カレントアウェアネス-E
No.268 2014.10.09
E1613
Open Annotation,Web標準へ W3C Annotation WG始動
2014年8月20日,デジタルリソースに付与する注釈などの付加情報の標準化について議論するWeb Annotation Working Group(以下,WAWG)が,W3CのDigital Publishing Activityの下に立ちあげられた。
1. アノテーションとは
英和辞典などでは「注釈」とされることが多い“annotation”であるが,WAWGにおける“annotation”は,注釈よりも広い意味を包含しており,例えば,コメント,ハイライト,タグ付け,ブックマーク,(ビデオや音声に付与する)タイムスタンプ付きノートなどを含んでいる。なお,これらを包含する適切な訳語が見当たらないため,本稿ではWAWGにおける“annotation”に対して「アノテーション」という言葉を用いることとする。
WAWGにおけるアノテーションとは,WAWG共同議長のサンダーソン(Rob Sanderson)氏が“user-writable layer over top of the web”と表現しているように,ユーザーがオリジナルコンテンツに関する情報を書き込むことのできる,オリジナルコンテンツとは別のレイヤー及びそのレイヤーに書き込まれる情報である。言い換えるならば,オリジナルコンテンツを改変せずに,ユーザーによってオリジナルコンテンツに追加される情報である。アノテーション付与の対象となるのは,ウェブページ,電子書籍,動画,画像,音声,生データなどデジタルリソース全般である。
様々なプラットフォームやアプリケーション,ファイルフォーマットを通じ,デジタルリソースにはアノテーションが日々大量に付与されている。しかし,現在では,それらのアノテーションは,それぞれが独自の方法でアノテーション機能を実装しているために,共有がなされていない。WAWGが進めるアノテーション技術の標準化は,これらの枠を超えて,アノテーションの共有・発見・相互利用を可能にしようとする試みである。
2. Open Annotationとの関係
米国の大学や研究機関が,学術活動に不可欠な要素であるアノテーションの作成や共有をデジタルリソース上で実現するため,Open Annotation Collaboration(以下,OAC)を2009年に立ち上げた。“Open Annotation”とは,アノテーションの有益性を最大化する相互運用性フレームワークである。このOACの下で,大学や研究機関がデジタルアーカイブに対するアノテーションの付与やアノテーションを活用した学術出版の共同編集作業などの実証実験を行っている。そして,このOACと,科学論文に付与するアノテーションのオントロジーについて議論を進めてきたAnnotation Ontologyが,それぞれのプロジェクトの成果を集約するためにW3CにOpen Annotation Community Group(以下,OACG)を2011年12月に設置した。OACGはアノテーションをRDFベースで記述する仕様草案“Open Annotation Data Model”を作成するなど, 一定の成果を出している。そして,このたびOACGの議論の成果を引き継いだWAWGが立ち上げられた。Open Annotationの名の下に行われてきたアノテーションに関する議論が,W3C勧告として標準化するためのフォーマルな議論に移行したのである。
3. WAWGで議論されること
グループ憲章で示されているように,WAWGは,以下を仕様としてまとめ, 2016年7月までにW3C勧告にすることを目標としている。
(1)アノテーション抽象データモデル
(2)(1)のための語彙
(3)(1)をシリアル化するためのフォーマット
(4)HTTPを通じて、アノテーションの作成,編集,アクセス,検索,管理,操作などをするためのサーバーサイドAPI
(5)ブラウザや電子書籍ビューワーなどのリーディングシステムでアノテーションを作成するためのクライアントサイドAPI
(6)デジタルリソースの任意の箇所にアノテーションからリンクをはるためのメカニズム
OACGが進めたアノテーションの記述に関する(1)と(2)の議論に加えて,(3)から(6)も新たに議論されることになっており,アノテーション関連の技術をまとめて標準化しようとしていることがわかる。
4. アノテーションの標準化が与える影響
アノテーションがデジタルリソース全般を対象としているため,WAWGの議論の成果は広範な影響をもたらす。図書館に限定しても,アノテーションの標準化はデジタルアーカイブ,機関リポジトリなどに影響を与えることになるだろう。その他,関連情報を紹介する。
- BIBFRAME Annotation Modelのエディタである米国議会図書館のデネンバーグ(Ray Denenberg)氏がWAWGの議論に参加することになっており,BIBFRAMEの仕様への影響が想定される。
- 国際電子出版フォーラム(IDPF)は,EPUB3アノテーション仕様案でOACGが作成した“Open Annotation Data Model”を採用した。今後、WAWGの成果がEPUB3にも取り込まれることになる。
- コンテンツをそのままの形で利用することができない者に対して音声による説明などの補足情報を提供するため,アノテーションを利用することが想定されている。デジタルリソースへのアクセシビリティ追加の標準化が進むことが期待される。
アノテーションの標準化により,デジタルリソース上に,アノテーションというオリジナルコンテンツとは別の新たな情報層が広まる可能性がある。それによりデジタルリソース同士の繋がりがさらに深まり,デジタルリソースの利活用の幅が広まるかもしれない。WAWGでの議論は始まったばかりであり,WAWGの試みがうまくいくかどうかが現時点では未知数であるが,デジタルリソースに関係する分野全てに影響を与える議論が新たなステージに進んだのである。
関西館図書館協力課・安藤一博
Ref:
http://www.w3.org/annotation/
http://www.w3.org/annotation/charter/
http://www.w3.org/dpub/
http://lists.w3.org/Archives/Public/public-annotation/2014Sep/0010.html
http://www.openannotation.org
https://code.google.com/p/annotation-ontology/
http://www.w3.org/community/openannotation/
http://w3c.github.io/dpub-annotation/
http://www.openannotation.org/Partners.html
http://lists.w3.org/Archives/Public/public-annotation/2014Sep/0027.html
http://lists.w3.org/Archives/Public/public-annotation/2014Oct/0014.html
http://www.idpf.org/epub/oa/
http://www.w3.org/TR/dpub-annotation-uc/