カレントアウェアネス-E
No.298 2016.02.18
E1768
『図書館の意味:一つの文化史』<文献紹介>
Crawford, Alice ed. The Meaning of the Library: A Cultural History. Princeton University Press, 2015, 336p., ISBN 978-0-691-11639-1.
本書『図書館の意味:一つの文化史』は2012年の英国のセント・アンドルーズ大学(University of St Andrews)ジェームズ王図書館(King James Library)創立400周年にちなんで,2009年から2013年にかけて行われた12の連続講演をまとめたものである。この講演が行われた時期は,英国においては経済危機による公共図書館の分館の廃止が進み,また,技術革新による図書館・図書館員不要論が生まれた時期と符合する。ちなみに2012年はセント・アンドルーズ大学の創立600周年にも当たる。
本書の冒頭には,主催者であるセント・アンドルーズ大学図書館のA.クロフォードによる本書の意図及び各論考の詳しい紹介が置かれている。第1部「時代を通じた図書館」では,西欧を中心に,古代ギリシアとローマの図書館,中世の図書館のイメージ,ルネサンスの図書館と印刷,啓蒙期の図書館,18世紀の会員図書館,19世紀の図書館について,キングス・カレッジ・ロンドンのE.ホール,セント・アンドルーズ大学のD.アラン,ユニヴァーシティー・カレッジ・ロンドンのJ.サザランドなどが述べている。第2部「イマジネーションの中の図書館」では,詩,小説,映画といった文学・芸術作品における図書館について,セント・アンドルーズ大学のR.クロフォード,オックスフォード大学のL.マーカスなどの講演がまとめられている。第3部「現在と未来における図書館」では,現代作家の手稿と図書館やアーカイブの関わり,HathiTrust,図書館とグローバルな民主主義が,テキサス大学のS.エニス,イリノイ大学のJ.P.ウィルキンなどによって取りあげられている。
セント・アンドルーズ大学のA.ペティグリー,ハーバード大学のR.ダーントンを始めとする12人の講演者はいずれも英米の卓越した学者や図書館人であり,各論考は様々な時代の文明において機関としての図書館が持った意味と,現在と未来において図書館が持つ意味を描いている。全ての論考は,「図書館」を変わりゆく有機的な実体とみなし,あたかも万華鏡を通して見るような,図書館の多様なイメージを読者に与えている。本書は時代を追って図書館の発展を跡づけているので,通史のように見えるかもしれないが,図書館が何のために使われたのか,なぜ必要とされたのか,台頭した様々なコミュニティにどのような意味があったのかに焦点を当て,変わりゆく時代のそれぞれの文脈における図書館の姿を浮かび上がらせている。とはいえ,前米国議会図書館長のJ.H.ビリントンが最終章で記す「読書の場」としての図書館,「真実の探求の場」としての図書館は,いかなる図書館にも当てはまるものである。
最近,翻訳が刊行された,J.ポールフリーの“BiblioTech: Why Libraries Matter More Than Ever in the Age of Google.”が,インターネット時代の図書館の変革と未来像を提示しているとすれば,本書は文化史の立場から歴史的な側面,イマジネーションの側面,そして現在と未来の側面からの図書館の意味の読み直しといえるであろう。
秋田大学附属図書館・加藤信哉
Ref:
http://press.princeton.edu/titles/10442.html
http://www.st-andrews.ac.uk/libraryblog/2016/01/book-review-the-meaning-of-the-library/
https://www.st-andrews.ac.uk/library/contact/departmental/kingjames/
https://www.st-andrews.ac.uk/divinity/rt/kjl/
http://www.st-andrews.ac.uk/news/archive/2009/title,34064,en.php
http://www.basicbooks.com/full-details?isbn=9780465042999
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I027031385-00