カレントアウェアネス-E
No.400 2020.10.15
E2310
公立図書館における蔵書構成・管理に関する報告書について
全国公共図書館協議会事務局(東京都立中央図書館)・川上尚恵(かわかみひさえ)
●調査目的
全国公共図書館協議会は,2018年度に蔵書構成・管理についてのアンケート調査を実施,2019年度にはその調査結果を分析し、それぞれ『2018年度(平成30年度)公立図書館における蔵書構成・管理に関する実態調査報告書』『2019年度(令和元年度)公立図書館における蔵書構成・管理に関する報告書』を発行した。全国の公立図書館における蔵書構成・管理の実態を把握・分析し,今後の蔵書構成・管理に関する課題解決の一助となり,図書館の一層の発展に資することを目的としたものである。過去の類似調査では,蔵書構成プロセスの「資料選択」に関わる調査が多かったが,今回の調査では,資料選択のほかにも幅広く取り上げることとした。
●調査内容
蔵書構成・管理について,(1)図書館基本情報,(2)収集(資料選択),(3)蔵書評価,(4)除籍,(5)保存,(6)都道府県域での資料保存の取組についての実施状況等を調査した。
●調査対象
図書館法第2条第2項に定められる公立図書館を対象とし,各地方公共団体(自治体)において資料の収集や保存等について中心的役割を担う館(以下「中心館」)がとりまとめて回答することとした。回答館数および回答率は都道府県立図書館が47館(100%),市区町村立図書館が1,326館(99.5%)であった。
●分析の概要
・収集(資料選択)
自治体や図書館の規模(蔵書数,資料費)が大きいほど,収集方針,選定基準,寄贈資料の受入規程の明文化率が高くなっている。また,図書館の規模ほどではないが,竣工年が新しい図書館ほど明文化率が高い傾向が見られた。資料の選定については,自治体や図書館の規模が大きいほど,定期的に選書会議を行っており,より選書に手をかけることができるということが推察される。選書の最終決定者は,図書館長である割合が高いが,規模が小さいほど,教育委員会の長が決定者となる割合が高いことがわかった。
・蔵書評価
約7割の図書館で蔵書評価の実施経験がなく,今後も行う予定がないとの回答だった。全体的に蔵書評価の実施率が低いが,自治体や図書館の規模が大きい(E1923参照),あるいは中心館の運営主体が指定管理者・PFI事業者(非直営館)であると,実施している,または実施経験がある傾向が見られた。自治体職員のみで運営されている図書館よりも,一部委託や指定管理者中心で運営されている図書館等の方が,実施率が高いのは,仕様書等により業務内容が明確にされていることも関係していると思われる。
・除籍
自治体や図書館の規模が大きいほど,除籍方針,除籍基準の明文化率が高くなる傾向が見られたが,それぞれ一定規模を超えると明文化率が下がった。除籍する資料の選定については,自治体や図書館の規模が大きいほど正規職員が除籍資料の選定に携わっている割合が高い。規模による分析では,どの区分においても正規職員が選定者となっている割合が最も高いが,運営主体で分析すると,非直営館では,委託・派遣職員が選定する割合が正規職員より高くなっている。除籍資料の決定方法は,全体的に書面回付等による合議形式がもっと多いが,図書館の規模が大きいほど除籍する資料を決定するための会議が開催されている割合が高い傾向が見られた。また,除籍の最終決定は,自治体や図書館の規模が大きいほど図書館長が,規模が小さいほど教育委員会や自治体の長が行う割合が高い。
・保存
自治体や図書館の規模が大きいほど保存方針の明文化率が高いが,保存基準の明文化については,規模との関係性は見出せなかった。保存環境については,書庫が収蔵能力の限界を迎えると予想される年数に着目し,分析を行った。図書館の規模や竣工年とクロス集計を行った結果,規模や竣工年に関わらず全国ほぼすべての図書館において,収蔵スペースの確保が困難な状況,もしくは収蔵能力の維持が大きな課題となっている現状が改めて示された。
・都道府県域での資料保存の取組
全国23都道府県で県域レベルの資料保存の取組が実施されており,そのうち,雑誌・新聞等の複数の資料について共同保存を実施している県が5県あった。保存方式は複数館で役割を分担し保存する「分担保存方式」,保存場所は「各所蔵館の書庫」,所有権は「所蔵館で保持」が最も多かった。取組を実施している都道府県に特別な地域性は見られないが,西日本側に多いことがわかった。
●分析結果から見えた今後の課題
近年,資料の永年保存をうたってきた大規模な図書館で書庫の狭隘化が課題となっている一方,市区町村立図書館においても,限られたスペースの中で資料の選定,保存や除籍をどのように行っていくかが課題となっている。蔵書構成・管理が適切に行われるよう,収集・除籍・保存の各方針の策定への支援が必要である。また,蔵書評価の実施率が低い原因は,効果的で簡便な手法がないためではないかと考えられる。規模や背景が異なる図書館でも使える共通の手法が確立されることが望ましい。
自由意見では,都道府県立図書館を中心とする集中保存方式への要望が多く挙げられたが,近年では自然災害で図書館の蔵書が万単位で被災する事例も出てきている。集中方式の共同保存が唯一の選択肢なのか,検討していく必要がある。
Ref:
全国公共図書館協議会. “2019年度(令和元年度)公立図書館における蔵書構成・管理に関する報告書”. 東京都立図書館.
https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/zenkoutou/report/2019/index.html
全国公共図書館協議会. “2018年度(平成30年度)公立図書館における蔵書構成・管理に関する実態調査報告書”. 東京都立図書館.
https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/zenkoutou/report/2018/index.html
全国公共図書館協議会. 2019年度(令和元年度)公立図書館における蔵書構成・管理に関する報告書. 全国公共図書館協議会. 2020, 132p.
https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/uploads/report2019.pdf
全国公共図書館協議会. 2018年度(平成30年度)公立図書館における蔵書構成・管理に関する実態調査報告書. 全国公共図書館協議会. 2019, 101p.
https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/uploads/10zentai.pdf
仙田ひろ子, 山田瑞穂. 大阪府立中央図書館の蔵書評価の取組みについて. カレントアウェアネス-E. 2017, (327), E1923.
https://current.ndl.go.jp/e1923