E2214 – 佛教大学図書館デジタルコレクションのリニューアルと目的

カレントアウェアネス-E

No.383 2020.01.16

 

 E2214

佛教大学図書館デジタルコレクションのリニューアルと目的

佛教大学図書館・飯野勝則(いいのかつのり)

 

 佛教大学図書館では,2019年8月にデジタルアーカイブである「佛教大学図書館デジタルコレクション」をリニューアルした。本稿においては,そのリニューアルの経緯と意図について述べてみたい。

 2012年6月に公開した先代のデジタルコレクションは,設計・構築が全て当館内部で行われていたほか,構築に当たって利用した技術は,オープンソースとして提供されているソフトウェアに由来しているという特徴があった。また当館が所蔵する「洛中洛外図屏風」をメインコンテンツの一つとして公開し,誰もがウェブ上で自由にアクセスし,拡大・縮小できる環境を用意していた(E1315参照)。

 この先代のデジタルコレクションの運用から得た知見をいくつか示しておきたい。まず,オープンソース技術を中核とするデジタルアーカイブの構築と運用には,セキュリティアップデート等に気を使う必要はあるものの,それ以外に問題点は生じなかったということが挙げられる。またシステム費用が抑えられたことで,公開するコンテンツ画像の充実に努めることができたというのも,着目すべき点である。そのほか「洛中洛外図屏風」に関しては,テレビ番組などでの利用や,国内外の美術館や博物館からの出陳依頼が増加したが,これはオープンアクセスのコンテンツが持つ訴求力の強さを示すものであろう。一方で,スマートフォンに代表されるモバイル機器に最適化した画面が用意されていないことや,IIIF(E1989参照)に対応できていないことは,利用者行動の面から見ても,早急に改善が必要とされる事項であった。

 かくして,これらの知見と経緯を踏まえ,当館のデジタルコレクションは2019年8月にリニューアルされた。今回のデジタルコレクションにおいても,先代と同様,全て当館内部で設計・構築が行われたほか,プラットフォームとしてWordPress,IIIFの画像サーバとしてCantaloupe,同じく画像ビューワとしてMirador,JavaScriptライブラリとしてD3.jsを採用するなど,オープンソースのソフトウェアを取り込んだ構成となっている。またレスポンシブデザインを全面的に採用することで,スマートフォンやタブレットといったモバイル機器でも,最適化された画面を提供することが可能となった。

 リニューアルに当たり最も重要視したのは,先の「洛中洛外図屏風」の事例が示すような,コンテンツそのものが有する訴求力を徹底的に高めることであった。すなわち,さまざまなコンテンツを,その魅力や価値を「再発見」できるような環境で提供するということである。

 例えばトップページには,公開されている画像の一部をスマートフォンの壁紙に設定するための方法を解説する特設ページへのリンク(アイコン)を配置することで,コンテンツの新たな楽しみ方を提案しているほか,アクセス数などを基にした「ランキング」,マスコミへの画像提供や博物館・美術館などへの出陳記録を視覚化した「貸出・放映紹介」といったページなどへのリンク(アイコン)を用意している。これにより,本サイトを訪れた初学者や一般の利用者が,作品名の入力などを行わずとも,何らかの「気になる」コンテンツに出会える環境を演出している。

 同様のコンセプトは,トップページ以外においても適用されている。「作品一覧」のページからは,さまざまなコンテンツの中から,自らが「見たい」と感じるコンテンツを見出すための手段として,「タグクラウド」や「ランダム」,「マッピング」,「書体」というページへのリンクを設定している。とくに「書体」は,数多くのコンテンツの書体のみにフォーカスし,それを一覧できるように設計しており,書体そのものの美しさを視覚的に味わうという,新たな楽しみ方の提案を行っている。また「マッピング」では,さまざまなコンテンツに含まれる名所旧跡等の画像のみにフォーカスし,それを現在の地図上に落とし込むことで,時間と空間の両面から,それらの変遷を視覚的に感じることができるようにしている。

 これらはいずれも一般の利用者の初歩的な興味を喚起するための試みでもあるが,一方で,本格的に作品の内容を楽しみたい,という利用者に向けてはMiradorのアノテーション機能を利用し,原画像と共に翻刻をあわせて表示することで,その読解を支援するという取組みも実施している。

 また画像の二次利用を促すための仕組みとして,各コンテンツには「著作権と使用権利の状況」を示すRights Statementsを利用しての条件表記を行っている。

 今回のリニューアルの目的は,このような試みを経て,最終的にはオープンにされたコンテンツが多面的に活用される環境を生み出すことである。当館としては,生まれ変わったデジタルコレクションが,新たな活用や知見,ひいては文化を生み出すための,よすがとなることを期待してやまない。

Ref:
https://bird.bukkyo-u.ac.jp/collections/
https://ja.wordpress.org/
https://cantaloupe-project.github.io/
https://projectmirador.org/
https://d3js.org/
https://rightsstatements.org/en/
E1315
E1989