カレントアウェアネス-E
No.327 2017.06.22
E1927
研究用ソフトウェアの適切な引用<文献紹介>
Laura Soito, Lorraine J. Hwang. Citations for Software: Providing Identification, Access and Recognition for Research Software. International Journal of Digital Curation. 2016, 11(2), p. 48-63.
論文や研究データなどの研究成果とは異なり,研究用ソフトウェアの開発は適切に評価されているとは言いがたいという指摘がある。それは,ソフトウェアを引用する文化がないことや引用方法が確立していないことなどが大きい。そこで本文献は,ソフトウェア引用のための標準,ツール,研究コミュニティの取組を紹介する。これらを通じて,ソフトウェアを正しく識別すること,ソフトウェアへのアクセスを容易にすること,ソフトウェアの開発者等を正しく認知することを,本文献は推奨する。
●標準
ソフトウェアやソースコードに関するメタデータスキーマにはSchema.orgがあり,また各学問分野でもソフトウェアに言及しようという動きがある。より汎用的な,DataCiteのメタデータスキーマやRDA(Resource Description and Access)に拠ってもソフトウェアに言及することができる。このようにソフトウェアの引用のためのメタデータスキーマや目録規則は多様であるが,分野横断的な一貫した実践が,ソフトウェアの引用にはないことが問題である。
●ツール
ソフトウェアの使用をサポートする「メタソフトウェア(metasoftware)」と呼ばれるものがある。これを使用することで,研究におけるソフトウェアの開発や使用について,論文等において引用したり詳細に記述したりできる。また,ソフトウェアが他の研究に与える影響を測定することもできる。
ソフトウェアの開発者が引用してほしい形式を,ソフトウェアの一般的な情報が記載されたreadmeファイルのほか,ライセンス,ユーザーマニュアルなどで示す代わりに,引用情報を出力するコードを走らせることができるツールやプログラミング言語がある。これらの引用情報は,テンプレートや,EndNote,Zotero,BibTex,BibLaTeXなどの文献管理ツールやパッケージを使用して,既存の研究ワークフローに組み込まれる。また,文献管理ツールの中には,ソースファイルやデータベースから引用に必要な情報を自動的に取り込めるものがある。Zenodoやfigshareなどのリポジトリでも引用に必要な情報を提供している。
また,コードの行数やダウンロード数など,ソフトウェア開発の指標となるデータを収集するためにもツールが使われる。収集されたデータは,ソフトウェア開発の評価に使用される。
●研究コミュニティの取組
研究コミュニティの多くでは,ソフトウェアのリポジトリへの登録などの取組を行っている。
ソースコードの共有を促進するために,記事公開の条件としてソースコードをリポジトリに登録することを要求あるいは推奨する学術雑誌がある。また,ソフトウェアを引用しやすくするために,「ソフトウェア記事(software article)」と呼ばれるような,記事形式でソフトウェアを共有する試みも行われている。ソフトウェア記事とは,ソースコードや実行プログラムに関するメタデータや記述などを含む簡単な報告記事である。メタデータには,コード名,開発者名,ライセンス,使用されたプログラミング言語,システム要件などが含まれている。ソースコードや実行プログラムは,出版者がアーカイブしたり,永続的識別子を付与されてリポジトリに登録されたりする。このような記事を掲載する雑誌として,“Journal of Open Research Software”や“SoftwareX”などのほか,特定分野のソフトウェアを公開する雑誌もある。
そのほか,ソフトウェア関連のプロジェクトに取り組む研究者が学問分野の壁を越えて集まるワークショップなどが開催されたり,ソースコードを評価する手続きやその学問的厳密性に関する標準を策定しようとする動きがある。
●おわりに
学術コミュニケーション進展のためのコミュニティForce11のSoftware Citation Principlesなどは,ソフトウェアの引用にDOIや各分野で使われる識別子などの永続的識別子を利用することを推奨している。これはソフトウェアやそのバージョンを識別するためには必要不可欠である。また,GitHubがソースコードにDOIを付与してZenodoにアーカイブすることを推奨するなど,汎用的なデータリポジトリにソフトウェアやソースコードを登録することも行われており,ソフトウェアへのアクセスがより容易になっている。
ソフトウェアの引用における課題を解決してソフトウェアを適切に引用すれば,ソフトウェアの開発が研究成果として適切に評価されるだろう。
関西館図書館協力課・阿部健太郎
Ref:
https://doi.org/10.2218/ijdc.v11i2.390
https://schema.org/SoftwareApplication
https://schema.org/SoftwareSourceCode
https://doi.org/10.5438/0010
http://www.software.ac.uk/resources/guides/which-journals-should-i-publish-my-software
http://openresearchsoftware.metajnl.com/
http://www.journals.elsevier.com/softwarex
https://doi.org/10.7717/peerj-cs.86
https://guides.github.com/activities/citable-code/
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