E2319 – CMSを利用したデジタルアーカイブの構築<報告>

カレントアウェアネス-E

No.401 2020.10.29

 

 E2319

CMSを利用したデジタルアーカイブの構築<報告>

筑波大学附属図書館・大久保明美(おおくぼあけみ)

 

   2020年9月11日,筑波大学附属図書館研究開発室は,Zoomによるオンラインワークショップ「CMSを利用したデジタルアーカイブの構築」を,筑波大学人文社会国際比較研究機構との共催により開催した。

   近年,デジタルアーカイブ(DA)構築を直接の目的としたコンテンツマネジメントシステム(CMS)や,IIIF(E1989参照)のような画像や資料情報を共有するための標準的な枠組みの普及により,国内外を問わず様々な学術組織においてDAの構築とデータ連携が加速している。CMSを用いることで,データ連携機能を含めたDAの構築を極めて迅速に行うことが可能になる。一方で,既存ウェブサイトとの統合やOPACシステムとの連携,あるいは組織における人事異動なども踏まえたシステム運用の持続可能性など,考えるべき点もまだ多い。

   本ワークショップは,DA構築に特化したCMSであるOmeka S(E2094参照)と汎用CMSであるDrupalの対比を通じて,DA構築についての現状と課題を共有することを目的として開催された。また,希望者はコンテンツの登録作業を実際に体験することができた。160人を超す事前申込があったが,当日は145人がZoomへの接続を行い,ワークショップに参加した。

   開催にあたり,宇陀則彦氏(筑波大学図書館情報メディア系)から,開催趣旨説明に加え,デジタル世界の変化について説明があり,IIIFの可能性と新しい図書館サービスについて提案があった。

   続いて,中村覚氏(東京大学史料編纂所)からは「Omeka Sを用いたIIIF対応デジタルアーカイブ構築の実際」について講演が行われた。まず,CMSの簡単な説明とともに,DA構築に用いられるCMSの一覧,CMSをインストールするためのサーバ環境について説明があった。これを踏まえ,本ワークショップでは運用コストが低いレンタルサーバでの利用が可能,すなわちLAMP(Linux,Apache,MySQL,PHP)環境で動作するCMSとして代表的なOmeka SとDrupalを取り上げ比較することが説明された。次に,Omeka ClassicやOmeka SなどのOmekaの種類や特徴の違いに関する説明とともに,いくつかの導入事例が紹介された。そして,本ワークショップ用に提供されたデモサイトを利用して,参加者がOmeka Sの機能を実際に使用し,リソース(メタデータや画像など)の登録作業や,IIIF対応モジュールを使ったIIIFマニフェストの自動生成機能を体験した。その後,代表的なモジュールの紹介があり,最後にOmeka Sの利点や課題,CMSを利用する際の注意点がまとめられた。

   引き続き,和氣愛仁氏(筑波大学人文社会系)は「Drupalを用いたIIIF対応デジタルアーカイブ構築の試み」について,3部構成で講演を行った。まず第1部では,IIIF,Cantaloupe(IIIF対応画像サーバ),Drupalについての簡単な解説がなされた。続く第2部では,講演者が作成した,DrupalとCantaloupeを用いたIIIF対応DA管理システムについての事例報告があった。このシステムは,汎用CMSであるDrupalを用いて,Omeka S相当の機能を持つDA管理システムとして構築されたものである。既存のDrupalモジュールを利用して大部分を構築しつつ,既存のモジュールでは対応できないIIIFマニフェストの動的生成機能については,独自モジュールを開発することで実現が図られている。第3部では,実際にこのシステムを使って,画像をサーバに登録し,Cantaloupeを通じてIIIF画像として取得できるようにした上で,システム上に画像情報と資料情報を登録し,アーカイブとして参照できるようにするとともに,IIIFマニフェストが自動的に生成されるDA構築作業を体験した。

   講演の後に,質疑応答・意見交換が行われた。質疑応答については,参加者からのコメントがリアルタイムで画面上に共有されるクラウドサービスSlidoを用いて文字ベースで質問を記入してもらい,Zoomで回答を行った。CSVインポートによるアイテム一括登録の方法など,講義の内容から更に一歩踏み込んだ解説がなされた。また,CMSは操作が簡便である一方でDA構築においてはシステム運用の持続性を意識することが必要であるという認識が共有され,負担軽減のための一案として,システム基盤の管理とアーカイブとしての運用とを切り分け,前者は専門業者に委託して後者を組織内で行っていくという方針が提示された。

   大量のデジタル資料とデータを手軽に公開・共有したい,IIIFへの対応は具体的にどうすればよいかなどの要望・疑問に対するヒントを探ることができるワークショップであった。

   なお,当日のワークショップの資料は本学の機関リポジトリ「つくばリポジトリ」から公開しているので,是非参照されたい。

Ref:
“オンラインワークショップ「CMSを利用したデジタルアーカイブの構築」(9/11)”. 筑波大学附属図書館.
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/lib/ja/information/20200806
“オンラインワークショップ「CMSを利用したデジタルアーカイブの構築」”. つくばリポジトリ.
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/?action=repository_opensearch&index_id=8105
Omeka S.
https://omeka.org/s/
Drupal.
https://www.drupal.org/
里見航. IIIF Japanシンポジウム<報告>. カレントアウェアネス-E. 2018, (340), E1989.
https://current.ndl.go.jp/e1989
宮本隆史. Omeka Sを活用した東京大学文書館デジタル・アーカイブの公開. カレントアウェアネス-E. 2019, (361), E2094.
https://current.ndl.go.jp/e2094