E1593 – Altmetricsに関するNISOプロジェクト第1期のまとめ

カレントアウェアネス-E

No.264 2014.08.07

 

 E1593

 Altmetricsに関するNISOプロジェクト第1期のまとめ

 

 2014年6月9日,米国情報標準化機構(NISO)は,Altmetricsに関する研究開発プロジェクト“NISO Alternative Assessment Metrics Project”(代替的な評価指標プロジェクト:AAMP)の第1期の成果をまとめたホワイトペーパー(ドラフト版)を公開した。

 Altmetricsとは研究成果の影響度を,従来の被引用数に基づく指標とは異なる手法で測ろうという試みである。AAMPは,このAltmetricsに関する標準・推奨実践を定めることを目的に,スローン財団の助成を受け開始された。その第1期として,研究者,図書館員,大学経営層,研究助成機関,出版関係者ら30~50名程度を集めた会合を3回開催し,また30回にわたる個別のインタビューも実施し,ステークホルダーの意見を集約した。それらの250を超える意見から,検討すべき課題を整理したものが今回発表されたホワイトペーパーである。課題は,9つのカテゴリーのもと,25項目が示されている。各カテゴリーの概要は以下のとおりである。

●定義

 “代替的な評価指標(alternative assessment metrics)”の定義ははっきりしていない。また,“Altmetrics”という呼び方の是非についても議論がある。そこで,“代替的な評価指標”に関する詳細な定義を作ること,“Altmetrics”という言葉の用法,あるいは他の言葉を使うのかを定めること等が検討項目に挙げられている(なお本稿ではこの議論を踏まえ,以下“Altmetrics”を用いる)。

●研究成果

 Altmetricsの対象とする研究成果の範囲についても検討の必要がある。また,主として雑誌論文を対象に構築されてきた評価手法を,ソフトウェア等の新たな形態の研究成果にそのまま持ち込むことにも異論がある。そこでAltmetricsが対象とする研究成果のタイプを特定することや,成果のタイプに応じた指標の算出方法を明確にすること等が検討項目に挙げられている。

●用途

 Altmetricsは研究成果を「発見」するためのものなのか,つまり出版直後でまだ論文からは引用されていない優れた成果を見つけるためのものなのか,それとも研究成果を「評価」(evaluation)するためのものかという,用途の違いの重要性を指摘する意見が会合等では多く挙げられていた。そこで,Altmetricsの主な使用例を定め,それぞれのニーズを探ることが検討項目に挙げられている。

●研究評価

 研究評価(research evaluation)という主観的な品質評価を含む領域にAltmetricsを用いることについては,議論がある。Altmetricsを研究者の評価等に用いることについては,学術的な価値とAltmetricsは相関しない,等とする批判が多い。一方,学問の世界の外での影響度を測ったり,ソフトウェアなど,従来研究評価の対象となってこなかったものを評価する指標としては使える可能性がある。そこで,研究評価の中でのAltmetricsの役割について声明を作成すること等が検討項目に挙げられている。

●データの品質と不正対策

 Altmetricsはまだ誕生して間もなく,データの信頼性や有効性について正確にはわかっていない。分析の対象にどういったデータソースを加えるべきか検討する必要があるほか,ブログ等からの引用にはデジタルオブジェクト識別子(DOI)が付与されているとは限らず,データの収集も容易ではない。また,水増し等を目的とする不正なデータ操作への対策も必要となる。この点については恒久的な識別子の利用を促進することや,不正を特定し,排除する方法を研究すること等の検討項目が挙げられている。

●グルーピングと集約

 Altmetricsをグルーピング(複数の指標をまとめて示すこと)したり,集約(複数の指標から一つの数字を算出すること)して使うことも考えられる。同じ論文の出版者版とリポジトリ版の値をまとめるなど,一つの研究成果を対象にする場合だけでなく,雑誌ごと等で複数の研究成果に対するAltmetricsをまとめる場合もありうる。こういったグルーピング・集約のベストプラクティスの作成が検討項目に挙げられている。

●分野や国等による事情の考慮

 分野や国・地域によって研究成果や,Altmetricsのデータソースとなるソーシャルメディアの利用傾向は異なる。それらの事情の違いを考慮した,標準化の戦略を定めることが検討項目に挙げられている。

●ステークホルダーの観点

 研究者,所属機関,研究助成機関,出版者,一般市民等のステークホルダーごとの意見がまとめられた上で,各グループに応じた主な使用例を紹介すること等が検討項目とされている。

●今後の推進のための方策

 Altmetricsそのものではなく,Altmetricsに関する標準・推奨指針を普及し,推進させていくための議論もまとめられている。今後の議論に含めるべき組織の特定や,活動の優先順位付け等が検討項目とされている。

 AAMPは2014年8~9月中にワーキンググループを組織し,第2期の活動を開始する。その活動は今回まとめられた検討項目に基づいて進められていくとのことである。2015年末にはAltmetricsに関する標準・推奨指針が公開される予定である。

同志社大学社会学部・佐藤翔

Ref:
http://www.niso.org/apps/group_public/download.php/13295/niso_altmetrics_white_paper_draft_v4.pdf
http://www.niso.org/news/pr/view?item_key=0051dd6c2ee7962b1bd3cc35059326e1fafb2b00
http://www.niso.org/topics/tl/altmetrics_initiative/

 

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