カレントアウェアネス-E
No.327 2017.06.22
E1925
オープンサイエンス基盤研究センターの新設について
国立情報学研究所(NII)は,2017年4月1日付で,「オープンサイエンス基盤研究センター」を新設した。センターのミッションは,大学や研究機関におけるオープンサイエンス活動を支えるためのICT基盤の構築と運用を実施することにある。構築するICT基盤は,日本学術会議が「オープンイノベーションに資するオープンサイエンスのあり方に関する提言」の中で取りまとめた,「オープンサイエンス推進のための研究データ基盤」を実際のサービスへと具体化するものである。
●研究データ基盤の概要
研究データ基盤は,「管理基盤」,「公開基盤」,「検索基盤」の3つの基盤から構成される。「公開基盤」と「検索基盤」は,それぞれNIIが既に提供している,機関リポジトリのクラウドサービスJAIRO Cloudと文献検索サービスCiNiiを研究データも扱えるように拡張することで実現する。「管理基盤」は,NIIとして新しく提供するサービスとなる。研究を実施する過程において研究者間で研究データを管理し,内部共有するための機能を提供する。これら3つの基盤を有機的に繋げることで,オープンサイエンス時代の研究ワークフローを支える研究環境の提供を目指す。
●研究ワークフローを支える基盤
日本には既に750近い機関リポジトリが構築されているが,研究者が論文を機関リポジトリに登録するセルフアーカイブを実現できている例は少ない。機関リポジトリへのコンテンツの登録に直接的あるいは間接的に研究者を参加させることができなければ,研究ワークフローを支える基盤とは言えない。構築する公開基盤は,単に研究データを保存する機能拡張を施すだけではなく,実質的に図書館の機関リポジトリとなってしまっている現状から,機関の構成員のための機関リポジトリへと成長させることを目指す。その鍵となるのが,管理基盤である。管理基盤は,研究プロジェクトごとに研究データを管理する機能を提供する。研究者が日々の研究の中で利用するサービスとして,機能の整備を進めている。管理基盤から簡便に研究成果を公開する機能を提供することで,研究者と公開基盤,すなわち機関リポジトリとの距離を近づけることが可能となる。実際には,研究者が研究成果を公開するインセンティブをどのように確保するかが課題としてあるが,公開の障壁をシステム的に軽減する準備は整いつつある。
●研究データ管理とオープンサイエンス
公的助成を受けた研究成果の論文を,原則としてオープンアクセス(OA)にすべきであるという考え方は,急速に浸透しつつある。研究データを適切に保存・管理するためのポリシーやガイドラインの策定も進んでいる。研究成果を適切に内部管理するとともに,可能な限り公開することが,研究者の明確な責務として定められつつある。管理基盤や公開基盤は,研究者がその責務を,柔軟にかつ追加の負担をかけることなく果たすことを支援するための基盤でもある。オープンサイエンスと研究公正を同時に語ることを避ける傾向もあるが,基盤を整備する立場としては,機関や研究者が取り組むべきそれら両課題に解を与えることを意識して,開発に取り組んでいる。
●今後の計画
3つの基盤は,2020年度からの本格運用に備えて,実証実験や試行運用を進めていく。データプラットフォームの構築を推進する物質・材料研究機構(NIMS)とNIIは,システム開発の段階から技術連携に取り組む覚書を2017年6月1日に締結した。こうした連携を,他の研究機関,大学の図書館や情報基盤センターとも実現しながら,利用者のニーズに的確に応えることができる基盤の構築を目指していく。国際的な連携のもとでの開発体制の構築も順調に進んでおり,一般的に日本では遅れていると認識されているオープンサイエンスへの対応を,基盤の立場から世界最先端の環境に推し進めていく。
国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センター・山地一禎
Ref:
http://www.nii.ac.jp/userimg/press_20170403.pdf
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t230.pdf
http://ci.nii.ac.jp/
https://community.repo.nii.ac.jp/
http://www.nii.ac.jp/news/2017/newsrelease20170601.pdf