カレントアウェアネス-E
No.226 2012.11.15
E1360
ブダペストオープンアクセス運動が次の10年に向けた提言
2012年2月で10周年を迎えたブダペストオープンアクセス運動(Budapest Open Access Initiative:BOAI)が,これからの10年に向けた指針を示す提言(BOAI10)を発表した。
BOAIは2001年にオープンアクセス(OA)関係者を集めてブダペストで催された会議の結果を受け,2002年にOAに関する宣言を公開すると同時に始まった運動である。この最初の宣言は,OAとは学術論文を,経済的・法的・技術的な障壁なく,インターネットを介して誰もが自由に利用できることであると定義するとともに,その実現手段として研究者自身が文献を電子アーカイブで公開するセルフアーカイビング(グリーンOA)と,購読料以外のコスト負担により運営されるOA雑誌(ゴールドOA)の2つを提示した。このOAに関する定義と実現手段の提言は,その後のOA運動の基礎を築いたと言われている。
新たに発表されたBOAI10は,BOAIの理念と意義を再確認し,今後10年の目標を示すプロローグの後に,「ポリシー」(7項目),「ライセンスと利用」(1項目),「基盤と持続可能性」(14項目),「アドボカシーと協調」(6項目)の4部・28項目の提言を示している。これらの提言はBOAI後のOA運動の進展を受け,最初の宣言で述べた内容を再確認し,適宜具体化したものとなっている。
例えばBOAI10では「法的な障壁の排除」について,「CC-BYもしくはそれと同等のライセンスを推奨する」としているが,これは,最初の宣言当時にはまだ公開されていなかったクリエイティブコモンズライセンスがその後のOA運動の中で普及してきたことを受け,提言に加えたものと考えられる。「技術的な障壁」の排除についても,リポジトリにPDFファイルを登録するだけでなく,「XML等の機械可読フォーマット」へ変換するツールも提供すべきとする等,用語の具体化が見られる。
また,10年前の宣言はOAとその実現手段の妥当性を述べて賛同を募る一方で,OA実現のために具体的にどのような行動をとるべきか,その詳細にまで踏み込んだものではなかった。これはまさにこの宣言によってOA運動が形を成したばかり,という当時の状況を考えれば当然と言える。これに対し,BOAI10ではOAを二つの手段によって実現するためには誰がどのような行動を取るべきかの具体的な提案が多く含まれている。例えば高等教育機関は所属する教員の論文の,研究助成機関は助成研究に基づく論文の,それぞれのOA化に関するポリシーを定めるべきと述べられている。また,あらゆる高等教育機関は,自らリポジトリを持つか,共同リポジトリに参加するか,外部のリポジトリサービスを使うべきである,といった提言もある。OA雑誌に関しては,全てのOA出版者とOA雑誌に対し,オープンアクセス学術出版者協会(Open Access Scholarly Publishers Association:OASPA)の提唱するベストプラクティスに従うか,OASPAの会員になること等を奨励している。
このように,2002年の宣言で掲げた目的を,当時提案した手段で実現するために,今後10年で関係各者がなすべきことを具体的に示すというのがBOAI10の基本的な性格である。しかしその中で幾つかではあるが,最初の宣言とは直接関係しない内容も含まれている。インパクトファクターによる雑誌・論文・研究者の評価に対する批判とそれに替わる新たな指標(“alternative metrics”,いわゆるaltmetrics)の開発の奨励,論文の新たな形式や出版後レビューに関する実験の奨励等がそれに当たる。これらの中にはPLOS等のOA雑誌において実現されている機能もあるが,ごく最近でもNature Publishing Groupがaltmetrics表示機能を公開する等,購読モデルの中でも実現可能なものもある。必ずしもOAのみと結びついているわけではなく,そのため提言全体の中でも異彩を放っているが,BOAI10の策定者らが次の10年でOAを実現していくことと深く関係するトピックと考え,取り入れたものと考えられる。
なお,BOAI10の原文は英語であるが,各国語への翻訳も進められている。日本語訳についても現在,有志によって進められており,近日中に公開される予定とのことである。
(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科・佐藤翔)
Ref:
http://www.opensocietyfoundations.org/openaccess/boai-10-recommendations
http://www.opensocietyfoundations.org/openaccess/read
http://creativecommons.org/licenses/by/3.0/
http://www.researchinformation.info/news/news_story.php?news_id=1038
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?plugin=attach&pcmd=open&file=DRFmonthly_34.pdf&refer=%E6%9C%88%E5%88%8ADRF
http://www.opensocietyfoundations.org/openaccess/boai-10-translations/japanese-translation