1 はじめに
この章では、今回の調査研究における質問紙調査の結果の概要を、過去に日本図書館協会が実施した障害者サービスに関する調査との比較を交えながら紹介する。比較に当たっては、『障害者サービスの今をみる』1)『図書館が変わる』2)『「図書館利用に障害のある人々へのサービス」全国調査報告書 1998年調査』3)を参考にした。紙幅の関係から全回答への分析ではないことをお断りしておく。
2 施設や設備
障害者に関する設備については、2005年調査と比較して障害者用トイレ設置率2,297館(80.8%)が1,920館(84.5%)に、障害者用駐車場の1,571館(55.3%)が1,556館(68.5%)になるなど、館数としては減じているが割合で増加した。緊急用点滅ランプのみ435館(15.3%)から168館(7.4%)と減少した。障害者サービスを実施しているかどうかの設問で、実施していない理由の回答例を見ると、建物が古く財政状況などから障害者に関する設備が整備できないという記入もある。
ホームページでの障害者への配慮を尋ねた設問への回答では、どの項目においても増加が見られる。高齢者・障害者等配慮設計指針であるJIS X 83414)が2004年に制定されたことに伴う変化ではないだろうか。具体的には、2005年調査との比較で、弱視者等のために文字の色や大きさ、背景色等に配慮しているが168館(5.9%)から495館(21.8%)に、ページ作りをシンプルにして誰もが使えるように配慮しているが425館(14.9%)から558館(24.6%)になった。一方、特に対応していない館も758館(33.4%)となっている。
3 障害者サービス実施状況
何らかの障害者サービスを実施している館の割合は、第1章の表1-1のように、2005年調査に比べて10ポイント増加し、66.2%となった。
調査票返送件数 | 障害者サービス実施数 | 障害者サービス実施率 | |
都道府県立図書館 | 53 | 49 | 92.5% |
政令指定都市立図書館 | 251 | 211 | 84.1% |
その他市区立図書館 | 1,554 | 1,016 | 65.4% |
町村立図書館 | 401 | 222 | 55.4% |
私立図書館 | 13 | 5 | 38.5% |
設置母体別にみると、都道府県立では92.5%がサービスを行っている。以下、政令指定都市は84.1%、区市立で65.4%、町村立では55.4%、私立で38.5%と、設置母体の規模が大きいほど実施率も高い。他方、障害者サービスを行っていない理由としては、施設・設備・人員・資料・予算等が不十分で対応できない、要望がない、他機関(点字図書館等)で行っている等の回答が目立つ。
1998年 | 2010年 | |||||
実施館 | 実績館 | 割合 | 実施館 | 実施率 | 割合 | |
対面朗読 | 487 | 223 | 45.8% | 591 | 287 | 48.6% |
図書・視聴覚資料の郵送 | 587 | 221 | 37.6% | 432 | 173 | 40.0% |
録音・点字資料の郵送 | 479 | 216 | 45.1% | |||
宅配 | 421 | 180 | 42.8% | 353 | 226 | 64.0% |
対面朗読など4項目で今回の調査と1998年調査の実施館数と実績館数(実施館のうち利用実績のある館)を示したのが表3-2であるが、1998年調査の対面朗読の実績館は実施時間を記入した館数で、対面朗読以外は貸出実績が1以上の館数である。また、今回の調査の実績館は利用者数1以上の館数である。(1998年調査では、図書・視聴覚資料の郵送、録音・点字資料の郵送を区分していない。)
今回の調査結果を見ると、障害者サービス用資料の来館貸出はサービス実施館1,503館の9割近くが実施しており、最も多い。2番目に多いのは対面朗読の591館(39.3%)で、点字・録音資料の郵送貸出は479館(31.9%)である。宅配の実施館は353館(23.5%)と少なめだが、実績館の割合は64.0%と他のサービスよりも高く、よく利用されていると言える。
2010年 | |||
実施館 | 利用者0の館 | 割合 | |
対面朗読 | 591 | 221 | 37.4% |
図書・視聴覚資料の郵送貸出 | 432 | 141 | 32.6% |
録音・点字資料の郵送貸出 | 479 | 115 | 24.0% |
宅配 | 353 | 64 | 18.1% |
対面朗読など4項目において、制度はあるが利用者0の館の割合を見ると、対面朗読が37.4%(221館)、図書資料・視聴覚資料の郵送貸出32.6%(141館)、録音・点字資料の郵送貸出24.0%(115館)、宅配18.1%(64館)となっている。対面朗読、図書資料・視聴覚資料の郵送貸出の利用者0の館の割合は比較的高く、せっかくの制度が利用されない原因を探り、利用を延ばす方策が求められる。
4 障害者サービスの利用者
障害者サービスの実施館が多くなったにもかかわらず、利用者数を回答した館は減少している。利用者のうち視覚障害者を例に取ると、2005年調査での回答数が676館だったのが、今回の調査では373館となっている。システム上で集計できない、利用者のプライバシーに配慮等の理由が推測される。その一方でニーズがつかめていないためサービスできないといった記入があることから、どのように利用者やニーズを把握しサービスを実施してよいか戸惑っている様子も見受けられる。
5 著作権法改正やガイドラインに合わせたサービス等の検討
著作権法の改正やガイドライン5)に合わせて新たなサービス等について検討しているかについては、障害者サービス実施館1,503館のうち、「すでに新しいサービス・利用者の拡大などを行っている」と回答したのが55館(3.7%)、「検討している・検討予定である」が536館(35.7%)、「以前から幅広い利用者へのサービスを実施しているので検討の必要がない」が93館(6.2%)となっており、法改正に何らかの対応が行われている図書館は684館(45.5%)となっている。一方、「検討の予定はない」が353館(23.5%)、「著作権法の改正についてよく知らない」が60館(4.0%)ある。著作権法についての理解の普及が課題でもある。「検討の予定はない」の理由の自由記入を見ると、ここでも職員や予算の不足、要望がない、という回答が目に付く。
6 対面朗読
1976年 | 1981年 | 1989年 | 1998年 | 2010年 | |
対面朗読実施館数 | 10 | 85 | 133 | 487 | 591 |
対面朗読の実施館数は1976年には10館だったものが、今回の調査では591館となった。1998年調査の487館からみても104館増加している。
約9割の図書館は対面朗読を図書館で実施している。利用者のほとんどは視覚障害者であるが、聴覚障害者や肢体不自由者、知的障害者等への対面朗読も少ないながら実施されている。
対面朗読の利用条件を活字による読書に障害のある人すべてを対象としている館が591館の約半数の284館ある一方、障害者手帳所持を条件としているのが152館と、4分の1の館が手帳所持を条件としている。著作権法改正に伴い対象者を広げていく必要がある。利用者0が221館(37.4%)あるというのも残念な数字である。
7 資料の個人貸出の実施状況
貸出タイトル数 (巻点数は含めない) | 0 | 1-200 | 201-400 | 401-600 | 601-800 | 801-1,000 | 1,001以上 |
録音図書(テープ版) | 107館 | 154館 | 38館 | 14館 | 11館 | 4館 | 27館 |
録音図書(DAISY版) | 84館 | 89館 | 20館 | 9館 | 9館 | 3館 | 16館 |
点字図書(冊子体) | 166館 | 138館 | 5館 | 1館 | 0館 | 0館 | 0館 |
点字絵本 | 78館 | 120館 | 2館 | 0館 | 1館 | 0館 | 0館 |
大活字本 | 45館 | 89館 | 23館 | 9館 | 7館 | 6館 | 33館 |
録音図書、点字図書、大活字本とも1館あたりの貸出数は0タイトルと1-200タイトルにピークがあり、数字が多くなるにつれ減少しているが、1,001タイトル以上でまた増加している。利用が極端に多い館とそうでない館で二極化している。大活字本は図書館資料としての定着を見せ、1,001タイトル以上の貸出のある館も33館となっている。
8 図書館間の相互貸借(貸出)
1998年 | 2010年 | |
録音図書(テープ版) | 91 | 357 |
録音図書(DAISY版) | ※ | 201 |
録音雑誌(テープ版) | 26 | 145 |
録音雑誌(DAISY版) | ※ | 109 |
点字図書(冊子体) | 35 | 413 |
点字図書(データ) | ※ | 47 |
点字雑誌(冊子体) | 5 | 189 |
点字雑誌(データ) | ※ | 35 |
点字絵本 | 5 | 437 |
マルチメディアDAISY | ※ | 56 |
大活字本 | 8 | 994 |
拡大写本 | 6 | 93 |
さわる絵本・布の絵本 | 6 | 281 |
やさしく読める図書 | ※ | 105 |
障害者用字幕手話入りビデオ | 0 | 53 |
自館蔵書だけでは十分な資料提供ができないため、相互貸借は重要な資料提供方法のひとつであるが、今回の調査で非常に盛んになっている様子が見て取れる。
かつては、各図書館で目録を交換するなどして細々と行っていた相互貸借だが、1982年に出版が始まった国立国会図書館の『点字図書・録音図書全国総合目録』(現在はWebで公開)やサピエ(旧ないーぶネット)などが整備されてきたことが大きかったと思われる。
9 郵送や宅配での経費負担
郵送や宅配での費用負担については、往復とも図書館が費用負担をしている館(利用者の負担なし)が27.8%ある一方で、片道あるいは往復とも利用者が負担している館が合計で87館(10.3%)あった。また、経費がかかるようなサービスは実施していないという回答が361館(42.8%)と、回答の半数近くを占めている。著作権法改正により拡大したサービス対象者への貸出方法も含め、来館できない利用者への資料の届け方が課題である。障害者手帳1、2級所持者は無料、宅配は庁用車で実施するなど、図書館側の対応もそれぞれに工夫して行っているが、郵便制度の改正を求めていくことも視野に入れて解決していく必要がある。
10 障害者向け資料の所蔵・製作の状況
1998年 | 2005年 | 2010年 | ||
録音図書(テープ版) | 館数(タイトル数) | 399(152,994) | 423(180,617) | 355(224,374) |
館数(巻点数) 注1) | 498(662,494) | 440(776,266) | 107(127,936) | |
録音図書(DAISY版) | 館数(タイトル数) | ※ | 67(10,367) | 123(19,881) |
館数(巻点数) | ※ | 64(12,970) | 17(2,514) | |
点字図書(冊子体) | 館数(タイトル数) | 359 (69,285) | 644(99,827) | 340(73,616) |
館数(巻点数) | 500(287,145) | 705(314,008) | 150(84,782) | |
マルチメディアDAISY | 館数(タイトル数) | ※ | ※ | 20(2,022) |
大活字本 | 館数(タイトル数) | 599(134,423) | ※ | 519(266,632) |
録音図書(テープ版)と点字図書(冊子体)の所蔵館は過去の調査に比べて減少している。代わって録音図書(DAISY版)の所蔵館が増加している。また、貸出冊数や利用のところでも見られた傾向だが、蔵書においても大活字本の所蔵冊数が増加している。
1998年 | 2005年 | 2010年 | (参考)今回調査の 製作館/所蔵館 | |
録音図書(テープ版) | 162 | 165 | 148 | 41.7% |
録音図書(DAISY版) | ※ | 28 | 77 | 62.6% |
録音雑誌(テープ版) | 65 | 21 | 44 | 53.7% |
録音雑誌(DAISY版) | ※ | 1 | 12 | 41.4% |
点字図書(冊子体) | 73 | 69 | 51 | 15.0% |
点字雑誌(冊子体) | 11 | 2 | 5 | 3.0% |
字幕・手話入りビデオ・DVD | 2 | 0 | 2 | 2.2% |
マルチメディアDAISY | ※ | ※ | 0 | 0.0% |
拡大写本 | 15 | 7 | 10 | 38.5% |
さわる絵本・布の絵本 | 49 | 54 | 75 | 26.0% |
資料製作館は、DAISYでの図書・雑誌やさわる絵本・布の絵本で顕著に増加している。しかし、録音図書(テープ版)では、1976年24館、1981年102館、1989年140館、1998年162館と増えていたが、2005年165館でほぼ横這いとなり、2010年は148館に減少した。これは、DAISYへの移行が関係していると思われる。また、点字図書の製作館も減少した。
11 病院・施設・学校へのサービス
病院・施設・学校等へのサービスはかなり実施されており、施設等での資料貸出以外のサービスについての自由回答の設問でも、多くの事例が記入されている。
学校だけでなく、養護老人ホームなど地域のさまざまな施設への、リサイクル資料の提供やおはなし会といったサービスが実施されている。
12 障害者サービス全般について
障害者サービスについて自由に書いてもらった設問への回答からは、予算・人員・利用者対応で苦慮している様子がうかがえた。また、ニーズの把握ができないため、サービスをしたいのだが何をしてよいかわからない館もある。希望があったら柔軟に対応したサービスを実施するとの記入もあり、利用者にとってはよいことであるが、制度が無いということは担当がかわったらサービスの継続が危ういという面がある。
都道府県立図書館の市町村支援として、サービスの普及が図られるよう研修等の必要性を感じる。その際は、個々のサービスについてだけでなく、ニーズ把握の方法や利用者への浸透をはかる方策についても研修が必要かもしれない。
注1)巻点数については、統計をどう取るかが課題である。例えば、1冊の印刷された本をテープ図書や点字図書にする場合、短めの小説でカセットにして6巻程度、点字にして3分冊等になる。印刷された本と同じ1冊で統計処理する館と、カセットの本数や点字の分冊数で行われる館が混在し、全国的な統計を取る際の不一致をどうするのかが問題である。(今回の調査ではタイトル数が分かる場合は巻点数の記入は不要としたため、巻点数の欄は、巻点数のみを回答した館の数値である。)
1) 日本図書館協会障害者サービス委員会編. 障害者サービスの今をみる: 2005年障害者サービス全国実態調査(一次)報告書. 日本図書館協会, 2006, 22, 37, 11p.
2) 日本図書館協会障害者サービス委員会編.図書館が変わる: 1998年公共図書館の利用に障害のある人々へのサービス調査報告書. 日本図書館協会, 2001, 127p.
3) 日本図書館協会障害者サービス委員会編.「図書館利用に障害のある人々へのサービス」全国調査報告書 1998年調査. 日本図書館協会, 1999, 29p.
4) JIS X 8341-3:2004. 高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ.
なお、同規格は、2010年8月に改訂が行われている。
5) 国公私立大学図書館協力委員会ほか. “図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/20100218.html, (参照 2011-02-17)