E1381 – 効率的なAPCの管理のために“仲介者”の果たしうる役割は?

カレントアウェアネス-E

No.229 2012.12.28

 

 E1381

効率的なAPCの管理のために“仲介者”の果たしうる役割は?

 

 英国のオープンアクセス実行グループ(OAIG)が,2012年10月付けで,“The Potential Role for Intermediaries in Managing the Payment of Open Access Article Processing Charges (APCs)”と題したレポートを公表した。OAIGのメンバーであるWellcome TrustおよびJISCの委任を受け,研究情報ネットワーク(RIN)が作成したものである。

 オープンアクセス誌(ゴールドOA)のビジネスモデルのひとつに,論文の著者などから論文出版加工料(APC)を徴収するというものがある。このレポートの目的は,このようなAPCの支払管理において,研究者,大学,助成機関,出版社といったステークホルダーの間をつなぐ“仲介者”の必要性やその役割,利点・欠点について検討することである(E1241E1341参照)。

 その背景には英国のOAをめぐる大きな政策的動向がある。6月の“Finch Report”の登場以降,英国研究会議(RCUK)やWellcome Trustが新しいOA方針を発表し,公的助成を受けた研究成果の公表にあたりAPCに対する助成を行う方向へとシフトしつつある。今後も引き続きゴールドOAの拡大が予測されるなか,APCの効率的かつ効果的な管理という運用上の課題が浮上してきているのである。

 レポートの前半では,ステークホルダーへの聞き取りや文献調査をもとに,APCの処理を行っている現在のしくみについて分析している。

 その結果,現在のしくみは最適なものとは言えず,OA誌の広がりに対応していくための妨げになるだろうと結論づけている。現在のしくみが抱えている具体的な課題としては,処理量の激増に耐えうるワークフロー,人手による作業などに起因する処理コストの高さ,異なるシステム間で情報をスムーズにやり取りするための方法,レポーティングシステムとコンプライアンス,助成金に関する情報などのメタデータの標準化,現在の複雑なしくみに関する研究者および事務職員の理解不足,を挙げている。

 これらを受けて後半では,誰が仲介者となりえるのか,その仲介者がどのようなサービスを提供しうるのかについて検討を行っている。

 まず,仲介者となりうる存在の一例として次の5つの企業・組織を示している。EBSCO社およびSwets社のような購読代理店,著作権集中処理機構である米国コピーライトクリアランスセンター(CCC),電子リソースのコンソーシアム契約を行うJISC Collections,既にサービスを行っているスタートアップのOpen Access Key社,である。CCCも,この10月にAPCに関するサービスの開始を発表している。また,このような仲介者に求められる要件についても触れている。

 次に,具体的なサービス像についてまとめている。中核となるサービスは,研究者,大学,助成機関からAPCを集め,それらを正確に,効率的に,透明性のある方法で出版社に対して分配することであり,そこでは以下のような機能が求められるとしている。

  • クレジットカードや請求書によるオンライン決済ができること
  • 複数の機関で柔軟にAPCの支払いを分割できること
  • APCの割引や免除を行えること
  • メンバーシップ制,前払,信用取引による支払いに対応できること
  • 論文のカラーページ料金などAPC以外の費用の請求にも対応できること
  • 処理の進捗状況を追跡・出力できること

 加えて,その他提供できる可能性のある付加価値サービスとして,APCの管理の過程で集まった様々な情報を活用した分析サービス,標準化への支援などメタデータ関連のサービス,出版社から収集した論文を様々なリポジトリに登録するサービス,などを挙げている。

 最後にレポートの結論部分では,混乱を避けるためにも,主要なプレイヤーが一堂に会して対話を行うことが最も重要だと提言している。そして,そこで議論されるべき課題として,標準化の必要となる主な領域はどこか,サービスの発展や展開を市場に任せておくかどうか,市場の発展を促していくかどうか,積極的・管理的なアプローチを取っていくかどうか,の4点を示している。

 このレポートからは,APCを管理するしくみを改善する必要性についてはステークホルダーの間で共通認識があるものの,そのために“仲介者”という存在を活用することに価値があるのかどうか,本当に役に立つのか,利点が欠点やリスクを上回るのか,といった点についてははっきりとしたイメージを結ぶに至っていない現状が伺える。英国でもまだまだ議論が緒についたばかりであると言えよう。一方で,実際にAPCに関するサービスを提供する仲介者が現れ始めてもいる。今後も引き続き海外の動向を追いつつ,日本でもAPCやそれに対する図書館の関わりについて議論が高まっていくことを期待したい。

(関西館図書館協力課・林豊)

Ref:
http://repository.jisc.ac.uk/id/eprint/4949
http://open-access.org.uk/2012/11/27/report-claims-improvements-needed-in-payment-processes-of-article-processing-charges/
http://www.researchinformation.info/news/news_story.php?news_id=1052
http://www.openaccesskey.com/
http://www.copyright.com/content/cc3/en/toolbar/aboutUs/newsRoom/pressReleases/press_2012/press-release-12-10-11.html
http://www.copyright.com/content/cc3/en/toolbar/productsAndSolutions/open-access.html
E1241
E1341