E1791 – 欧州におけるCRISと機関リポジトリの連携の現状

カレントアウェアネス-E

No.302 2016.04.28

 

 E1791

欧州におけるCRISと機関リポジトリの連携の現状

 

 研究者総覧や業績データベースなど名称は様々だが,大学・研究機関等では所属研究者のプロフィールや業績をウェブサイトで公開するのが当然になってきている。このように「研究情報」を収集・分析・発信するシステムのことを一般に最新研究情報システム(Current Research Information System:CRIS)と呼ぶ。

 CRISは多様な研究情報を広くカバーしている一方,保持しているのはメタデータのみであることが多い。対照的に,機関リポジトリ(IR)は論文本文などのコンテンツも登載しているが,機関内の研究情報を網羅できておらず,業績データですら100%には程遠い。両者は連携によってお互いの欠点を補える関係であり,これまでも国内外で数々の実践が積み重ねられてきた。ただし,システムの担当部署が異なるなどの事情から,満足のいく連携にはしばしば困難を伴う。

 近年は研究機関におけるCRISとIRの戦略的重要性が増してきている。優れた研究成果を社会・企業へ迅速に還元し,イノベーションを促進することに対する要求が高まっており,オープンアクセス(OA),研究評価,研究助成に関するポリシー策定といった動向もその大きな要因となっている。このような状況のなか,CRISとIRのあり方に顕著な変化が見られる。例えば,IRの機能を持つCRISや,逆にデータモデルを拡張してCRISの機能を持つIRが出現している。従来のCRISとIRの間でも連携のかたちが多様化し,両者の機能を兼ね備えた新種のシステムも登場している。では,CRISはしだいにIRを置き換えつつあるのだろうか?これらのシステムは機能が重複しているのだろうか?

 これらの疑問に答えるために,欧州のEUNIS(European University Information Systems Organization)とeuroCRISが,各国におけるCRISとIRの現状についてアンケート調査を行った。euroCRISは欧州で普及しているCRISのメタデータフォーマットCERIF/XMLの管理を担う非営利団体である。調査は2015年4月~9月半ばにかけてオンラインで行われ,20か国から84の回答を得た。以下,2016年3月公表の調査報告書のなかからポイントとなる結果を紹介する。

●CRISおよびIRの導入状況
  • 62%(回答数52)がCRISとIRを併用し,そのうち18%(回答数9)がIRとCRISに同じソフトウェア(Elsevier社のPure,CINECA社のIRIS,独自開発のシステム,ノルウェーのCRIStinの順)を使っている。
  • CRISのみという回答が7,IRのみが25であった。
  • IRとCRISの導入数はともに増加傾向にあるが,CRISの伸びがより大きい。
●システムに登載している研究情報
  • CRIS(導入数59)は,出版物のメタデータ(81%),研究プロジェクト(76%),特許(58%)など多様な情報を登載している。
  • IR(導入数77)は,主に学術出版物本文(96%)および学位論文本文(86%)を登載し,教材(22%)やデータセット(18%)は少数派である。
●CRISとIRの相互運用性(連携)
  • CRISとIRを併用する機関のうち,63%でCRISとIRのリンク付けがなされ,両者は密接に関係していると認識されている。
  • 財務情報や人事情報などのレガシーなシステムとの連携については,IRよりもそれらの情報を含むCRISのほうが進んでいる。
●技術的標準・語彙
  • CRISでは,OAI-PMH(CA1513参照)(50%),CERIF(41%),ORCID(CA1740参照)(32%),Shibboleth(CA1736参照)(19%)などが導入されている。語彙についてはCASRAI(5%)やCORDIS(5%)が多くはないものの採用されている。
●CRISの担当部署
  • 機関によって状況は異なるが,ICT担当部署,図書館,研究・イノベーション担当部署が連携してそれぞれ重要な役割を果たしている。

 報告書では,調査結果(特にシステムに登載している研究情報の種類)を受けて,CRISとIRは補完的な関係であることが明らかになったとされ,前述の2つの疑問に対して否定的な結論を出している。

 ただし,回答数の少なさと国による偏り(7か国では回答数が1機関のみ。回答数上位5か国で全体の6割を超える)を鑑みると,本調査で多様な欧州の現状を把握できたとは言いがたいのではないだろうか。DRIS(CRISのダイレクトリ)に掲載済みのCRISからの回答や,2013年に同様の調査が行われたポルトガルの現状が十分に反映されていない可能性について言及されている点も気にかかる。また,現在はCRISとIRの併用が大半を占めるものの,CRIS導入数の伸びを考えると今後の趨勢は分からない。設問は用意されていなかったが,どちらかに統合したいと考えている機関はないのだろうかという疑問も湧く。ぜひ今後の継続的・網羅的な調査の実施を期待したい。

 日本においても,研究情報を網羅したCRISの整備や,CRISとIRの連携は重要な課題である。第5期科学技術基本計画でオープンサイエンスに関する国の基本姿勢が打ち出されたばかりだが,現在は研究情報が整備できていないため,例えば「日本の研究成果の○%をOAに」という数値目標を立てることが難しい状態にある。こういった問題の解消に向け,現在,筆者が協力員として参加している機関リポジトリ推進委員会では,researchmapとJAIRO Cloudの連携や,日本でも策定が始まっているOA方針(E1686参照)のモニタリングシステムの構築といった課題に取り組んでいるところである。

九州大学附属図書館eリソースサービス室・林豊

Ref:
https://www.coar-repositories.org/activities/repository-observatory/third-edition-ir-and-cris/
http://www.eunis.org/blog/2016/03/01/crisir-survey-report/
http://www.eunis.org/wp-content/uploads/2016/03/cris-report-ED.pdf
http://www.slideshare.net/LgiaMariaRibeiro/surveying-cri-ss-and-irs-across-europe-eunis15
http://www.eurocris.org/
http://eurocris.org/cerif/main-features-cerif
http://www.eurocris.org/activities/dris
http://www.nii.ac.jp/irp/event/2014/OA_summit/docs/2_02.pdf
http://www.nii.ac.jp/csi/openforum2015/doc/20150612_Cont_Hayashi.pdf
http://hdl.handle.net/2324/1566249
E1686
CA1513
CA1740
CA1736
CA1833