カレントアウェアネス-E
No.183 2010.11.18
E1117
CLOCKSSへ日本の大学図書館が参加
2010年10月28日,CLOCKSSはウェブサイトに「日本の図書館コンソーシアム,CLOCKSSに参加」というニュースを発表した。
CLOCKSS(Controlled LOCKSS)とは,米国スタンフォード大学のLOCKSS(Lots of Copies Keep Stuff Safe;CA1597参照)の技術を活用した,世界規模の電子ジャーナルのアーカイブプロジェクトである。2008年から非営利組織として,図書館及び学術出版社による共同運営が行われている。プロジェクトに参加する学術出版社のコンテンツを網羅的・包括的に収集し,世界各地の12の大学図書館・学術機関(アーカイブノード)が保有するサーバ(アーカイブ)に分散保存することで,コンテンツのデータ劣化や天災等が発生した場合に想定され得るリスクを最小限に抑える仕組みとなっている。またCLOCKSSは,コンテンツの恒久的な保存が主目的で,通常の利用は前提としていないダーク・アーカイブであるが,「トリガーイベント」と呼ばれる事態(出版社の倒産,出版社によるバックナンバーの提供停止,自然災害等による物理的なアクセスの遮断など)が起こった場合には,その対象コンテンツにクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを付与し,オープンアクセスで世界中に公開する。現在は,“Graft: Organ and Cell Transplantation”,“Auto/Biography”,“Brief Treatment and Crisis Intervention”の3誌がCLOCKSSのサイトから提供されている。
今回,この国際的なプロジェクトへJANUL(国立大学図書館協会)コンソーシアムとPULC(公私立大学図書館コンソーシアム)が参画するに至った契機は,2009年2月に国立情報学研究所(NII)がCLOCKSSのアーカイブノード機関となったことにある。これ以降,NIIによる積極的なコーディネートのもと,CLOCKSS,JANULコンソーシアム,PULC,NII間で意見交換を重ね,2010年6月には,CLOCKSSからJANULコンソーシアムとPULCの両加盟館向けに特別参加料金の提案が出された。
この参加料金は,他のアーカイブプロジェクトと違い,アーカイブサービスを利用するための対価ではなく, CLOCKSSの活動を支援し,図書館が学術出版社と対等にアーカイブを運営していくための協賛金である。具体的には,参加図書館は支援図書館(Supporting Libraries)と呼ばれ,諮問委員会(Advisory Council)に議席を得て,理事会(Board of Directors)に助言することにより,アーカイブの運営に関与することができる。
各コンソーシアムは提案を受けて検討した結果,提示された加盟館向けの条件に合意し,2010年9月に各加盟館へその提案内容を公開した。
上述のとおり,トリガーイベントの対象となったコンテンツはオープンアクセスで公開され,誰もがCLOCKSSに保存されたコンテンツにアクセスできるため,図書館が参加料金を支払うことの意義が見えにくい印象もある。しかし,学術情報の保存を図書館が担うのは紙の時代から図書館に課せられた使命であることを思い起こせば,CLOCKSSコミュニティに参加し,主体的に電子コンテンツ保存の世界的ネットワーク構築に貢献していくことは,日本の大学図書館にとって大きな意味があると言える。例えば,参加図書館が,諮問委員会の立場で日本語コンテンツの保存をCLOCKSSへ働きかけることで,国内の電子コンテンツ保存へ向けた取り組みへ関与することも可能となろう。
今回のCLOCKSSからの提案では,プロジェクトへの参加は図書館レベルで個々に判断可能であり,既に複数の図書館(国立大学6館,私立大学4館)が参加を表明している。両コンソーシアムとNIIは,2010年10月13日に協定を結び,コンソーシアム連携組織として協力関係を深めていくこととなったが,CLOCKSSについても組織の活動内容に位置づけ,加盟館の参加を促し,関連の支援を行っていく予定である。
(東京大学附属図書館・守屋文葉)
Ref:
http://www.clockss.org/clockss/News
http://www.clockss.org/clockss/Home
http://www.clockss.org/clockss/Triggered_Content
http://www.nii.ac.jp/userimg/openhouse/2010/clockss2.pdf
http://www.nii.ac.jp/news/2010/1013/
CA1597