E1881 – JALプロジェクトから得た3度の「提言」を考える

カレントアウェアネス-E

No.319 2017.02.09

 

 E1881

JALプロジェクトから得た3度の「提言」を考える

 

 「JALプロジェクト」(E1643参照)は,2014年度当初の3年計画のとおり,2015年度および2016年度も継続し,3度の公開ワークショップ(以下,WS)を開催して,実質的な幕を下ろした。JALとはJapanese-Art Librarianの略称であり,正式の事業名は「海外日本美術資料専門家(司書)の招へい・研修・交流事業」である。公開WSは,「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための提言」と銘打って,回を重ねた。初年度の2014年度は,英米仏の5都市から日本人のJALが7名参加,2015年度は7か国8都市から9名,2016年度は7か国9都市から9名を招へいした(2015年度および2016年度の招へいの日本人は各1名)。いずれの年もおよそ10日間の日本滞在期間中に東京・京都・奈良および福岡県(2015年度のみ)に所在する日本美術関連機関(東京国立近代美術館,東京国立博物館,東京文化財研究所,奈良国立博物館,九州国立博物館,福岡アジア美術館等)および国立国会図書館,国際日本文化研究センターなどにおいて研修・見学を行った上で,最終日に公開WSを開催している。2016年度は11月27日に招へいし,最終日の12月9日にWSを開催した。2014年度および2015年度の事業およびWSについては,詳細な報告書がすでに刊行され,事業主務館の東京国立近代美術館のウェブサイトに掲載されているので参照されたい。

 2015年度および2016年度のWSでは,招へい者9名が3人ずつ3グループに分かれて,事前の2-3日間にグループワークを行い,その成果として日本美術資料の情報発信力を高めるための課題や方策を提言するプレゼンテーションを行うプログラム構成とした。実際のところ,国籍,母国語,専門職能および受けた教育も異なる9名が,10日あまりの実地見学を踏まえて,この「提言」を日本語でもってプレゼンテーションをすることはきわめてハードな課題であったが,実行委員およびボランティアのサポートで両年とも,首尾よくタスクを果たしたと言える。

2015年度および2016年度の各グループの発表題目(各グループの招へい者の国籍):

  • 2015年度:
    • 1.「日本における美術資料管理・検索システムの課題と展望」(チェコ,ノルウェー,韓国)
    • 2.「保護から,効率化へ―日本美術図書館におけるデータベース,アクセス,コラボレーション」(英国,アイルランド,米国)
    • 3.「日本美術資料のグローバルな客体化へ向けて」(ドイツ,米国,韓国)
  • 2016年度:
    • 1.「日本から海外へ 日本におけるデジタル化資料をいかにして外国人に伝えるか」(イタリア,デンマーク,米国)
    • 2.「アートは世界の遺産」(フィンランド,イタリア,ブルガリア)
    • 3.「日本の文化資源を広めるための協力」(英国,豪州,イタリア)

 JALプロジェクト全体およびとりわけWSについては,3年計画の立案の当初から,日本美術の情報発信力の向上のための方策を模索しつつ,JALからの「提言」を公開の場へと引き出し,それを,特に日本の日本美術史研究(者)とそこに関わる情報と資料の担い手に伝えることが目標であった。しかし,2015年度のWSの開催後,実行委員の間から,「提言」を受けるだけではなく,その提言に「応答」する責務も当然あるのではないかとの意見が出されたため,報告書には,「JAL2015招へい者の提言に応答することの試み」と題した章を設け,以下の諸点を今後の課題として記録した。

  • 1.日本の美術情報資料に関わるデータベースの課題
    • 1.1 日本の美術情報資料のデータベースはどこにあるのか
    • 1.2 なぜ日本の美術情報資料のデータベースは使いづらいと感じられたのか
    • 1.3 日本の美術情報資料は誰に向けてのものなのか
  • 2.ローマナイズの必要性の指摘
  • 3.応答することの窓口の不在
  • 4.著作権とオープンアクセス
  • 5.アート・アーキビストの配置の必要

 2016年度のWSにおける「提言」では,前年の指摘が,一層的確かつ明晰に日本側が実行すべき課題として表出し,WSの聴衆に深く強い印象を与えた。特にコメンテーターを務めた,JALプロジェクト2016の実行委員でもある国際日本文化研究センター図書館資料利用係長の江上敏哲氏はWS当日のコメントおよび自身のブログで,特にこの2年間のWSでの提言にまさに「応答」していくことの必要を強調した。結果,2017年2月3日,JALプロジェクト2016のアンサー・シンポジウム「JAL2016WS「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための提言III」への応答-“またもや”感を越えて」を開催した。江上氏による基調報告を行い,安江明夫氏(元国立国会図書館副館長),茂原暢氏(公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター長),永崎研宣氏(一般財団法人人文情報学研究所人文情報学研究部門主席研究員),小篠景子氏(国立国会図書館関西館図書館協力課研修交流係長),山梨絵美子氏(JAL2016実行委員会委員/東京文化財研究所副所長)を登壇者に迎えた。

 2017年3月31日刊行予定のJALプロジェクト2016の報告書では,本プロジェクトの総括を試みるとともに,このアンサー・シンポジウムについてもディスカッションを含む全文を掲載する予定であり,前年の報告書同様に東京国立近代美術館のウェブサイトに掲載するので,あわせて参照されることを期待したい。

東京国立近代美術館・水谷長志

Ref:
http://www.momat.go.jp/am/visit/library/jal2016/
http://www.momat.go.jp/am/visit/library/jal2014contents_j/
http://www.momat.go.jp/am/visit/library/jal2015contents_j/
http://www.momat.go.jp/am/wp-content/uploads/sites/3/2017/01/JAL2017_1stGR_Presen.pdf
http://www.momat.go.jp/am/wp-content/uploads/sites/3/2017/01/JAL2017_2ndGR_Presen.pdf
http://www.momat.go.jp/am/wp-content/uploads/sites/3/2017/01/JAL2017_3rdGR_Presen.pdf
http://www.momat.go.jp/am/wp-content/uploads/sites/3/2017/01/JAL2017_Commentary.pdf
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