E1316 – 公共図書館のOPACでラジオ番組を:シアトル公共図書館の取組

カレントアウェアネス-E

No.219 2012.07.26

 

 E1316

公共図書館のOPACでラジオ番組を:シアトル公共図書館の取組

 

 2012年7月12日,米国のシアトル公共図書館からニュースリリースがあった。その内容は,シアトル公共図書館の蔵書検索システム(OPAC)において,ラジオ番組で放送された音楽のライブパフォーマンスをストリーミング配信する,というものである。

 同館のOPACで検索可能となったのは,同じシアトルにあるラジオ局“KEXP”の番組である。KEXPは1972年に設立され,ワシントン大学(ワシントン州)のラジオ局として,シアトルを中心に文化的影響力のある存在として知られている。そのコーナーの1つに,インディーズ,ヒップホップ,レゲエなど様々なジャンルのアーティストのスタジオライブパフォーマンスを放送するものがあり,年間200回ほどのペースで放送されている。シアトルを拠点として活動し将来を期待されるインディーズバンドから,ノラ・ジョーンズ,ブラック・キーズといった著名なアーティストまでライブパフォーマンスを行っており,蓄積された録音ファイルは3,200本にのぼる。このコレクションがすべて検索可能になった。

 同館のOPACに登録されているのはこの録音音声ファイルのメタデータである。ファイルは,KEXPのサーバに保持されており,OPACからダイレクトにアクセスすることができる。いわゆる図書館の所蔵資料の位置づけではないため,同館の利用カードを持たない人も,同館のOPACで検索したライブパフォーマンスを,特に手続きすることなく聞くことができる。

 シアトル公共図書館はなぜこのようなサービスを開始したのだろうか。Library Journal誌の取材に対し同館の情報技術課長ローター(Jim Loter)氏は,情報資源発見のプラットフォームであるOPACにおいて,これまで図書館に所蔵されてこなかった資料まで含め,より多くの資料を利用できるようにすることに関心があったと述べている。Library Journal誌はこの発言を受け,同館の目標は,図書館所蔵資料のみしか発見できない排他的な環境から,図書館の資料も地域内の他の所にある資料も発見できるポータル環境へシフトすることにある,と評している。

 このOPACの可能性を広げたい図書館側の意向は,KEXP側の意向,すなわち所有するコンテンツの可視性を向上させたいという意向と一致した。そもそもこの企画は,1年半ほど前に,シアトル公共図書館とKEXPのリーダー同士の交流の際に,興味深い情報資源の発見に関わっている機関同士としてどのような協力関係があり得るのかを模索する中から生まれたものである。最も簡易かつ低コストで得られる成果として,このオリジナルのライブパフォーマンスのコレクションが着目されたのだという。

 ニュースリリースにおいて同館司書のターナー(Marcellus Turner)氏は,図書館とラジオ局のこのような協力関係はおそらく初めてのものであるとの認識を示し,その上で,このユニークな関係を通じて,同館の音楽コレクションにKEXPの音楽という思いがけない“おまけ”を持ちこむことができたことにワクワクしていると述べている。シアトル住民の中からも,この思いがけない“おまけ”を発見し喜ぶ利用者が現れてくるのではないだろうか。

(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://www.spl.org/about-the-library/library-news-releases/kexp-recordings-712
http://www.thedigitalshift.com/2012/07/media/seattle-public-library-partners-with-kexp-radio/
http://seattle.bibliocommons.com/search?t=smart&search_category=keyword&q=in-studio_performance