カレントアウェアネス-E
No.383 2020.01.16
E2215
大図研京都セミナー「メディアドクター研究会 in京都」開催
大学図書館問題研究会京都地域グループ・山下ユミ(やましたゆみ)
メディアドクター研究会・佐藤正惠(さとうまさえ)
大学図書館問題研究会(以下「大図研」)は,1970年に誕生した現場の図書館員を中心とする自主的・実践的な研究団体で, 地域ごとに活動の場があり,京都地域グループ(以下「大図研京都」)もその1つである。
2019年10月27日,秋晴れの美しい季節,京都府立図書館を会場として「大図研京都ワンデイセミナー メディアドクター研究会in京都」(テーマ「iPS細胞と臨床試験」)を開催した。大図研京都主催,メディアドクター研究会共催として開催し,テーマや取り上げる記事の選定,進行スケジュール設定などの企画は,山下ユミ(ヘルスサイエンス情報専門員上級),渡邊清高 (帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科准教授,メディアドクター研究会 幹事長),佐藤正惠 (司書・ヘルスサイエンス情報専門員上級),北澤京子(京都薬科大学客員教授),および大図研京都で行った。参加者数は28人で,内訳は大学図書館員,医療従事者,メディア関係者,学生,研究者等であった。以下当日の様子を報告する。
本企画は,大図研京都がメディアドクター研究会の「ご当地版メディアドクター企画募集」に応募して実現した。応募した理由は,大図研京都に所属する著者(山下)が,メディアドクター研究会に何度か参加した経験があり,研究会の内容や進め方を非常に興味深く感じ,ぜひ京都でも行いたいと考えたためである。
メディアドクターの活動は2004年にオーストラリアで始まり,世界各国で実施されてきた。医療・保健記事を書く際に,その品質を向上させようとする活動であり,医療の専門家とメディア関係者とがチームを組んで,社会に発信された医療・保健記事を臨床疫学などの視点から「採点」,「評価」し,その結果をインターネット上に公表するのが主な活動である。日本では2007年に研究会として発足し,定例会においてさまざまな立場・年齢からなる参加者により議論を行うことが海外にはない特色である。単に記事を評価するだけでなく,記事のABC (Accuracy: 正確さ,Balance: バランス,Completeness: 完全さ) を高めることを重視している。
これまで全国各地で,中学・高校・大学の授業,図書館員研修や患者・市民向けセミナー等としてワークショップを行い,身近なネットニュースや新聞記事を題材に自ら考え議論し,ヘルスリテラシー・情報リテラシー・メディアリテラシーを身につけられる場として機能してきた。
また,メディアドクター研究会では,海外で用いられていた評価軸を邦訳し日本の状況に合わせて,メディアドクター指標日本版(以下「MD指標」)を作成している。その指標についても,30回を超える定例会での評価作業と議論,合意形成を通じて,日本の実態に即した改訂を加えている。MD指標は,以下の10項目のほか5項目簡略版を作成している。
- 利用可能性(Availability)
- 新規性(Novelty)
- 代替性(Alternatives)
- あおり・病気づくり(Disease mongering)
- 科学的根拠(Evidence)
- 効果の定量化(Quantification of Benefits)
- 弊害(Harms)
- コスト(Cost)
- 情報源と利益相反(Sources of Information/Conflict of Interest)
- 見出しの適切性(Headline)
- (メディアドクター研究会作成)
セミナー当日は,大図研京都から開会あいさつの後,参加者自己紹介,プレセミナー「Googleと医療情報」,MD指標の説明の後,ワークショップとして各個人で新聞記事2本を読み,MD指標に基づき評価した。さらに4,5人のグループディスカッションにより,各自の評価に関して活発な意見交換が行われた。プレスリリースの作られ方に関する解説の後,グループ発表では,グループ間の評価に関する意見の一致や相違点がわかり,同じ記事と指標を用いても受取り方はさまざまであり,多彩な視点があることを知ることができた。京都で誕生したiPS細胞というご当地ならではのテーマで,偶然にも記事を執筆した新聞記者やプレスリリース発信機関関係者も参加し,それぞれの立場からのコメントで報道をより複眼的に見る貴重な機会となった。
参加者アンケートでは好意的な感想が寄せられた。大図研の会員の中にはメディアドクター研究会を今回初めて知った人も多かったが,「様々な立場から一つの記事に意見を言い合う機会を楽しめた」「考え方としては医学系に限らず,理工学,人文系へ様々に応用できると思う」といった意見・感想が聞かれた。大図研京都でご当地版メディアドクターを主催したことで,職業の違いを超えて同じテーマで活発に交流・議論できたこと,また,この研究会の活動を全く知らなかった人にも,このワークショップを体験し楽しんでいただけたことは,企画者として本当にやってよかったと思う。
当日の様子については,大図研京都のウェブサイトをご参照頂きたい。大図研京都では様々なかたちで,研修・経験交流の場を提供するため活動しており,会員相互の交流を深めていくとともに,新たな仲間を増やしていきたいと願っている。また,MD指標の転載やワークショップ開催等については,メディアドクター研究会にご連絡願いたい。
Ref:
https://www.daitoken.com/kyoto/
https://www.daitoken.com/kyoto/event/20191027.html
http://www.mediadoctor.jp/
http://www.mediadoctor.jp/menu/search.html