E1382 – 灰色文献の最前線―研究データの収集・管理・提供<報告>

カレントアウェアネス-E

No.229 2012.12.28

 

 E1382

灰色文献の最前線―研究データの収集・管理・提供<報告>

 

 2012年11月29日と30日に,イタリアのローマにおいて「第14回灰色文献国際会議(Fourteenth International Conference on Grey Literature:GL14)」が開催された。灰色文献に関する国際的なネットワークGreyNetの主催によるものである。筆者も含めて17か国から約50名が参加した。

 今回は「灰色文献によるイノベーションの追跡」というテーマのもと,「研究のライフサイクルを追う」「灰色文献の追跡方法」「新しい技術の適用」「灰色文献の再利用」という4つのセッションが設けられた。基調講演に続き,17本の口頭発表と15本のポスター発表が行われ,研究者の灰色文献の利用状況に関する最新の調査結果,灰色文献の収集・管理・提供の試みの中で明らかになってきた課題,またそれらの解決に向けた取組み等について事例報告がなされた。

 従来,灰色文献とは,政府情報やプレプリント,テクニカル・リポート,会議録等を指すものであった。しかし,この会議では地図,画像,動画,シミュレーションデータ等の多様なかたちで存在している研究データや,研究者コミュニティにおいて交換されるメールといった情報もその対象に入っていたことが,非常に興味深かった。研究データは従来の灰色文献と同様,市場に流通しない情報であり,研究の根拠となるものでありながらアクセスが簡単ではなく,また永続的なアクセスが必ずしも保証されていないのが現状である。以下,会議の内容を研究データに焦点を当てて紹介する。

 現在,機関や国を越えて研究データを共有するというオープン・サイエンスの枠組みを作る方向で国際的な協力の必要性が認識されてきている。一方で,研究データは個々の研究機関や高等教育機関で生み出され,各国で個別に収集・管理・提供されている。このような状況を,基調講演を行ったドイツ技術情報図書館のJan Brase氏は“Science is global, carried out locally.”と表現した。

 チェコ国立技術図書館の発表では,灰色文献用の電子図書館構築プロジェクトの一環として2008年から試験的に運用している“NUSL”というリポジトリが紹介された。NUSLでは2009年末から国内の研究機関との連携を図り,研究データの収集を試みている。機関リポジトリのある機関についてはそこからデータを収集し,ない機関の研究者にはNUSLのIDを発行してデータを提供してもらっている。ただし,これは強制的なものではなく,提供は研究者次第という課題がある。また,研究データの存在を調査する術がないため,網羅的な収集は困難とのことである。収集したデータには職員4名でメタデータを付与しているが,人員の制約もあり,それほど詳細なものではないとのことである。なお,メタデータの付与は研究者自身で行えるようにもなっている。

 また,英国図書館では現在,環境情報に特化した“envia”というリポジトリを開発している。enviaでは,政府情報やテクニカル・リポートのフルテキスト等のほか,データセットも収集している。メタデータの付与は職員が行っており,研究者自身が付与する仕組みはない。これは,研究データの利用の利便性・多様性・柔軟性を考慮して,メタデータのレベルや詳細さを均質に保つためとのことである。雑誌論文や博士論文,会議録等の一部のコンテンツはメタデータのみ収集を行っている。なお,現時点ではenviaは試験的な段階にあるため,館外からアクセスすることはできない。

 このように,研究データの収集の試みが各国で進んでいるが,研究者はまだ,他分野の研究者にも広く利用されるようなかたちでデータを共有・保存することの利点を認識していないという指摘もあった。イタリア高等保健研究所と米Information International Associates社の報告によれば,その理由は,研究者にとってデータを利用・加工しやすいツールがない,データ・アーカイブの認知度が低い,効果的な利用例がない,研究データの引用の仕方が分からない等である。これらの解決のためには,使いやすいツールの開発と同時に,データの長期的な保存が研究に付加価値を与えることや,保存されたデータの利活用の方法について研究者に知ってもらうことも必要であるとしていた。

 その他の発表の内容も踏まえると,研究データに関する現在の主な課題は6つに整理することができる。すなわち,(1)多様な資料・情報・データに対応できる格納装置の用意,(2)データを確実に収集できる枠組み,(3)メタデータの質を維持するための付与方法,(4)研究者のデータ利用の促進,(5)図書館とコンピューティングセンターを結ぶ人材の育成,(6)国内及び国際的な協働,である。

 今回の会議を通じて,研究データが灰色文献の大きな対象となりつつあること,現在の課題の解決には研究者との協力が必要であることを強く感じた。国際的な協働の動きの中で国立国会図書館もその枠組み作りに参加することが求められるだろう。

(利用者サービス部科学技術・経済課・福山樹里)

Ref:
http://www.textrelease.com/gl14conference.html
http://www.greynet.org/