カレントアウェアネス-E
No.325 2017.05.25
E1915
JPCOAR「オープンアクセス方針策定ガイド」の公開
オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR;E1830参照)は,2017年2月28日,「オープンアクセス方針策定ガイド」(以下,OA方針策定ガイド)及び「オープンアクセス方針リンク集」(以下,OA方針リンク集)を作成し,JPCOARのウェブサイトで公開した。本稿では,作成の背景・経緯や概要,今後の展望について紹介する。
●背景,経緯
JPCOARは,日本における機関リポジトリの発展とオープンアクセス(OA)並びにオープンサイエンスの推進を目的として,国公私立大学図書館協力委員会と国立情報学研究所(NII)の間の連携・協力協定に基づき,2016年7月に設立されたコミュニティである。2017年5月1日現在で,482機関が参加している。
近年,日本国内でOA方針を公開する機関が増えており,大学等においては,2015年度は6機関,2016年度は4機関が公開している。自機関の研究成果のOA化を推進するため,OA方針の策定に取り組む機関が今後も増えていくことが予想される。
以上のような動向を受けて,JPCOARの前身である機関リポジトリ推進委員会では,2015年度から,国内における研究成果のOA化を推進するため,各機関がOA方針をスムーズに策定し,実施のための業務体制を整備することを支援するツールの作成に取り組んできた。
2015年度は,作業部会として設置したオープンサイエンス班で検討が進められ,国内におけるOA方針策定の先駆けとなった京都大学(E1686参照)への聞き取り調査や,海外の大学等の先進事例に関する情報収集を行い,支援ツールの素案を作成した。2016年度は,論文OAタスクフォースを設置して前年度成果を元に支援ツールの作成に取り組み,OA方針の策定から実施までの手順を示したOA方針策定ガイドと,国内で策定済みのOA方針の情報を集めたOA方針リンク集の2点を完成させ,公開した。
●OA方針策定ガイドの概要
OA方針策定ガイドは,本編2章と付録4点で構成されている。全編をまとめたものをPDF形式で公開したほか,付録1から3については,各機関で関係文書作成の際に雛形として使用できるようWord形式でも公開した。各章の内容は以下の通りである。
・第1章 OA方針の策定・実施
第1章では,OA方針を策定・実施していくうえで取り組む必要がある内容について,実際の手順に沿って解説した。OAを支援するOpenAIREのガイドを参考に,策定・実施のプロセスを5つのフェーズ(計画,方針案策定・作成,プロモーション・認知向上,実施,フォローアップ)に分け,各フェーズで必要なアクションを具体的に示した。
・第2章 OA方針の構成要素
第2章では,付録2「OA方針雛形」の条文に対応する形でOA方針の構成要素の例を挙げ,検討すべき点や,条文の記入例を示した。
・付録1 実施計画例
OA方針を策定・実施する際の工程とスケジュール例を示した文書である。第1章では,この実施計画例で示した工程に沿って解説している。
・付録2 OA方針雛形
OA方針の雛形として使用できるよう作成した文書である。雛形で示した条文は,2015年以降に公開された各機関のOA方針を元に作成した。機関名やリポジトリ名称を記載すればそのまま使用できる形になっているが,第2章の解説や記入例を参考に,各機関で内容を検討した上でアレンジして使用することを想定している。
・付録3 オープンアクセスとは
OA方針策定にあたり,学内の委員会等で検討する際の説明資料(OA方針策定の提案書)の雛形として作成した文書である。OAの定義や背景,国内外のOA方針策定状況等をまとめた資料となっている。
・付録4 ROARMAPの登録手順
OA方針策定後,世界のOA方針のデータベースであるROARMAPへの登録を行う際の手順を示した資料である。日本におけるOA方針策定の状況を世界に対して発信するにはROARMAPのようなデータベースに登録するのが最も効果的である。国内には未登録の機関が少なくなかったため,マニュアル整備の必要性があると考え作成した。
●OA方針リンク集の概要
OA方針リンク集は,国内で策定済みのOA方針の情報を集めたリンク集である。OA方針を策定する際に,策定済みのOA方針の情報を参照できるよう整備した。OA方針やその実施要領へのリンクのほか,ROARMAP登録ページへのリンクも備えた。OA方針の条文は似ていても実際の運用は機関によって異なっていることがあるため,OA方針と併せて実施要領も参照して欲しい。
●今後の展開
JPCOARでは,OA方針策定ガイドを更に充実させるため,2017年度に,OA方針策定済み機関へのアンケート調査を行う予定である。この調査結果からOA方針策定の際に課題となる点を整理し,OA方針策定ガイドに反映させることで,より実態に即した内容に更新することを検討している。OA方針リンク集は,今後も情報収集を継続し,充実させていく予定である。また,両者とも2016年度末に公開したばかりであり,現時点では関係機関への周知が不十分な面もある。より多くの機関に利用してもらえるよう,JPCOARや関連団体主催の研修・イベント等を通じて,引き続き広報を行っていく。OA方針策定ガイドで示した手順や方針案はあくまで一例ではあるが,各機関のOA方針策定にぜひ役立てていただきたい。そして,追加や改善をすべき点があればJPCOARに意見をお寄せいただければ幸いである。新潟大学附属図書館・関澤智子
Ref:
http://id.nii.ac.jp/1458/00000021/
https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/?page_id=53
http://id.nii.ac.jp/1280/00000201/
https://www.openaire.eu/institutions-guide
http://roarmap.eprints.org/
E1830
E1686