E2301 – オープンな画像の利活用を開拓するIIIF Curation Platform

カレントアウェアネス-E

No.398 2020.09.17

 

 E2301

オープンな画像の利活用を開拓するIIIF Curation Platform

ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター/国立情報学研究所・北本朝展(きたもとあさのぶ)

 

   IIIF(E1989参照)はライブラリやミュージアムにおける画像配信形式として,ここ数年の間に国際的にも急速に普及が進んだ技術である。画像配信形式をIIIFで共通化できれば,画像の公開や閲覧に必要なソフトウェアを共通化でき,利活用に伴う学習コストも低下することが期待できる。しかしIIIFがもともと画像提供者側の問題意識から提案されたこともあり,現在のIIIF仕様は提供者側のニーズに焦点を合わせており,利用者側のニーズを反映しているとは言えない。このギャップに着目し,IIIF画像の新たな利活用を開拓するのが本稿で紹介するIIIF Curation Platform (ICP)の目標である。

   ICPはROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)が開発するソフトウェア群であり,本間淳氏とザヤ(Tarek Saier)氏がコア開発者として構築を進めている。2016年11月に最初のプロダクトであるIIIF Curation Viewer(ICViewer)をリリースし,本稿公開時点では,ウェブブラウザ上で動作するソフトウェアが7点,特定目的に設計されたアプリが1点,サーバ側で動作するPythonプログラムが3点,そして導入を支援するDocker設定が1点という規模に成長した。これらのソフトウェアはAPIを通して連携動作するよう設計されており,目的に応じ組み合わせて利用するが,中でも要に位置するのがICViewerである。

   ICViewerは世界中で公開されているIIIF画像を閲覧できる画像ビューアであり,2020年5月29日にバージョン1.9を公開した。他のIIIF画像ビューアと同様,IIIFマニフェストを読み込むことで画像を表示しページを移動できるが,ICViewerの独自性はそれ以外の部分にある。第一に,キュレーションという独自の構造をIIIFの世界に導入し,IIIF Image APIの仕組みを活用した部分画像へのリンクを収集可能とした。これにより,日本美術の絵本・絵巻から顔の部分のみを切り取り収集した「顔貌コレクション」のように,テーマ別の画像コレクションを利用者が独自に作成し公開できるようにした。第二に,部分画像を切り取ってエクスポートする外部サービス連携の仕様を定めた。これにより,CODH「KuroNetくずし字認識サービス」や東京大学「貼り込み資料画像検索プロトタイプ」のように,画像提供者以外が公開する画像サービスを利用者が独自に呼び出し使えるようにした。第三に,IIIF画像上に様々な情報をオーバーレイ表示できるアノテーションビューモードを追加した。これにより,「KuroNetくずし字認識サービス」のようにくずし字認識による翻字を元の画像に重ねたり,「江戸マップβ版」のように国立国会図書館(NDL)が提供する古地図「江戸切絵図」上に地図マーカーを重ねたりするなど,利用者が独自の付加情報をオーバーレイ表示できるようになった。

   このように,利用者が自由に画像を収集し,処理し,公開するワークフロー全体を支援する基盤として,ICPはIIIF画像の新たな利活用を開拓する役割を果たしている。そしてICPの最新ツールとして2020年9月17日に公開するIIIF Curation Boardにより,画像を収集してから公開するまでの間に,KJ法のような発想支援という新たなプロセスも組み込めるようになる。このツールは,すでにICViewer等で作成したキュレーションを読み込んだ後,画像を2次元平面上に配置し並べ替えグルーピングする機能を提供する。CODHの鈴木親彦氏や東京大学の髙岸輝氏を中心とする研究グループが,このツールを「顔貌コレクション」で収集した顔画像の分類に利用し,顔の描き方の特徴に基づき様式分析を行う美術史研究に有効であることを確認した。また作業途中で保存したキュレーションは研究過程の記録としても使えるため,研究の検証可能性を高めるという意味でのオープンサイエンスにもつなげていくことができる。このようにICPは,画像に基づく人文情報学研究でも新たな可能性を開きつつある。

   ICPはいずれもオープンソースライセンスで配布している。誰でも使えるデモ機能も一部提供しており,ぜひウェブサイトにアクセスし活用してほしい。

Ref:
IIIF Curation Platform.
http://codh.rois.ac.jp/icp/
International Image Interoperability Framework.
https://iiif.io/
“IIIF Curation Platformの特長”. ROIS-DS CODH.
http://codh.rois.ac.jp/iiif-curation-platform/
“IIIF Curation Viewer”. ROIS-DS CODH.
http://codh.rois.ac.jp/software/iiif-curation-viewer/
“顔貌コレクション(顔コレ)”. ROIS-DS CODH.
http://codh.rois.ac.jp/face/
“KuroNetくずし字認識サービス”. ROIS-DS CODH.
http://codh.rois.ac.jp/kuronet/
“【アーカイブズ事業】「貼り込み資料画像検索プロトタイプ」とIIIF Curation Platformの連携について”. 東京大学附属図書館. 2019-06-26.
https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/contents/news/20190626
“ICPから利用可能な外部サービス”. ROIS-DS CODH.
http://codh.rois.ac.jp/icp/service-repository/
“IIIF Curation Board”. ROIS-DS CODH.
http://codh.rois.ac.jp/software/iiif-curation-board/
“江戸マップβ版”. ROIS-DS CODH.
http://codh.rois.ac.jp/edo-maps/
“江戸切絵図から探す:江戸切絵図一覧”. 錦絵でたのしむ江戸の名所.
https://www.ndl.go.jp/landmarks/edo/
北本朝展, 本間淳, Tarek SAIER. “IIIF Curation Platform:利用者主導の画像共有を支援するオープンな次世代IIIF基盤”. 人文科学とコンピュータシンポジウム じんもんこん2018論文集. 東京, 2018-12-01/02, 情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会. 2018, p. 327-334.
http://agora.ex.nii.ac.jp/~kitamoto/research/publications/jm18c.html.ja
北本朝展, 山本和明. “人文学データのオープン化を開拓する超学際的データプラットフォームの構築”. 人文科学とコンピュータシンポジウム じんもんこん2016論文集. 東京, 2016-12-09/11, 情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会. 2016, p. 117-124.
http://agora.ex.nii.ac.jp/~kitamoto/research/publications/jm16.html.ja
里見航. IIIF Japanシンポジウム<報告>. カレントアウェアネス-E. 2018, (340), E1989.
https://current.ndl.go.jp/e1989