CA1833 - 大学の研究戦略支援業務を支える研究力分析ツール / 山野真裕, 鳥谷真佐子

PDFファイルはこちら

カレントアウェアネス
No.322 2014年12月20日

 

CA1833

 

大学の研究戦略支援業務を支える研究力分析ツール

 

東京大学 リサーチ・アドミニストレーター推進室:山野真裕(やまの まさひろ)
金沢大学 先端科学・イノベーション推進機構:鳥谷真佐子(とりや まさこ)

1. はじめに

 近年、日本の大学の研究力を測る取り組みが、国として本格的に行われている。研究力は、研究のアウトプットである論文生産の状況、および、研究を行うためのインプットである研究費や研究時間、支援体制の状況などから評価されている(1)。特に、発表された論文の引用関係から研究力を評価・分析するアプリケーションが急速に発展し、多くの大学で導入が進んできた。

 論文の質を測るために用いられるのが、論文の引用関係である。多くの論文から引用されていれば、その研究は、その後に行われた研究への影響が大きいものと捉えられる。また、論文共著の情報によって、国内外の機関をまたぐ共同研究の状況を見ることができる。

 大学では、研究推進部門や大学図書館の職員、また、研究マネジメントの専門職として近年配置されているリサーチ・アドミニストレーター(University Research Administrator: URA)などによって活用が進み、各大学の研究分野の強みや国際共同研究の状況などの分析が行われている(2)(3)

 本稿では、大学の研究戦略の立案支援や研究開発の現場で用いられている、主な研究力分析ツールを取り上げて比較し、その特徴を紹介する。

 

2. 研究力分析ツールの概観

 現在、日本の大学で導入されている主な研究力分析ツールは、トムソン・ロイター社およびエルゼビア社によって提供されており、表1のように位置付けられる。研究評価・分析のための様々な機能を提供するInCitesやSciValを用いることによって、大学や組織の強みや比較、共同研究の状況などの研究力分析を行うことができる。また、プロファイリングの機能を提供するConverisやPureを用いることによって、所属する研究者ごとの論文情報や業績、プロフィールなどを統合して管理・公開することができる。なお、これらのツールは、それぞれの提供者の抄録・引用文献データベースWeb of ScienceやScopusをデータソースとして活用している。

表 1.主な研究力分析ツールの位置付け
機能 \ 提供者トムソン・ロイター社エルゼビア社
研究評価・分析ツールInCitesSciVal
プロファイリングツールConverisPure
抄録・引用文献データベースWeb of ScienceScopus
表 2.研究力評価・分析ツールの比較
提供者
製品名
 トムソン・ロイター社
InCites NEXT GENERATION
エルゼビア社
SciVal
データソース抄録・引用文献データベースWeb of Science Core CollectionScopus
出版社数3,500以上5,000以上
雑誌数12,000誌以上21,000誌以上
日本国内ジャーナル250誌以上400誌以上
引用情報1900年以降1996年以降
主なジャーナル分類22分野、251小分野27分野、307小分野
製品の仕様等提供形態WebベースWebベース
アクセス権ユーザー数契約による制限なし
データ更新頻度2ヶ月に1回毎週
分析対象国・地域約230約220
大学・研究機関約4,600約4,600
学内組織学内組織別分析が可能Pureと連動した学内組織別分析が可能
個人世界中の研究者の分析世界中の研究者(Author Profile)の分析
分析対象の選択上記の、国・地域、大学・研究機関、個人の間で同時に比較可能上記の、国・地域、大学・研究機関、学内組織、個人の間で同時に比較可能
対象期間2004年以降1996年以降
ベンチマーク機能の主な分析指標論文数Web of Science DocumentsScholarly Output
被引用数Times CitedCitation Count
引用されている論文の比率% Documents CitedCited Publications
論文あたりの平均被引用数Citation impactCitations per Publication
標準化された被引用度Impact Relative to WorldField-Weighted Citation Impact
引用された国の数Numbers of Countries CitedNumber of Citing Countries
高被引用論文分野・年ごとのTop 1%, 10%について、それぞれ率で表示Top 1%, 5%, 10%, 25%について、それぞれ論文数・率で表示
国際共著論文等国際共著論文について、論文数・率、及び被引用数を表示国際/国内/機関内/単著について、論文数・率、及び平均被引用数を表示
産学共著論文論文数、被引用数、被引用数/論文数、被引用論文率を表示論文数・率、及び平均被引用数を表示
学際性等に関する指標Disciplinarity Index, Interdisciplinarity IndexCompetency(大学の強み)分析のScience Mapで可視化
2次引用に関する指標2nd Generation Citations 
h-indexh-indexh-indices(h-index, g-index, m-index)
自己引用に関する指標% Self Citation"Exclude self-citations"オプション
ジャーナル指標Impact Factor, QuatileSNIP, SJR
その他の主な機能大学ランキングへの対応・THE世界大学ランキングに使用された大学のプロフィールデータを収録(Institutional Profiles Data) 
その他の分析手法・世界トップ1%機関(ESI)収録有無(ESI Ranked)
・ニュース・Web情報に基づく分析
・共引用分析による大学のCompetency(強み領域)分析
・研究機関同士のコラボレーション分析
主なカスタマイズ機能・研究者グループ・部局の作成
・論文リストのアップロード
・研究者グループ・部局の作成
・論文リストのアップロード

出典:各社提供資料
Thomson Reuters, InCites Indicators Handbook, 2014.
Elsevier B.V., SciVal Metrics Guidebook Version 1.01, 2014. および、各社へのヒヤリングに基づき作成(2014年9月現在)

 主な分析指標に着目して2つの研究評価・分析ツールを比較したものが、表2である。指標の表現の仕方は提供者によって異なるが、(1)論文数などの生産性、(2)被引用数などの影響力、(3)国際・産学共著などのコラボレーション、(4)高被引用論文などの優位性、(5)論文数と被引用数から算出されるh指数(h-index)、といった指標が、共通して採用されている。これらの指標が、一般的によく参照される、研究力分析の軸となっているところである。

 実際にこれらのツールを使用するとわかるが、ユーザーインターフェースが全く異なり、指標のグラフ化などを行う際にそれぞれの特徴が出る。

 

3. 主な研究評価・分析ツールの特徴

3.1 InCites NEXT GENERATION

 2014年7月に、(1)InCites、(2)ESI(Essential Science Indicators)、(3)JCR(Journal Citation Reports)の3つの機能を統合した新たな研究評価・分析プラットフォームInCites NEXT GENERATIONが公開された。これら3つの機能は、もともと別々の分析ツールとして提供されていたが、統合により複合的な分析が可能となっている。

図 説明

図 1.InCitesによる大学の研究パフォーマンス分析の例

(1)InCites:学術情報に基づく総合的な研究評価・分析ツール

 学術文献データベースWeb of Scienceに収録された文献情報を基に、研究者単位、機関単位、国単位また分野ごとなどの様々なレベルで、研究成果に関するデータを取得し、ランキング分析・共著論文分析などを行うことができる。図 1のように、論文数や被引用度の年次推移などのデータは、自動的にグラフ化される。ダッシュボードと呼ばれる表示機能を用いて、任意のグラフ、データなどの情報を一画面上に保存し、比較分析作業を行うことができる。また、次のESIとJCRの機能を用いた統合的な分析を行うためのプラットフォームの役割を、InCitesが果たしている。

(2)ESI:高被引用論文に基づく研究評価ツール

 ESI単独では、高被引用論文情報に基づき、国や機関を対象としたランキング分析などの研究評価を行うことができる。InCitesはESIの機能も含んだ統合的な分析を行う。

(3)JCR:学術雑誌の評価を把握するためのツール

 学術雑誌を対象として、研究分野や国、出版社などの区分ごとに、総被引用数、インパクトファクターなどの指標によりランク付けすることができ、その雑誌が当該分野でどの程度の位置付けであるのかなどの判断材料を得ることができる。

3.2 Converis

 Converisは、プレ・アワードおよびポスト・アワード(4)のマネジメントモジュールを有する研究マネジメントシステム(5)であり、機関内の他のシステムとの連携が出来るなどの特徴がある。その機能の一つとして、研究者個人・学部・機関のパフォーマンスを把握するプロファイリングツールがある。

 欧州では、大学内のプロジェクト申請や進捗管理での利用が進んでいる。日本では、InCitesとの統合後、2015年に提供開始が予定されている。

3.3 SciVal

 SciValでは、次の3つのモジュールを活用して、様々な角度からの分析結果を、グラフ化、ビジュアル化して示すことができる。

(1)Overview:研究パフォーマンスを多角的に分析するためのツール

 大学などの研究機関や国・地域の研究パフォーマンスの概要を捉えることができる。また、特定の研究チームや研究領域を設定して分析することが可能であり、高い自由度を有する。

(2)Benchmarking:研究力を相対的に把握するためのツール

 国・地域、研究機関、研究チーム、研究領域について、様々な分析指標を使って自機関の研究力を相対的に捉えることができる。英国のトップ8大学が合意して設定された研究評価のための指標であるSnowballメトリクス(6)を含む(7)

(3)Collaboration:共同研究を戦略的に支援するためのツール

 論文の共著関係に基づいて共同研究状況を捉えることができる。また、将来の共同研究候補を探るための情報収集が可能である。

 図2は、Overviewの中の分析機能の一つであるCompetencies(8)を用いて、共引用分析によって機関全体の強みのある研究領域を可視化(9)した例である。これは、成長性の高い新たな研究領域を視覚的に探索できるSciValの特徴的な機能の一つである。

図 説明

図 2. SciValによるCompetenciesの分析結果例

3.4 Pure

 Pureは、研究マネジメントシステムであり、モジュールの一つとして、研究者個人の研究パフォーマンスを把握するためのプロファイリングツール(旧SciVal Experts)が提供されている。大学が提出する研究者のリストに沿って、組織情報の設定および名寄せが行われ、専用のウェブサイトから組織別に整理された研究者情報にアクセスすることができる。論文情報に基づき、研究者ごとに、類似の分野の研究者や共著者、共著のある研究機関などの情報が集約される。論文及び被引用データは、Scopusに基づいて、Pure側で毎週更新される。また、著作物や特許などの情報登録機能の利用や、学外への公開・非公開を選択でき、研究者各人の業績を共通のプラットフォーム上で公表するという使い方が可能となる。

 例えば英国では、国による大学評価フレームワーク(Research Excellence Framework: REF)に対応するために、大学でのPureの導入が進んでいる。

 

4.おわりに

 本稿では、多くの大学で導入が進んできた、主な研究力分析ツールを紹介した。それぞれのツールの特徴を考慮して、目的に応じて活用することで、分析の幅が広がる。例えば、SciValによる大学の強みの可視化(10)や、InCitesによる学際的な状況の数値的分析(11)など、大学での取組事例が見られる。

 研究力分析ツールは過渡期にあり、本稿で見てきた2社が提供するツールも、高頻度でバージョンアップが進められている。提供者側には、機能面の拡充だけではなく、ユーザーが利用しやすいインターフェースを備えているかという点が求められている。一方、これらのツールは多機能であるがゆえ、ユーザー側には、研究力分析のための利用技術の習得が求められている。

 今回紹介したツールで扱える研究力分析の内容としては、現状では、データソースに含まれる論文引用関係を中心とした研究のアウトプットに限定される。従って、データソースに含まれない多くの日本語文献は、評価の対象にならないという問題があり、特に文系の研究力のベンチマーキングは限定的である。また、今後は、研究がイノベーションにつながったかという視点や、投入した研究リソースと成果の関係も着目される。ユーザー会での意見交換でも、ファンディング・エージェンシー(助成機関)の視点で、資金を重点的に配分すべき研究分野を探索できる環境を求める声とともに、各研究者の資金配分状況や、論文を生み出した研究活動で活用された研究資金の情報を集約することで、インプットとアウトプットを総合的に把握できる環境を期待する声が挙げられている。 現在は、提供者側からのツールの提案を受けた初期の段階と言える。有益な研究力分析の環境作りのためには、今後も引き続き、大学やファンディング・エージェンシー等のユーザー側からの知見をフィードバックし、率直な意見を発信していくことが必要であろう。

 

謝辞

 本稿の執筆にあたり、多大なご協力を頂きました、トムソン・ロイター社の広瀬容子氏、古林奈保子氏、エルゼビア社の福成洋氏、柿田佳子氏に、心より感謝申し上げます。

 

(1) 文部科学省 科学技術政策研究所. 日本の大学における研究力の現状と課題(Ver.2), NISTEPブックレット-1. 2013, 30p.
http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-booklet01.pdf, (参照 2014-11-7).

(2) 鳥谷真佐子. リサーチ・アドミニストレーターと図書館の研究情報資源. 情報管理. 2014, 57(3), p. 193-195.

(3) 三輪唆矢佳 ほか. エビデンスデータを活用した研究力強化と競争時代の研究大学のありかた. 情報管理. 2014, 56(12), p. 833-841.

(4) プレ・アワードとは、研究予算を獲得する前の申請のプロセス。ポスト・アワードとは、予算獲得後の進捗管理のプロセス。

(5) 研究の予算申請から進捗管理、評価対応までのプロセス全体のマネジメントを支援するシステム。

(6) 大学間の研究業績の比較に共通して必要と考えられる評価指標を定義している。研究活動のインプット、プロセス、アウトプットの観点から、指標が選ばれている。
“Snowball Metrics”.
http://www.snowballmetrics.com/, (accessed 2014-11-7).

(7) 福成洋. 研究戦略のための計量書誌学の実践的活用と応用. 情報管理. 2014, 57(6), p. 376-386.

(8) 従来は「SciVal Spotlight」として提供されていたものが、SciValの機能「Competencies」として組み込まれた。

(9) 石川剛生. SciVal Spotlight(サイバル・スポットライト)戦略的な研究活動計画の策定を支援するソリューション. 情報の科学と技術. 2009, 59(7), p. 356-362.

(10) 市古みどり. 研究支援と大学図書館(員). MediaNet. 2013, (20), p. 25-28.

(11) 山野真裕. 学際研究進展と大学組織改革の相互作用―東京大学における学際研究教育とURA 配置の事例―. 研究技術計画. 2014, (29), p. 132-143.

 

[受理:2014-11-18]

 


山野真裕, 鳥谷真佐子. 大学の研究戦略支援業務を支える研究力分析ツール. カレントアウェアネス. 2014, (322), CA1833, p. 1-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1833

Yamano Masahiro.
Toriya Masako.
Overview of Research Evaluation Tools for University Strategy.