E1315 – 佛教大学図書館デジタルコレクションの設計とデザイン

カレントアウェアネス-E

No.219 2012.07.26

 

 E1315

佛教大学図書館デジタルコレクションの設計とデザイン

 

 佛教大学図書館(以下,当館)では,2012年6月5日に,当館に所蔵される京都にまつわる御伽草子や絵巻,浄土宗文献等をウェブ上で閲覧できるデジタルアーカイブ「佛教大学図書館デジタルコレクション」を公開した。『洛中洛外図屏風』,『羅生門』,『法然上人形状絵図』など,計160点,画像数7,200枚(学内限定コンテンツ除く)のコンテンツを登載したもので,公開後は『洛中洛外図屏風』を中心に反響を集めた。当館では,本デジタルコレクション向けに,オープンソース技術を基盤に“BuArc”(ビュアーク)というデジタルアーカイブシステムを開発している。ここではその開発の経緯と今後の展望について紹介したい。

 当館では2007年より,デジタルアーカイブ「佛教大学図書館電子資料庫」を公開してきた。しかし,サイト設計が最新のウェブ技術を反映していないなど,近年,多くの問題が認識されるようになってきており,抜本的なリニューアルが必要とされていた。このため2011年11月に,2012年度初頭の公開を目標として,新たなデジタルアーカイブの設計・構築作業を開始することにした。

 当館におけるシステムの開発や構築は,欧米の図書館などに見られるように,できるだけ図書館内部において行うことを基本姿勢としている。特にウェブに関しては,図書館の意思や変更を速やかに反映し,更新作業を行うために,内部で人員を確保することが最も重要であると考えている。

 現在当館は,これらの業務について,ウェブデベロッパーである井ノ上靖,ウェブデザイナーである二村智子,図書館内の統括的なシステムエンジニア業務を担当する飯野の3人が従事している。当館では図書館ポータルサイトを始めとするウェブ上のサービスに加え,クライアント端末やサーバ向けのソフトウェアなどの設計・開発も日常的に行っているが,その際は,それぞれが専門とする分野に傾注できるよう,チーム内で共同分担方式による構築体制を採用している。今回のデジタルコレクションと,その根幹であるBuArcに関しても例外ではなく,同様の体制により,図書館内部で開発をしている。

 BuArcの開発に当たっては,井ノ上と二村の「図書館という枠を超えていくことのできるウェブサイトを構築したい」という想いを踏まえ,以下のような基本コンセプトとそれを実現するための技術的要件を設定した。すなわち基本コンセプトは(1)貴重で歴史的価値のあるコンテンツを学内のみならず,広く一般の方の利用に供し,教育的,研究的なフィールドで役立ててもらうこと,(2)長期的な運用を考え,運転費用を抑えた形で,運営者側での自由な設計,構築,修正を可能にすること,である。

 基本コンセプトの(1)を満たすための技術的要件としては,(a)メインコンテンツの画像をストレスなく高解像度で閲覧できる技術の採用と,(b)ユーザビリティ,アクセシビリティに配慮したデザインとサイトナビゲーション設計を行うこと,を念頭に置いた。また(2)については,(c)ウェブ標準に準拠し,セマンティック・ウェブ対応にも適したHTML5による構築,(d)非商用のオープンソース技術を最大限利用すること,を要件とした。

 これらの要件を踏まえ,BuArcではコンテンツ管理のために,オープンソースのCMSであるWordPressを採用した。採用の理由として,図書館ポータルサイトで長らく運用実績があったこと,ダブリンコアに準拠したメタデータの登録を行う設計が可能なこと,デジタルアーカイブ構築に有効なプラグインが豊富なこと,などがあげられる。

 一方,デジタルアーカイブとしての基盤ともいうべき画像については,JPEG画像を劣化させずに軽量化できるウェブサービスJPEGminiを使い,ファイルサイズを約20%削減した。また画像コントロールの技術として,高解像度の画像であっても,ブラウザ側に送信する情報を最小限にすることで,負荷を軽減したスムーズな閲覧が可能となるDeep Zoomを採用した。描画については,JavaScriptライブラリであるSeadragon Ajaxを利用することで,ユーザがブラウザ上に特定のプラグインを組み込むことなく,拡大・縮小といった自由な動きを実現させた。また独自のスクリプトを追加し,WordPressと連携させることで,サムネイル一覧の表示,翻刻の表示,ページ送りが可能となった。Seadragon AjaxはCambridge Digital LibraryやEuropeanaの一部コンテンツにおいても採用されている。

 現状BuArcにはいくつかの解決すべき課題も存在する。例えば,インターフェースの英語化や,スマートフォンからアクセスするための専用画面の製作,ダブリンコアを生かした,外部データベースとのOAI-PMHによるデータ連携機能の実装なども考えねばならないだろう。

 BuArcはオープンソースをベースに開発したこともあり,汎用性は広い。最終的にはBuArc自身をオープンソースパッケージとして公開することも,検討できればと思っている。

(佛教大学図書館・飯野勝則)

Ref:
http://archives.bukkyo-u.ac.jp/collections/
http://b.hatena.ne.jp/articles/201206/9082
http://bulib.bukkyo-u.ac.jp/docs/portal/
http://wordpress.org/
http://www.jpegmini.com/
http://msdn.microsoft.com/en-us/library/cc645050%28VS.95%29.aspx
http://gallery.expression.microsoft.com/SeadragonAjax/