E2216 - 北海道立図書館を研究拠点にした資料系同人誌製作<報告>

カレントアウェアネス-E

No.383 2020.01.16

 

 E2216

北海道立図書館を研究拠点にした資料系同人誌製作<報告>

資料性博覧会準備会・國澤博司(くにさわひろし)

 

 2019年9月21日にまんだらけ札幌店イベントスペースにて資料系同人誌の即売会「資料性博覧会・札幌」を開催し,このイベントの中での催しの一つとして「北海道道立図書館を研究拠点にした資料系同人誌製作のすすめ」と題したセミナーを実施した。

 資料系同人誌とは,研究や調査をまとめた同人誌および研究のための資料とすることを目的とした同人誌を指す。このような同人誌は,最大規模の同人誌即売会であるコミックマーケット(CA1672参照)における頒布スペースの配置を決める際のカテゴリ「評論・情報」の中に多く存在する。コミックマーケットにおいて,以前はマンガ以外の同人誌というと小説と評論が主だったが,2000年以降Adobe InDesignなどパソコン上で割付などができるDTPソフトが普及するにつれ,一つのテーマを掘り下げた自主製作のビジュアルムック的な内容を持つ同人誌が増え注目を集めるようになっている。例えば,書店が購入時に被せてくれる様々な書皮のデザインを集めた資料,地方にしかないコンビニのホットスナック研究本,全貌が明らかになっていないお菓子のオマケのフルコンプリートカタログなど,マニアックなものが多いのも特徴である。

 このような同人誌を製作するサークル(製作者またはそのグループ)は情報系サークルとカテゴライズされる。また鉄道・旅行・ミリタリー,TV・映画・芸能・特撮といったカテゴリや,アニメ・マンガ・ゲームなどのコンテンツで分けられたジャンルの中にもマンガやイラスト作品だけでなく情報系のアプローチを行うサークルが点在している。ちなみに,実食によるレポートを中心とした飲食に関するサークルは現在「評論・情報」に組み込まれているがサークルが増加傾向にあり,今後独立する可能性をもつジャンルに成長している。

 「資料系同人誌」という名称は,筆者が社員として所属している株式会社まんだらけの古書販売業務を行う中で便宜的に使用し始めた単語である。顧客へ向けてのアナウンスとして「研究資料としての用途を持つ同人誌」という観点で取り扱いを始めたことに由来している。インデックス化されたデータベースだけでなく,受け手がどのように使用するかを想定しない専門性の高いアーカイブなど資料そのもの(material)を取り扱うことを想定しており,図・写真・表・グラフ・リストなど手法は不問とし形態も冊子に限定していない。

 このような資料性の高い同人誌を幅広く受け入れる展示即売会という意味から「資料性博覧会」という名称で,2009年から東京・中野を中心に年1,2回展示即売会を開催している。「資料性博覧会」に参加するサークルの都道府県別の割合を見ていくと東京が7割,大阪が2割,あと1割がその他となっており,東京以外でイベントを開催するほどの参加サークルを確保することは困難な状況にある。しかしその魅力を伝えるためのイベントとして,過去10年に参加したサークルから提出された見本誌約1,000冊を自由に閲覧できる展示会+委託品の頒布を同博覧会の準備会が請け負う形式で,地方開催を2018年から始めた。本セミナーを札幌で開催した理由は,資料系同人誌を製作するサークルは資料調査のしやすい雑誌や新聞の所蔵が充実した機関のある地域に集中する傾向があるのだとすれば,道立図書館の特性を活かすことで札幌は東京・大阪に次ぐ研究の拠点になりうる可能性があると考えられるからである。なお,この即売会は筆者の所属会社が母体となっていることから,アニメ・マンガ・玩具の研究に関する同人誌が多く集まるのも特徴である。そして筆者の社内での所属がヴィンテージコミック部門のため,セミナーの内容が,マンガに限定したものになっていることに留意いただきたい。

 道立図書館は,1963年以降数次にわたり東京都千代田区神田神保町に本社を置く出版取次業者である栗田ブックセンター(現・栗田出版販売(株))からの寄贈を受け入れた。これにより道立図書館には,東京の国立国会図書館及び同国際子ども図書館・米沢嘉博記念図書館・大宅壮一文庫や,大阪府立中央図書館国際児童文学館,京都国際マンガミュージアムといった機関にも所蔵されていないマンガ雑誌や単行本が数多く所蔵されている。

 セミナーでは国立国会図書館サーチと道立図書館の蔵書検索システムを同時に開き,検索の実演を行った。個人からの寄贈ではなく取次が保管していた蔵書のため,国立国会図書館に比べて極めて雑誌の欠号が少ないことなどについて実例をあげた。議題を単行本へ移し道立図書館の「栗田漫画リスト」からいくつかの本をピックアップして,高額で取引されている単行本についてや,帯・カバー・スリップなどが付属した状態で保存されていること,そこから読み解くことが可能な流通の変化と希少性について解説した。道立図書館のマンガ関連の所蔵状況に関しては一部の研究者たちの間では比較的知られていたが,盗難や破損の恐れもあることを懸念して不用意に情報を広めることはしてこなかったはずである。だが徐々に認知が広がりつつある今は隠すことよりも,逆に優れている部分を広めることで保全への意識が高まることになるのではないかと考えたのも,今回セミナーを開催した理由の一つになっている。

 さらに具体例として筆者自身がマンガに関する研究書『番外地劇画 凡天太郎の魅力』を執筆するための調査の際,1940年代後半から1960年代前半にかけての雑誌の充実度に着目して道立図書館を活用したことを例としてあげた。特に紙芝居,赤本,絵物語,月刊誌,貸本,劇画雑誌と時代の変遷とともに表現方法と発表媒体が次々と変化していく1975年頃までに関して,実物を入手するか道立図書館でしか調査できない案件が非常に多いと実感したことを述べた。

 質疑応答では,東京・大阪の所蔵機関と道立図書館の所蔵状況の差分を利用して自身のテーマにすることも一つの手段ではないかと提案し,締めくくった。

Ref:
https://www.mandarake.co.jp/information/event/siryosei_expo/gaiyo.html
https://www.mandarake.co.jp/information/event/siryosei_expo/siryosei_spr-event-seminar.html
https://www.library.pref.hokkaido.jp/web/publish/qulnh000000006zl-att/vmlvna000000430a.pdf
http://www.library.pref.hokkaido.jp/web/publish/qulnh000000006rv-att/vmlvna0000006ats.pdf
CA1672