実施ロードマップ」で毎年度の実績や進捗を管理し,次期の戦略計画策定に活用していくことが記されている。

総務部企画課・安井一徳

Ref:
https://www.loc.gov/item/prn-18-123
https://www.loc.gov/portals/static/strategic-plan/documents/LOC_Strat_Plan_2018.pdf
https://www.loc.gov/portals/static/digital-strategy/documents/Library-of-Congress-Digital-Strategy.pdf
https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2016/02/24/president-obama-announces-his-intent-nominate-carla-d-hayden-librarian
https://docs.house.gov/Committee/Calendar/ByEvent.aspx?EventID=106318
https://docs.house.gov/Committee/Calendar/ByEvent.aspx?EventID=108601
https://blogs.loc.gov/loc/2018/08/a-library-for-you/
https://www.loc.gov/portals/static/about/documents/library_congress_stratplan_2016-2020.pdf