E1853 – 学生が求める図書館空間に関する調査(米国)<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.313 2016.10.20

 

 E1853

学生が求める図書館空間に関する調査(米国)<文献紹介>

 

Silas M. Oliveira. Space Preference at James White Library: What Students Really Want. The Journal of Academic Librarianship. 2016, 42(4), p. 355-367.

   来館しなくても利用可能なオンラインリソースが増大するなか,学生がどのような図書館空間を求めているかを知り,それに適合した図書館空間を構築することは大学図書館にとって喫緊の課題である。

   そのような認識のもと,米国ミシガン州にキャンパスを持つアンドリューズ大学のJames White Libraryは,学業で成功するために学生が図書館に求める空間についての調査を実施した。同調査は,近年,大学図書館界では,グループ学習を支援する環境を整備することが重視される一方で,米国,英国,カナダ,オーストラリア,オランダ等で行われた同種の先行調査では,学生は静かで集中して学習できる個人用スペースを好むという結果が出ていることを踏まえて,自館の学生の嗜好を確かめるために行なったものである。本稿で紹介する文献では,この調査の結果と得られた知見をまとめている。

●大学及び図書館の沿革・特徴
   最初に,大学と図書館の沿革や特徴について確認しておく。1874年創立のアンドリューズ大学は,US News & World Reportによる2017年版“America’s Best Colleges”において“National Universities”部門で全米183位にランクインした私立の総合大学である。約3,300人の学生と約250人の教員が在籍しており,92か国から885人の留学生が学んでいるなど,その国際性が大学の特徴となっている。James White Libraryは,1962年に,同大学の2つのコレクションを統合して開館したもので,現在75万冊以上の図書と2,800タイトルの逐次刊行物を所蔵している。

●調査方法
   調査は2014年度の第2学期に行なわれた。対象は学生及び大学院生で,単一の調査手法による偏りを避けるため,エスノグラフィー調査,定性調査,定量調査を組み合わせて実施している。

   空間デザインのワークショップ「デザインシャレット」の手法を用いたエスノグラフィー調査では,館内外で学習,交流していた学生から179人をランダムに選び,6つの図書館空間(閉じた個人学習エリア,オープンな個人学習エリア,閉じたグループ学習エリア,オープンなグループ学習エリア,ソーシャルスペース,対話型学習のためのスペース)を示すシンボルマークを提示し,どのように館内に配置したら良いか白紙の館内図にシンボルマークを並べて回答してもらった。その数を集計することで学生の空間嗜好を把握することが目的である。定性調査では,同じくランダムに選んだ学生へのフォーカスグループ・インタビュー(12グループ,65人)と,個人への半構造化インタビュー(96人)を実施している。定量調査では,コンピュータールーム,閲覧室,ラウンジ,個人用閲覧席,個人用学習室,グループ学習室,ランチルーム等を直接観察することで各エリアの利用状況を調査した。

●調査結果
   調査結果からは,全般的に,閉じた空間であれ,オープンな空間であれ,図書館に対して,個人で学習するための静かな空間を求める傾向が強いことが明らかになった。

   また,

  • 業績が重視される大学院生は,学部生よりも個人学習エリアを求める傾向が強く,また,ソーシャルスペースも好む。
  • 図書館の利用頻度が高い学生は個人学習エリアの利用を,利用頻度が低い学生はグループ学習エリアの利用を好む。
  • 館外で勉強している学生は,立地が良いにもかかわらず図書館に対して「遠さ」を感じており,交流の場としての機能が欠如していると認識している。
  • 個人用のパソコンを所有しているにもかかわらず,多くの学生はコンピュータやオンラインリソースを利用するために来館する。また,ランチルームの座席占有率が高い。

等の点が指摘されている。

●まとめ
   本調査では,学部生/大学院生の違いや,図書館の利用頻度の差により大学図書館に求める空間が異なることも明らかにされた。また,個人学習用のエリアを好む背景として,同大学のカリキュラムにおいてグループ学習が採用されていないことや,留学生が多いためにグループ学習が成り立ちにくいことを挙げている。そして,図書館空間を計画する際には,大学の特徴やカリキュラム内容への適合性,利用頻度が低い学生などの潜在的なニーズへの配慮が必要であると指摘している。さらに,図書館を利用しない学生が感じる「遠さ」の背景の1つに,図書館の雰囲気の悪さがあることから,快適な環境の整備の重要性についても言及している。

   2016年7月に文部科学省が公表した「教育の質的転換を図る多様な学修スペースの整備に関する事例」では,運営上の留意点の1つとして,「利用者や運営部門による整備計画への参画」をあげ,学生,教員,運営部門の学修スペース整備計画への参画の必要性を指摘している。本調査における学生ニーズの調査手法や知見は,図書館空間の検討に際し参考となるのではないだろうか。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://doi.org/10.1016/j.acalib.2016.05.009
https://www.andrews.edu/about/facts/
https://www.andrews.edu/services/imc/services/fastfacts_2015_10_21_imc.pdf
http://colleges.usnews.rankingsandreviews.com/best-colleges/andrews-university-2238
https://www.andrews.edu/library/about/about.html
http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/kokuritu/1373697.htm