E2302 – 2019年から2020年の図書館システムの市場動向は?

カレントアウェアネス-E

No.398 2020.09.17

 

 E2302

2019年から2020年の図書館システムの市場動向は?

琉球大学附属図書館・大谷周平(おおたにしゅうへい),與那覇政輝(よなはまさき)

 

   図書館システムコンサルタントであるブリーディング(Marshall Breeding)氏による2つのレポートが公開されている。1つは氏の運営するウェブサイト“Library Technology Guides”上で2020年3月に公開された“Library Perceptions 2020: Results of the 13th International Survey of Library Automation”,もう1つは米国図書館協会(ALA)の刊行するAmerican Libraries誌2020年5月号掲載の“2020 Library Systems Report : Fresh opportunities amid consolidation”である。ともに継続的に発行されているもので,図書館システムの動向に関するマイルストーンとなっている(E1563ほか参照)。本稿ではこの2つの内容を概観する。

   前者は統合型図書館システム(ILS)と図書館サービスプラットフォーム(LSP;CA1861参照)を対象に,コレクション規模,システムの機能評価,他システムへの移行検討状況等を調査した結果をまとめたレポートである。調査は2019年11月から2020年2月にかけて行われ、米国を中心に95か国3,234機関から寄せられた,オープンソースも含めて132製品についての回答を分析している。ILSからLSPへの移行が本格化していること,オープンソースの図書館システムが広く定着していることなど7項目を注目すべき所見として挙げている。

   後者は図書館システム事業者側への調査や各社のプレスリリースなどを基に市場動向をまとめたものである。ILS,LSPだけでなくディスカバリーサービスや関連製品も対象とし,各事業者のビジネス戦略の分析が行われている。2019年から2020年にかけてのトレンドは,副題として「統合の中の新しい好機」と表現されている。以下でこのトレンドを軸に,前者も参照しつつ,後者の記述に基づいて有力企業の動向を述べる。

   2019年の最も大きな統合は,ProQuest社傘下のEx Libris社によるInnovative Interfaces社(以下「Innovative社」)の買収である。Ex Libris社は他にも相互貸借サービスRapidILLをコロラド州立大学から取得している。その他には,スウェーデンのAxiell社が北欧の競合社を買収しスカンジナビアでの地位を強化していること,OCLCがバーチャルリファレンスサービスQuestionPointを売却したことなどが挙げられる。ブリーディング氏は図書館システム事業者のM&A史のインフォグラフィクスも公開している。

   Ex Libris社とInnovative社の統合は学術図書館と公共図書館のシステム産業に大きな影響を与える。Ex Libris社は,学術図書館市場での地位をさらに確固たるものにし,公共図書館市場に本格的な参入を行うと推測される。

   学術図書館市場では,Ex Libris社はLSP Almaで既に大きく成功を収めていた。2019年に大規模学術図書館やコンソーシアムと新たに102の契約を獲得し,計1,769機関で導入されている。電子媒体の管理機能を中心に導入機関からの評価も高く,他システムへの移行はほとんど考慮されていない状況である。今後はInnovative社のILS利用機関からの移行により,さらにシェアを伸ばし,ディスカバリーサービスの販売にも好影響がもたらされると考えられる。

   公共図書館市場では,Innovative社は大きなシェアを有しており,Ex Libris社のこれまでのビジネスを補完すると考えられる。現時点では新製品の発表等は行われていないが,Ex Libris社の実績と技術力から,既存のILSを維持するに留まらず,停滞している公共図書館市場へ長期的な変革をもたらすことが予想される。ただし,この変革はEx Libris社単独ではなく,競合他社やオープンソース技術などとともに実現されるとも指摘している。

   ProQuest社のライバルであるEBSCO社は,独自ILSの開発やILS事業者の買収を行うのではなく,パートナーシップやオープンソースのソフトウェアの開発支援といった戦略をとっている。EBSCO社が支援しているオープンソースのLSP FOLIOの開発が進み,伝統的なILSからの移行選択肢の1つとして関心が高まっている。Almaは手強い競合相手であるが,FOLIOの開発が順調に進み,初期導入機関で良好な結果を残せれば,学術図書館の一定の市場を獲得することが予想される。両レポート公開後に,FOLIOは基本機能が実装されたバージョン1.0のリリースが行われ,EBSCO社もFOLIOのホスティング,導入,サポートを提供するEBSCO FOLIOサービスを発表している。

   OCLCは,LSP WorldShare Management Serviceを主要製品として展開している。中規模学術図書館を中心に新たな56の契約を獲得し,計604機関に導入されている。Almaと同様に電子媒体の管理機能が高く評価されている。また,公共図書館市場では,オランダで成功したILSをOCLC Wiseにリブランドし,米国に向けた展開を進めている。Wiseは既存ILS機能に加えてメッセージツールを用いた図書館によるマーケティング機能を強化したものでコミュニティエンゲージメントシステムと位置づけられている。

   これらの有力企業を中心として,図書館だけでなく親組織やコミュニティを対象とした新たな製品カテゴリが形成されつつある。特に教育支援サービスへの関心が高まっている。具体的には,オープン教育資源(OER)のディスカバリーサービスや大学の学習管理システムと連携して授業の関連資料を集約するコースリーディング支援サービスなどが挙げられる。公共図書館では先述のOCLC Wiseのようにコミュニティとの関係性強化を重視した開発が行われている。

   今後の展望として,新型コロナウイルス感染症の影響は未知数だが,図書館システム産業は高い技術力をもつ有力企業がリードする成熟した段階に到達していること,企業統合が今後さらに進んでいくこと,公共図書館市場の動向に注目が必要であることなどを指摘し,レポートは締めくくられている。

Ref:
Breeding, Marshall. “Library Perceptions 2020: Results of the 13th International Survey of Library Automation”. Library Technology Guides. 2020-03-05.
https://librarytechnology.org/document/24957
Breeding, Marshall. “Library Perceptions 2020: Results of the 13th International Survey of Library Automation”. Library Technology Guides. 2020-03-05.
https://librarytechnology.org/perceptions/2019/
Breeding, Marshall. 2020 Library Systems Report : Fresh opportunities amid consolidation. American Libraries, 2020, 51(5), p. 30-41.
https://americanlibrariesmagazine.org/2020/05/01/2020-library-systems-report/
“Ex Libris Completes the Acquisition of Innovative”. ExLibris. 2020-01-16.
https://www.exlibrisgroup.com/press-release/ex-libris-completes-the-acquisition-of-innovative/
“History of Mergers and Acquisitions in the Library Technology Industry” . Library Technology Guides.
https://librarytechnology.org/mergers/
“FOLIO’s Goldenrod Release Signifies Version One of the Open Source Library Services Platform is Ready for Adoption”. FOLIO. 2020-07-27.
https://www.folio.org/about/news-events/article/folios-goldenrod-release-version-one-of-the-open-source-library-services-platform-ready-for-adoption/
“EBSCO FOLIO Services Available to Libraries Implementing the FOLIO Library Services Platform”. EBSCO. 2020-08-26.
https://www.ebsco.com/news-center/press-releases/ebsco-folio-services-available-to-libraries-implementing-folio
篠田麻美. 2013年から2014年の図書館システム市場動向は?(米国). カレントアウェアネス-E. 2014, (259), E1563.
https://current.ndl.go.jp/e1563
大谷周平. Library Services Platformの現在. カレントアウェアネス. 2015, (326), CA1861, p. 9-14.
http://doi.org/10.11501/9589933