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カレントアウェアネス
No.324 2015年6月20日
CA1848
ResearchGate-リポジトリ機能を備えた研究者向けSNS-
MyOpenArchive:坂東慶太(ばんどう けいた)
1.はじめに
近年、研究者向けのソーシャル・ネットワーク・サービス(以下、SNS)が注目を集めている。2013年4月にElsevier社に買収された文献管理サービスMendeley(1)、同年6月にMicrosoft創業者ビル・ゲイツ(Bill Gates)などから3,500万ドル(約35億円)を資金調達したResearchGate(2)、1,100万人以上の利用者を抱えるacademia.edu(同時期、ResearchGateは約450万人、Mendeleyは約310万人)(3)などが挙げられる。研究者は、研究者向けSNSをCV(Curriculum Vitae/履歴書)として、或いは国境を越えた共同研究の足掛かりとして積極的に活用している。また、研究者は所属する機関のリポジトリを介さず研究成果をセルフアーカイブすることが可能となり、オープンアクセスの新たな潮流にもなりつつある。特に本稿で取り上げるResearchGateには200万件以上の研究成果が公開されており、またセルフアーカイブした研究成果にDOIを付与することが可能であることなどから(4)リポジトリとしての評価が高まっている。
図書館員やリサーチアドミニストレーターは、今後どのようにこれら研究者向けSNSと向き合うべきか。その理解を深めるべく、本稿では研究者向けSNSの代表格であるResearchGateを取り上げ、その機能概要の解説などを通じて、研究機関と研究者向けSNSの今後について展望する。
2.ResearchGateとは
ResearchGateは、マサチューセッツ総合病院で主任研究員(2004〜2005年)を経てM.D., Ph.D.になったばかりのイジャ・マディシュ(Ijad Madisch)によって、2008年に米国・ボストンで設立された(現在はドイツ・ベルリンに拠点を移動)。ResearchGateには世界中に600万人以上の利用者がおり(5)、マディシュの専門分野である医学を中心に、生物学やコンピュータ科学といった分野の研究者の割合が多いのが特徴である(6)。
ResearchGateは当初、研究者向けFacebookや科学者版LinkedInという謳い文句で紹介され(7)、一般向けSNSが頭角を現してきた時代(Facebookは2004年2月、Twitterは2006年7月に設立)の潮流に乗り、研究者の囲い込みに成功した数少ないスタートアップ企業である。Nature Network(2007年2月に設立、2013年12月にサービス閉鎖)やLabmeeting(2007年7月に設立、2011年1月にサービス閉鎖)など、同類コンセプトのサービスから現在生き残っている研究者向けSNSとしては、「はじめに」でも触れたMendeley(2007年設立)、academia.edu(2008年設立)、そしてResearchGateが挙げられる。
3.ResearchGateの特徴的な機能概要
SNSというイメージから、ResearchGateは「つながり」「ネットワーキング」だけを実現させているのではないか、と捉えてしまうのは早計であろう。ResearchGateにはもちろんSNSに必須の個人プロフィールページ作成機能、「イイね!」やコメント・フォロー機能、グループ作成による共有機能なども持ち合わせているが、本稿では数あるResearchGateのサービス内容から、ResearchGateをResearchGateたらしめる特徴的な3つの機能「Q&A」「Publications」「RG score」を解説する(図1)。
図1 ResearchGateのプロフィールページ例
(1)Q&A
ResearchGateでは、「Q&A」コーナーで研究に関する質問を投げかけると、その分野の専門家から回答を得ることが出来る。質問にはTOPICSというタグが付与され、関連のQ&Aをフォローすることも可能である。質問や回答に対する良し悪しを投票することも出来る。質問者・回答者双方について、プロフィール写真と実名が表示されるのはもちろんのこと、RG score(後述)というResearchGate内の研究者評価指数も表示されるので、Q&A内容の信頼性を確認する一助となる。Q&Aの推移を確認したければフォロー機能で追跡可能な他、自分の専門知識に関連したQ&Aもお薦め表示してくれる。
(2)Publications
ResearchGateをリポジトリの様に扱えるのがPublications機能である。自身の研究成果を公開できる機能はMendeleyやacademia.eduでも持ち合わせており決して珍しいものではないが、特筆すべき点がふたつある。ひとつは「DOI付与」、もうひとつは「リポジトリとしての高評価」である。
ReserchGateでは、研究成果を登録する際、それらにDOI(CA1836参照)を付与することが可能である(既にDOIが付与されている研究成果を登録する際は、そのDOIを使う)。研究データにDOIを付与する国際コンソーシアムDataCiteとResearchGateが2014年8月に連携を始めたことから実現されたこの仕組みは、創設者マディシュの「97%の失敗した実験結果の生データこそ(共有することが)重要」という想いをより促進するものとなるであろう(8)。
研究成果に付与するDOIの重要性は、出版社のみならず研究者においても高まりつつある。最近ではaltmetrics(E1504参照)という研究評価の文脈からも、DOIが重要な要素となっていると筆者は考える(9)。図書館が主体となって運営する機関リポジトリは、研究者のセルフアーカイブの場と言われるが、研究者自らが投稿することは現実的には殆どなく、図書館員が代理投稿するのが一般的である。またDOI付与も不可能であることが多い(国内では、国立情報学研究所が取り纏めるJaLC準会員になると、機関リポジトリのコンテンツにJaLC DOIやCrossRef DOIの登録が行えるようになる)(10)。ResearchGateは、スペイン高等科学研究所(CSIC)が年に2度(毎年1、7月)更新する世界リポジトリランキングで、ポータル部門1位(academia.eduは2位、Mendeleyは62位/2015年1月)という高い評価を受けている(11)。リポジトリ担当者としても、研究者向けSNSと機関リポジトリを連携させるなどして如何に有効活用していくかが今後の検討課題になるであろう。
(3)RG score
RG scoreは、近年話題になりつつあるaltmetrics(12)のひとつと捉えることができる、ResearchGate内における研究者の評価指標である。ResearchGate内にどれだけ研究成果を公開したか、その公開された研究成果は他の利用者からどれだけ評価されているか、Q&Aにどれだけ寄与しているかなどを勘案して弾き出される数値である(13)。ResearchGate内のあらゆる場面で、利用者の顔写真・実名と併せてRG scoreを見ることになる。従来から、学術コミュニケーションにおける研究者間評価は、研究への貢献度で計られてきた。但し、h-indexなど、数値化される対象は限定的であった。それが、ResearchGateでは、あらゆる研究活動が対象となり、数値が可視化されたのである。
RG scoreは、研究者の評判だけを表すのみならず、研究機関を評価する値としても注目を集め出している。ResearchGateの利用者が所属する機関のRG scoreを集積したのがResearchGate Institutionsである(図2)(14)。RG scoreが一番高い研究機関は中国科学院(中国)で、以下サンパウロ大学(ブラジル)、ミシガン大学(米国)と続き、日本の大学は65番目に東京大学が登場する。日本における順位(1位:東京大学、2位:京都大学、3位:大阪大学)や、アジアにおける順位(1位:中国科学院、2位:東京大学、3位:京都大学)といった切り口でも自動集計表示されることから、研究機関としても見逃せない存在になりつつある(2015年4月18日現在)。
図2 ResearchGate Institutionsのページ
4.ResearchGateの限界と可能性
ResearchGateに限らず、本稿に度々登場するMendeleyやacademia.edu以外にも、研究者が自身でプロフィールを生成するサービスとしてはResearcherID・Scopus Author ID・ORCIDなどがあり、また国内に目を向ければresearchmapもある。研究に勤しむ研究者が、数多くのプロフィールサービスをメンテナンスするには煩わしい状況といってよいだろう。国内の研究者であればresearchmapで十分と思うかも知れないし、国際的には出版社・研究機関などがORCID(CA1740,E1633参照)利用を推奨する動向もある(15)。しかし、ResearchGateは前節にて詳述した通り、公的機関やNPOが運営するサービスには実現不可能な、スタートアップ企業ならではの行き届いた機能が充実しており、またネットワーキング効果によって利用者数が拡大し、機関への影響力を増しているのも事実である。
敢えてResearchGateの弱点を挙げるならば、多くの利用者を抱え掲載論文もQ&Aも膨大な情報量にもかかわらず「APIを公開していない」点であろう。逆の観点から見れば、API公開によりResearchGateの豊富なデータにアクセス可能となると、ReseachGateの存在価値はますます高まるであろう。様々なサードパーティ製アプリが登場して利便性が向上し、研究機関や他のサービスとの連携機能強化により、業界標準となりつつあるORCIDや競合サービスとも共存しながら発展していくのではないかと期待できる。
5.おわりに
ResearchGateは豊富な資金力を活用し、研究者の期待に応える機能を充実させるとともに、創業者マディシュが唱える科学コミュニケーションの変革の道を邁進している。最近では、RG Format(16)という学術コミュニケーション分野において注目を集めているOpen Annotation(E1613参照)の文脈に沿った機能も公開するなど、ますます見逃せない存在になりつつある。国内での利用者数は未知だが、国際的な研究活動を進める研究者にとっては今後の研究活動においてResearchGateを利用する必要性が生じてくるのではと推測する。そして国内研究者が積極的にResearchGateを利用すればするほど、RG scoreとその集積値ResearchGate Institutionsランキングが、研究者間はもちろんのこと、研究機関に影響力を増してくることであろう。
図書館員やリサーチアドミニストレーターは、ResearchGateを研究支援の一環として或いは機関リポジトリとの連携対象として対策を検討する必要性に迫られるのか。その状況を見極めるためにも、ResearchGateの今後の動向を注視していきたい。
(1) Ingrid Lunden. “Confirmed: Elsevier Has Bought Mendeley For $69M-$100M To Expand Its Open, Social Education Data Efforts”. TechCrunch. 2013-04-08.
http://techcrunch.com/2013/04/08/confirmed-elsevier-has-bought-mendeley-for-69m-100m-to-expand-open-social-education-data-efforts/, (accessed 2015-04-18).
(2) Tomio Geron. “Bill Gates, VCs Invest $35M In ResearchGate To ‘Open Source’ Science”. Forbes.com. 2013-06-04.
http://www.forbes.com/sites/tomiogeron/2013/06/04/bill-gates-vcs-invest-35m-in-researchgate-to-open-source-science/, (accessed 2015-04-18).
(3) Richard Van Noorden. Online collaboration: Scientists and the social network. Nature. 2014, 512, p. 126–129.
http://dx.doi.org/10.1038/512126a, (accessed 2015-04-18).
(4) Sergio Ruiz. “Cooperation between DataCite and ResearchGate”. DataCite. 2014-08-12.
https://www.datacite.org/news/cooperation-between-datacite-and-researchgate.html, (accessed 2015-04-18).
(5) “Celebrating 6 million members”. ResearchGate. 2015-01-12.
https://explore.researchgate.net/display/news/2015/01/21/Celebrating+6+million+members, (accessed 2015-04-18).
(6) Leena Rao. “Professional Network ResearchGate Is A LinkedIn For Scientists”. TechCrunch. 2009-05-14.
http://techcrunch.com/2009/05/14/professional-network-researchgate-is-the-linkedin-for-scientists/, (accessed 2015-04-18).
(7) Eli Kintisch. Is ResearchGate Facebook for science?. Science Careers. 2014.
http://dx.doi.org/10.1126/science.caredit.a1400214, (accessed 2015-04-18).
(8) David Meyer. “Here’s how Bill Gates’s ResearchGate investment might change the world for the better”. Gigaom. 2013-06-05.
https://gigaom.com/2013/06/05/heres-how-bill-gatess-researchgate-investment-might-change-the-world-for-the-better/, (accessed 2015-04-18).
(9) Keita Bando. altmetrics – measuring research impact on the web. figshare. 2014.
http://dx.doi.org/10.6084/m9.figshare.907128, (accessed 2015-04-18).
(10) “国立情報学研究所が取り纏めるJaLC準会員”. 学術機関リポジトリ構築連携支援事業.
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/jalc, (参照 2015-04-18).
(11) “Top Portals”. Ranking Web of Repositories.
http://repositories.webometrics.info/en/top_portals, (accessed 2015-04-18).
(12) 坂東慶太. Altmetricsの可能性 ソーシャルメディアを活用した研究評価指標. 情報管理. 2012, 55(9), p. 638-646.
http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.55.638, (参照 2015-04-18).
(13) “RG Score FAQ”. ResearchGate.
https://www.researchgate.net/publicprofile.RGScoreFAQ.html, (accessed 2015-04-18).
(14) “Institutions”. ResearchGate.
https://www.researchgate.net/institutions, (accessed 2015-04-18).
(15) 宮入暢子. ORCIDアウトリーチ・ミーティング in 東京. 情報管理. 2014, 57(10), p. 765-768.
http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.57.765, (参照 2015-04-18).
(16) “Introducing the RG Format”. ResearchGate. 2015-02-12.
https://explore.researchgate.net/display/news/2015/02/12/Introducing+the+RG+Format, (accessed 2015-04-18).
[受理:2015-05-07]
坂東慶太. ResearchGate-リポジトリ機能を備えた研究者向けSNS-. カレントアウェアネス. 2015, (324), CA1848, p. 5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1848
DOI:
http://doi.org/10.11501/9396323
Bando Keita.
ResearchGate-SNS specialized for researchers with Repository function-.
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