カレントアウェアネス-E
No.325 2017.05.25
E1914
東京外国語大学オープンアクセス宣言・方針の策定経緯
2015年4月の京都大学でのオープンアクセス(以下,OA)方針の採択(E1686参照)を皮切りに,2017年4月5日現在,オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)によると国内では15機関がOA方針を公表している。
2017年2月7日,東京外国語大学(以下,東京外大)は「オープンアクセス宣言・方針」を公表した。この宣言と方針は,2002年のブダペスト・オープンアクセス・イニシアチヴ(以下,BOAI)に定義されたOAの理念に沿い,東京外大で生み出される教育研究の成果を人類の普遍的な財産として公開することとし,特に学内で生産される成果には,クリエイティブ・コモンズ(以下,CC) 表示 国際 パブリック・ライセンス(CC BY)を採用することを原則とした。
東京外大のOA宣言・方針の特徴は大きく分けて三点ある。一点目は,大学全体の研究を担当する理事の主導で策定された点である。二点目は,前述のとおり学内の研究成果についてはCC BYライセンスによる公開の原則とDOIの付与について明記した点である。三点目は,宣言と方針をセットで公表した点である。
以下,策定の経緯を中心にこれらの点について説明する。
東京外大でOAに関する議論を開始したのは,2016年1月である。研究担当理事により,部局長を含む関係教員数名と事務方(総務企画部長,研究協力課長,学術情報課長(附属図書館と大学出版会を担当))が招集され,今後の東京外大の教育研究成果発信について「オープンアクセス」をキーワードにフランクな意見交換が行われた。この意見交換会では,既にOA方針を公表していた京都大学や筑波大学の事例を参考にしつつ,BOAIや内閣府による「我が国におけるオープンサイエンス推進のあり方について」(2015年),文部科学省学術情報委員会の「学術情報のオープン化の推進について(審議まとめ)」(2016年)等に謳われたOAの理念等を確認した。そして,東京外大におけるOAでは,単なる電子化公開ではなく,自由な利活用を認めるCC BYライセンスの採用を原則とすることを前提に,具体的な検討を進めることとなった。大学として「オープンアクセス」を推進することを公表する際には,東京外大の使命・理念を自分たちの言葉できちんと書き込みたいという考えは,2016年1月の意見交換会から示されており,宣言と方針をセットで公表することは当初からの流れであった。
検討の場として,学長以下,理事,副学長,部局長等で構成される「総合戦略会議」の下の「研究アドミニストレーション・オフィス」の中に2016年1月に「オープンアクセス化ワーキンググループ(以下,WG)」を設置した。また,2016年2月に教授会の場で全学の教員に対して,研究担当理事と学術情報課長からOAの概要について説明を行った。WGでの検討を進める中で,著作権とCCライセンスについて,教職員の理解を深める必要があるとの意見があり,2016年7月に専門の弁護士を招いた教職員研修会を実施した。その後,WGによる検討を進め,2016年12月「オープンアクセス宣言・方針(案)」を策定し,学内会議に諮り,細かい文言の調整後,2017年2月7日に公表の運びとなった。
公表と前後して,再度,教授会で研究担当理事と学術情報課長から「オープンアクセス宣言・方針」の内容説明を行った。また,紀要等の編集担当者には別途機会を設け,研究協力課と学術情報課長からさらに詳細な説明を行った。
CC BYを原則とすることに関しては,当初は,WGの教員からも疑義,反論があったが,弁護士による研修会の後は,「自分の研究を長く,広く活かしたいなら,CC BY等のできるかぎり自由度の高いライセンスを付与すべきである」という積極的意見に転換された例も見られた。また,DOIの付与に関しては,教員側からの積極的な要望があり,方針にも明記することとなった。
以上のように,東京外大では,研究担当理事を中心とする教員と職員によるWGにより「オープンアクセス宣言・方針」の策定が進められた。この中で学術情報課(附属図書館)に求められた役割は,機関リポジトリを運用する実務担当者であることに加えて,OAに関する情報収集と分析,情報提供,理論面でのサポートであった。また,研究支援部署である研究協力課は,WG事務局として会議の設定,課題の整理,学内関係部署との調整・連絡などを担当した。両課の連携協力が自然な形で行われ,適材適所の働きができたことが,検討を開始してから短時間で公表に至った要因の一つであると言える。
現在,この方針に沿ったOA誌として,東京外大海外事情研究所の学術誌『クァドランテ』19号の公開の準備を進めている。
東京工業大学(前東京外国語大学)・茂出木理子
Ref:
https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/?page_id=53
http://www.tufs.ac.jp/research/openaccess.html
http://www.soros.org/openaccess/read
https://creativecommons.jp/licenses/
http://www8.cao.go.jp/cstp/sonota/openscience/
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/036/houkoku/1368803.htm
E1686
E1915
※本著作(E1914)はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 パブリック・ライセンスの下に提供されています。ライセンスの内容を知りたい方はhttps://creativecommons.org/licenses/by/4.0/legalcode.jaでご確認ください。