E1918 – 北海道の図書館の高齢者・障がい者サービス調査研究

カレントアウェアネス-E

No.326 2017.06.08

 

 E1918

北海道の図書館の高齢者・障がい者サービス調査研究

 

●趣旨と背景

 2017年3月,北海道の公立図書館(室)等で組織する北海道図書館振興協議会は,『誰もが利用しやすい図書館をめざして~高齢者・障がい者サービス,できることからスタート~(調査研究報告書)』を刊行した。本報告書は,北海道の公立図書館(室)等で組織する北海道図書館振興協議会の2015・2016年の調査研究事業として,道内の市町村立図書館5名,北海道立図書館3名からなる調査研究チームを設置し,高齢者・障がい者サービスをテーマに行った調査研究の成果報告書である。

 この取り組みは,超高齢社会を迎えたことや2016年4月の障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の施行に伴い,北海道内の公立図書館(室)等における高齢者・障がい者サービスの実態の把握と道内外の実践事例の検証を行い,今後の各館での対応の指針となるサービス展開に資することを目的とした。

●アンケート調査結果の概要

 2016年7月に北海道内の公立図書館(室)を対象に高齢者・障がい者サービスに関するアンケート調査を実施した。調査方法は,公立図書館(室)を有する北海道内の自治体へ電子メールにて調査票を送付し,電子メール及びファクシミリで回答を求めた。対象は,分館を含んだ291館(179市町村)で,うち回答館は207館(160市町村),回答率は71.1%である。

 主な質問内容は次のとおりであった。

  • 施設・資料等の整備状況
  • ウェブアクセシビリティへの配慮の有無
  • 高齢者・障がい者サービスの実施内容やPR方法・他機関との連携状況
  • 高齢者向け読み聞かせ会・朗読会の実施状況
  • 点訳サービス実施状況
  • 対面朗読実施状況
  • 録音(音訳)資料作成の実施状況
  • 拡大写本作成の実施状況
  • 郵送・宅配サービス実施状況
  • 配慮・苦慮事項
  • 今後のサービスについて

 調査結果を踏まえて,特徴的な実践事例12件の追加調査を行うと共に,道外図書館の先進事例についても併せて調査し,3件の事例を報告書に反映した。

 今回の調査結果では,207館中,193館(93.2%)が,多目的トイレや老眼鏡・拡大鏡等の設置等,誰もが利用しやすい環境について整備をしていると回答した。ウェブアクセシビリティについては,情報化の進展によりその向上が求められているが,193館のうち14館(7.3%)の対応に止まっている。

 高齢者サービスは113館(54.6%),障がい者サービスは105館(50.7%)で実施していると回答があった。両サービス共に,郵送・宅配サービス,病院や施設への団体貸出等,非来館者へのサービスが上位を占めている。また宅配サービス実施館の7割が図書館で費用負担をしていると回答しており,特に人口の少ない自治体の図書館において,自治体や図書館が費用負担をしているという傾向が見られた。これは本調査に回答した館の65%は設置母体が人口1万人未満の自治体で,面積も広大であることから人口密度も低く,図書館までの距離が遠いという北海道ならではの地理的特徴によるものと考えられる。また,高齢者・障がい者サービス共通の課題としては,サービスを実施しているにもかかわらず,PRを特に行っていない館が半数以上であることがあげられる。サービスを必要としている人にサービスについての情報を届けるためには関係機関との連携が必須であるが,特にどの機関とも連携していない館が約4分の1を占めていることも,大きな課題の一つである。

●今後の課題

 各館における今後の課題について,比較的取り組みやすいことを,(1)もの,(2)ひと,(3)サービス,(4)PRの4つの観点から整理した。

  • (1)文字を読みやすくするリーディングトラッカーやサイン等を用いて意思の疎通を行うコミュニケーションボード等の設備の充実,サピエ図書館への加入,障がいを持つ方にもやさしく読めるLLブックや録音図書,電子図書等の資料の整備
  • (2)職員のスキル向上のための研修機会の提供,関係機関やボランティアとの連携,図書館間の協力貸出やノウハウの共有
  • (3)ブックリストの作成,高齢者・障がい者施設での読み聞かせ,手話ブックトーク,非来館者サービス(郵送・宅配サービス)の実施
  • (4)分かりやすい案内,見やすいチラシの作成,関係団体への直接の周知,病院でのパンフレットの配布

 本報告書には,各館の状況にあわせて「できる」ことを見つけ,次の一歩を踏み出してほしいという調査チームの強い願いが込められている。

 筆者が所属している滝川市立図書館でも,この報告書を受けて,2017年度「高齢者・障がい者向けサービス活用ガイド」を作成し,サービスの見える化を図った。そして,ケアマネージャーが集まる介護サービスの事業所会議にも参加し直接的なPRに取り組んでみたところ,早速問い合わせがあり,小さな一歩を踏み出すことができた。

 本報告書が,次の一歩を踏み出す仲間を増やしていき,北海道の図書館における高齢者・障がい者サービスの大きな歩みへつながっていくことを願ってやまない。

滝川市立図書館・深村清美

Ref:
http://www.library.pref.hokkaido.jp/web/relation/hts/index.html