E1359 – 情報行動に関する若手社会人と雇用者の認識のズレとは?

カレントアウェアネス-E

No.226 2012.11.15

 

 E1359

情報行動に関する若手社会人と雇用者の認識のズレとは?

 

 2012年10月16日,米国の成人期初期の人たちの情報リテラシーに関する調査を進めているプロジェクト・インフォメーションリテラシー(Project Information Literacy: PIL)が,“Learning Curve: How College Graduates Solve Information Problems Once They Join the Workplace”と題する新たなレポートを公表した。PILを率いるアリソン(Alison J. Head)氏によるものである。

 PILではこれまで,大学生を対象にした調査(E1124参照)を行ってきたが,今回は大学を卒業し職場へと活動の場所を移した“若手社会人”に焦点をあてている。若手社会人に対する期待と評価について雇用者への電話インタビューにより,また若手社会人自身の課題認識や戦略についての考えをフォーカスグループインタビューにより,それぞれデータを集め,それらを基に,若手社会人の情報行動に関して今何が起きているのか,新たな知見を得ようとしている。

 PILは2012年8月から,“移行の研究”(PIL Passage Studies)と称する研究シリーズに着手した。このシリーズでは,成人期初期の人たちが新しい情報環境に移行する際の課題等に着目して一連の研究に取り組むとしており,今回の調査は,今後の研究に向けての予備的調査とも位置づけられている。

 実際のデータの収集は,2012年1月から5月にかけて行われた。雇用者に対する電話インタビューでは,23人の雇用者で特にインターンや新人教育に関わっている人がサンプリングされた。雇用者の属する組織は,マイクロソフト,マザー・ジョーンズ,OCLC,FBI,スミソニアン等,民間企業から政府機関まで様々な組織が含まれている。対象者の選定が今回最も労力を要した部分であるという。実態としては,大学のキャリアコーディネーターや,信頼できる知人を通じての電子メールによる募集等のアプローチを組み合わせて調査協力者を探し出している。

 若手社会人に対するフォーカスグループインタビューは,5回のセッションで合計33人に対して行われている。対象者は,2005年以降に卒業した人であり,現在の雇用状況はフルタイム(73%)のほか,パートタイム等も含まれている。これまで大学生に対する大規模調査を行ってきたPILでは“PIL Volunteer Sample”という調査協力機関のリスト(調査時118機関)を構築しており,これをベースにしてサンプルを抽出している。

 この調査から得られた知見は,若手社会人が考える情報能力や職場への適応戦略と,雇用者が期待し必要とする課題解決のための情報技能との間に,ズレがあるという点である。

 PILの考察によれば,若手社会人は,コンピューターに関するノウハウについて期待以上に能力を示し,オンラインの情報を使って素早く答えを導き出す技能を備えている。職場において情報に関する問題を解決するに当たっては,職場の切迫感の中で,大学で身に付けた情報能力をテコにして競争力を得,また時間を節約しようとしている。さらに,解決に当たっての技能の不足を補うための適応戦略を構築しており,多くの場合それは,素早い回答を手助けしてくれる同僚との関係を構築するといった戦略となっている。

 一方の雇用者は,若手社会人のこのような能力が,職場の情報に関する問題を解決するのに必要な技能に気付く妨げになっていると考えている。雇用者は,若手社会人に対し,オンラインで情報を検索するだけではなく,紙のレポートをめくったり電話をかけたりといった,基本的でローテクな方法をも組み合わせて辛抱強く調査を行うことを求めている。また調査のソーシャルな側面,すなわち人との関係については,チームの仲間と集めたデータについて話し合ったりすることを期待している。そして,職場における調査においては,早く回答を見つけるのではなく,あらゆる回答を想像する徹底的な調査が要求されているのに対し,若手社会人はめったにそのような調査は行わないとしている。

 この調査で得られた知見は,サンプルの数や手法を踏まえると,必ずしも一般化できるものではない。しかしながら情報リテラシーの養成に関わる教育者や図書館員にとって示唆に富むものとなっている。レポートでは,これらの知見が議論を喚起することへの期待を示している。また,図書館の役割に関しては,若者の調査活動のソーシャルな側面についてどのような取組が可能なのか,あるいは,学生の経験を豊かにするためにはレファレンスをどのように再考すればよいのか,など,その役割に関する疑問を喚起するものであるとの考察を示している。PILの“移行の研究”では,既に次の調査に着手されているとのことであり,今後の進展が注目される。

(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://projectinfolit.org/pdfs/PIL_fall2012_workplaceStudy_FullReport.pdf
http://projectinfolit.org/about/
http://projectinfolit.org/people/
http://projectinfolit.org/volunteer/
E1124