カレントアウェアネス-E
No.360 2018.12.20
E2087
学術シンポジウム「オープンサイエンスの展開」<報告>
2018年10月17日,学術総合センター(東京都千代田区)で,学術研究フォーラム・国立情報学研究所(NII)・日本学術振興会の主催により,学術研究フォーラム第9回学術シンポジウム「オープンサイエンスの展開」が開催された。
学術研究フォーラムは,日本の学術研究振興に寄与することを目的に設立された研究者の任意団体である。今回,現時点での全ての学術研究分野に共通した重要なテーマとして「オープンサイエンス」に焦点を当て,国内外での動向を含めた体系的な議論を目的に開催された。
はじめに,放送大学学園理事長/学術研究フォーラム幹事の有川節夫氏から,学術研究フォーラムの概要及び今回の開催趣旨について説明があった。続いて,NII所長の喜連川優氏から主催者挨拶があり,オープンデータ,NIIによる研究データ基盤の整備,法整備の重要性について言及があった。
基調講演では,東北大学名誉教授の原山優子氏が,オープンサイエンスに関する国際的動向と日本での対応について述べた。原山氏は,デジタル化・オープン化によって学術研究の進め方が大きく変化しており,産業界のイノベーションにおけるエコシステム構築と同様の発想の転換が起こっているとの仮説を述べた。また,トップダウン・ボトムアップの両方からオープンサイエンスを進める流れがある中で,今後を担う若手研究者も積極的に発信や提言を行いながら学術研究の方向性を模索していくことが重要であるとの考えを示した。
情報通信研究機構(NICT)監事/奈良先端科学技術大学院大学理事の土井美和子氏からは,日本学術会議「オープンサイエンスの取組に関する検討委員会」の検討内容について紹介があった。土井氏は,(1)研究分野を超えた研究データの管理およびオープン化を可能とする研究データ基盤の整備,(2)研究コミュニティでのデータ戦略の確立,(3)データ生産者およびデータフォーマットの整理や標準化などを行うデータ流通者のキャリア設計,の3点について委員会から提言を行った旨を説明した。また,オープンデータの活用事例として,NICTの翻訳バンク,弘前大学(青森県)のセンター・オブ・イノベーションプログラム(COI)拠点における超多項目健康ビッグデータに関する取組みを挙げ,日本でも徐々にデータの整備と活用が進んでいる状況を示した。
物質・材料研究機構(NIMS)材料データプラットフォームセンター長の谷藤幹子氏は,NIMSの取組みを中心に,日本の材料科学分野のデータのオープン化について説明を行い,日本の強みを活かしたオープンサイエンスの可能性を示した。また,谷藤氏はメタデータ整備の重要性に触れながら,データを作る,貯める,運用する,見る,使うというサイクルをできるだけ研究者にインセンティブがあるようなシステムとして構築していく必要性を述べた。
NIIオープンサイエンス基盤研究センター長の山地一禎氏からは,NIIが開発中のオープンサイエンスのプラットフォーム(E1925参照)及び研究データ管理に関する人材育成の取組みについて説明があった。
各氏からの講演に続き,毎日新聞科学環境部長の元村有希子氏をモデレータとし,パネルディスカッションが行われた。オープンサイエンスの進展のために必要なことに関する議論では,データ整備の必要性が挙げられた。一方で,データ整備にかかる負担が大きいことから,時間の経過によってデータの価値が減少する分野がある点,データの取捨選択が学術コミュニティの関心に大きく依存する点,データの整理よりも検索のしやすさが重要である可能性がある点などを考慮すべきであると指摘があった。オープンサイエンスの必要性に関する議論では,オープンサイエンスの進展によって日本の科学技術力の相対的な地位の低下を防げるのではないかという意見があった。この議論の中で,社会科学の分野においても,国際比較の際に日本を含めたデータが出されるためには,データの整備や発信が重要であるという指摘があった。また,データ収集に関する議論では,データ量よりも使う知恵が重要であるという意見や,災害や複雑系の研究には,データ出現頻度が少ないテールの部分のデータ収集が重要であるという意見があった。研究の評価の議論では,データ生産者およびデータ流通者への評価を行うための仕組みや,データ管理を行う人材の育成について議論がなされた。データ管理の人材確保については,フロアより,新規の予算による人員獲得は困難であることから,図書館員,研究者,リサーチ・アドミニストレーター(URA)といった既存の人材から,学術分野等により人材構成を考えて育成すべきと意見があった。
オープンサイエンスは各方面で注目されているものの,その進展には解決すべき課題が多い。しかし,既に研究の進め方自体が大きな変化を迎えており,各方面でそれに対応したオープンサイエンスの制度作り・基盤整備・人材育成が急務となっている。今回のシンポジウムでは,多様な視点から報告や意見交換がなされ,日本らしいオープンサイエンスの在り方について進むべき方向性の切り口が示されたと考える。
東京大学情報システム部・中竹聖也
Ref:
https://rcos.nii.ac.jp/gkforum2018/
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t230.pdf
http://www8.cao.go.jp/cstp/sonota/openscience/index.html
http://www.nict.go.jp/press/2018/04/17-1.html
http://coi.hirosaki-u.ac.jp/web/index.html
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