E1361 – そのジャーナルはどのくらい“オープン”か?

カレントアウェアネス-E

No.226 2012.11.15

 

 E1361

そのジャーナルはどのくらい“オープン”か?

 

 2002年にブダペストオープンアクセス運動(BOAI)が宣言を発し,その中でオープンアクセス(OA)の定義を提唱した(E1360参照)。しかし,一口に“オープン”と言ってもその程度は様々である。例えば,あるジャーナルに掲載された論文が「出版後すぐに無料で読めるようになる」のと「出版6か月後に無料で読めるようになる」であれば,前者のほうがよりオープンであると言えるだろう。

 このような「そのジャーナルはどのくらいオープンか?」という問いについて考えるための指針を与える“HowOpenIsIt?: Open Access Spectrum”という2ページのガイドが,2012年10月19日に公開された。米国のSPARC,オープンアクセス出版社PLOS,オープンアクセス学術出版社協会(OASPA)によって作成されたものである。このガイドでは,オープンの程度に対して,「読者の権利」「再利用の権利」「著作権」「著者の投稿に係る権利」「自動投稿」「機械可読性」という6つの評価軸が提示され,それぞれの評価軸についてオープンの度合いを5段階に分けている。

 例えば,最初の「読者の権利」については,「全ての論文が出版後すぐに無料で読めるようになる」が最もオープンな状態である。次いで「全ての論文が出版後6か月以内のエンバーゴ(禁止期間)の後に無料で読めるようになる」「全ての論文が出版後6か月以上のエンバーゴの後に無料で読めるようになる」「全ての論文ではなく一部だけだが出版後すぐに無料で読めるようになる(ハイブリッドOAモデル含む)」が続き,最もクローズドな状態は「論文を読むためには購読,入会,PPV等の費用が必要となる」である。

 2つ目の「再利用の権利」については,「自由度の高い再利用・リミックスを行う権利がある(クリエイティブコモンズのCC BYライセンス等)」が最もオープンな状態である。2番目にオープンなのは,再利用やリミックスに関して何らかの制限がついた状態(CC BY-NC,CC BY-SA等),3番目は,再利用に問題はないがリミックス等は許可されない状態(CC BY-ND等)である。最もクローズドな状態は「フェアユースや著作権法の制限規定を超える再利用の権利は存在しない」となっている。

 4つ目の「著者の投稿に係る権利」については,「著者は論文のあらゆるバージョンをリポジトリやウェブサイトに投稿できる」が最もオープンな状態である。そして,「査読後の著者最終版(ポストプリント)」「査読後の著者最終版を特定のリポジトリやウェブサイトのみに」「著者最終稿(プレプリント)を特定のリポジトリやウェブサイトのみに」「著者はリポジトリやウェブサイトへの投稿を認められていない」と徐々にオープンの度合いが減っていく。

 最後の「機械可読性」については,「論文のフルテキスト,メタデータ,引用情報,補足データが,コミュニティ内で標準的な機械可読フォーマットによって,標準的なAPI・プロトコルを通じて提供される」が最もオープンな状態である。2番目は同様のデータについて「クロールや,標準的なAPI・プロトコルでのアクセスが可能」な状態,3番目は「論文のフルテキスト,メタデータ,引用情報に対して特別な許可や登録なしにクロールやアクセスが可能」で,4番目は許可が必要な状態である。そして,「フルテキストとメタデータが機械可読フォーマットで利用できない」が最もクローズドな状態である。

 なお,このガイドの基準によると,本誌『カレントアウェアネス-E』はどのくらいオープンであろうか。本誌の全てのコンテンツはウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」上で即座に無料公開している。また,著作権は国立国会図書館が全て保持しているが,著者を含めた利用者からのウェブサイト等への転載依頼は原則許可している。これらを踏まえると,「読者の権利」については最もオープンな状態で,「再利用の権利」及び「著作権」は3番目,「著者の投稿に係る権利」は2番目,「自動投稿」は5番目と考えられる。残る「機械可読性」については,RSSやOpenSearchといった標準的な規格によるAPIを提供しているものの,コンテンツの本文部分は機械可読性の劣るHTMLフォーマットであり,2番目に該当するのだろうか。

(関西館図書館協力課・林豊)

Ref:
http://www.arl.org/sparc/media/HowOpenIsIt_Final_Guide_Released.shtml
http://www.arl.org/sparc/bm~doc/howopenisit-guide.pdf
E1360