E2311 – 各国の国立図書館におけるCOVID-19の影響に関する調査結果

カレントアウェアネス-E

No.400 2020.10.15

 

 E2311

各国の国立図書館におけるCOVID-19の影響に関する調査結果

総務部支部図書館・協力課・野澤明日香(のざわあすか)

 

●はじめに

   オランダ国立図書館(KB)は,同館館長が現在議長を務める国立図書館長会議(CDNL)の要請を受け,国際図書館連盟(IFLA)国立図書館分科会と協力し,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が各国の国立図書館に与えた影響と現状および対処方法について2回のアンケート調査を実施した。調査結果はCDNLのウェブサイト内の“COVID-19”ページにて公開されている。

   本稿では,アンケート調査の結果について概略を紹介する。

●第1回調査結果

   第1回では,COVID-19が与えた影響と対応策,懸念事項,継続しているサービスの事例について,2020年3月31日から4月9日にかけて調査が行われた。

   53か国55館から回答があり,約半数が欧州,次にアジアからの回答が多かった。回答館の国の状況としては,約7割の国で部分的あるいは全面的なロックダウンが行われており,利用者サービスについては85%の図書館が全面休止し,職員に対しては65%が事務室の一部あるいは全てを閉鎖していた。

   来館サービスに関する対応策として,利用者へ閉館のお知らせをする,全てのイベントを中止するとした回答が8割以上となり,開館している館では,サービスの限定や利用人数の制限を設けていた。また,デジタルサービス,オンラインサービスについては,半数以上の館がサービスを強化したり新しく創設したりしたと回答した。具体的には,オンラインでの問い合わせへの対応強化の他,既存のオンラインサービスの利用促進,全てのデジタル資源の無料提供,オンラインでの読み聞かせや読書活動の実施,電子書籍の提供の例があげられた。

   また,約8割の館が代替サービスやプログラムを実施または計画していると回答した。例として,利用者向けの教育研修のためのプラットフォームの構築やCOVID-19に関するオンライン講義の実施,職員向けプログラムとしては在宅勤務ガイダンスやウェブ会議の開催等の回答があった。

   その他職員に対する措置としては,95%の館が国外への出張,73%の館が国内への出張を中止し,87%の館が在宅勤務のための機器提供を行い,約半数の館がマスク等の防護具の配布や勤務時間の調整等を行ったとの回答があった。懸念事項としては,財政状況や職員の健康,リモートワークにおける仕事の質や業務上の連携,施設および設備の消毒に関すること等の回答が寄せられた。財政状況については,約75%の館が資金繰りへの懸念を持っており,政府からの財政支援が得られるか不明であると回答している館は70%あった。また,政府からの財政支援が削減されると予想している館は半数あった。

●第2回調査結果

   第2回では,前回の調査からの状況の変化,図書館のサービス再開について,また再開するにあたって準備したことや課題についての調査が,5月29日から6月10日にかけて行われた。

   回答館は55館で,内訳は前回とほぼ同じであり,約半数が欧州,続いてアジアからの回答が多かった。国が完全にロックダウンしていると回答したのは1館にとどまり,再開館した図書館は全体の約4割あり,その半数は予約による利用を取り入れていた。部分的あるいは全面的に閉館していると回答した図書館は約4割あった。その他と回答した2割の図書館のうちの多くは,職員には施設を開けているが,利用者サービスは再開していなかった。

   事務室業務再開にあたっては,9割に上る図書館が職員に対し,ソーシャルディスタンシング,マスクや手袋といった防護具の提供を行い,8割以上の図書館が消毒等の対策を取ったと回答した。

   サービスを再開するにあたり懸念したこととして,ほぼ全ての図書館から職員と利用者の安全と健康に関することがあがった。再開館に必要なものに関する設問に対しては,約8割が職員と利用者のための防護具,再開館にあたっての政府による明確な手順と回答した。さらに,職員の教育・トレーニングが必要と考える館も約6割存在した。

   図書館資料や設備の消毒に関する項目では,約半数が資料の消毒および隔離を併用して行うと回答したが,資料を消毒する方法にはあまり共通点がみられなかった。

   COVID-19の流行により,多くの図書館が電子資料の構築やオンラインサービスの重要性を再認識し,約7割が研修や検索ツール,展示会等の分野で新しいデジタルサービスを構築したと回答している。一方で,約半数の館が,利用者が増加したことによる図書館システムへの接続困難の問題や,著作権の問題,新しいデジタルツールとプラットフォームに関する知識習得の必要性,といった観点からデジタルサービスの提供に課題を感じている。

   また,約8割が現在実施しているソーシャルディスタンシング,消毒,リモートワーク等の対応を制限解除後も続けると回答している。なお,約半数が次のロックダウンに備えた計画を準備していた。

   財政状況については,COVID-19対策として政府から図書館が受けている財政支援額は,34%の館が0米ドルから10万米ドル,6%の館が25万米ドルから50万米ドル,60%の館が「その他」だった。

●おわりに

   2回の調査結果から,多くの国立図書館がCOVID-19の影響を受けながらもデジタルサービスやオンラインサービスをより多く提供し,また様々な感染防止策を講じ,職員と利用者の安全を確保しつつ,国立図書館としての業務の継続性を確保しようとしていることが分かった。

   なお,CDNLは,2020年の後半に追加調査を行う予定である。

Ref:
“COVID-19”. CDNL.
https://cdnl.info/covid-19/
Survey Impact COVID-19. 2020, 15p.
https://conferenceofdirectorsofnationallibraries.files.wordpress.com/2020/04/200415-survey-impact-covid-19-def.pdf
Survey Impact COVID-19: Reopening the library. 2020, 16p.
https://conferenceofdirectorsofnationallibraries.files.wordpress.com/2020/07/200708-survey-impact-covid-19-reopening-def-1.pdf