カレントアウェアネス-E
No.327 2017.06.22
E1923
大阪府立中央図書館の蔵書評価の取組みについて
大阪府立中央図書館(以下,当館)では,2013年度から2015年度にかけて「蔵書評価」に取り組み,その結果を2017年3月刊行の『大阪府立図書館紀要』第45号で報告した。
●蔵書評価を行った経緯
大阪府立図書館(中央図書館・中之島図書館)では,2010年度に「大阪府立図書館の基本方針と重点目標」を策定し,以後これに基づく活動評価に取り組んでいる。3年を区切りとして5つの基本方針に沿った重点目標を掲げ,目標を達成するための具体的なアクション・プランによって取組みを進め,その評価を行ってきた。評価にあたっては大阪府立図書館協議会を外部評価機関として位置づけ,館による自己評価の妥当性をチェックしてもらっている。2010年度から2012年度までの第一期,2013年度から2015年度までの第二期を経て,現在2016年度から2018年度までを評価期間とする第三期の取組みを進めているところである。蔵書構築はすべてのサービスの基盤であり,大阪府立図書館では一貫して重視してきた。第一期の重点目標では「市町村立図書館や国立国会図書館との役割の違いを考慮しつつ,現在のニーズだけでなく将来の利用を見据えた資料収集・蔵書構築」を行うことを掲げ,電子書籍導入をめぐる検討,より効率的な資料購入方法への転換と,非販売資料の収集の促進を具体的な取組みとして設定した。それぞれ所期の目標に達することはできたが,一方で外部評価では,個々の取組みについては評価を得たもののそれだけで重点目標とする蔵書構築ができているといえるのか,蔵書評価の観点が必要ではないかとの指摘があった。これを受けて,第二期では,重点目標として掲げた「より効果的な蔵書の構築」の活動内容として中央図書館での蔵書評価の実施を設定し,資料収集を担当する資料情報課内のチームが取り組むこととした。
●実施内容
初年度の2013年度は,国立国会図書館(NDL)の図書館調査レポートNo.7『蔵書評価に関する調査研究』(E518参照)等の蔵書評価に関する文献を集めて手法を検討したが,当館の蔵書または資料収集が都道府県立図書館として「適切」であるかどうかをどうすれば評価したことになるのか,なかなかイメージできなかった。使用できるデータや技術的な限界,調査・分析作業に割けるマンパワーの制約もあり,当館で実施できることは限られるようにも思われた。一方,資料購入予算の減少および収蔵スペースの逼迫により資料選択が厳しさを増す中で,都道府県立図書館として必要な資料をきちんと集められているか,現在の選書に問題はないか,また他の都道府県立図書館や府内市町村立図書館と当館との蔵書の違いは何か,それは当館のめざすものかといったことは絶えず現場の問題意識としてあった。十分なエビデンスがないために,それらを対外的に説明することが難しい場合もあった。
大阪府立図書館協議会活動評価部会の委員からの助言や他館での取組みも参考にして試行錯誤した結果,最終的に当館の問題意識に合致し,かつ実施可能なものとして行った分析は,以下のとおりである。
- (1)蔵書の概要
- 当館蔵書冊数の推移,他の都道府県立図書館との蔵書構成の比較,NDLのレファレンス協同データベース公開事例に掲載されている参考資料の当館所蔵状況
- (2)受入図書の分析
- 2012年度から2014年度にかけて受け入れた日本語図書(児童書を除く)の特徴(傾向),2014年度購入図書について府内市立図書館5館との比較分析
- (3)利用状況の分析
- 当館貸出図書の出版年による分析,累積貸出回数による分析,複写利用状況の分析
- (4)分野ごとの資料評価
- 法情報および医療情報分野における,外部で作成された資料リストとの比較による所蔵資料調査および外部有識者による評価
分析のためのデータとしては,当館業務データ,公刊資料(日本図書館協会『日本の図書館』,出版ニュース社『出版年鑑』,他の都道府県立図書館の要覧類やパスファインダー),インターネット上で公開されている情報(レファレンス協同データベース,法・医療情報分野の出版目録)のほか,府内市町村立図書館の収集図書との比較のために府内市立図書館5館から2014年度購入図書のISBNデータを提供してもらい,それをもとに取得した書誌データを使用した。
また,計量的な分析に加えて質的な分析を行いたいと考え,東京都立図書館や岐阜県図書館の事例を参考に,法情報および医療情報に詳しい外部有識者に当該分野の書架を講評してもらう第三者評価も実施した。
●報告をまとめて
最終的な報告の姿が見えないまま手探りの3年間であったが,いくつかの観点から分析結果をまとめることができた。詳細については,『大阪府立図書館紀要』第45号を参照されたい。得られた結果からは,当館の資料収集方針に沿った収集及び蔵書構築が概ねできているものと考えている。当時の業務の中で可能だった範囲での分析であり,決して十分なものではないが,当館の蔵書について一定のエビデンスが得られたことは成果であった。今回の報告は,当館としては蔵書評価に本格的に取り組んだ初めての試みである。今後,蔵書構築を検討していく際の素材として活用していきたい。
大阪府立中央図書館・仙田ひろ子
大阪府立中之島図書館・山田瑞穂
Ref:
https://www.library.pref.osaka.jp/uploaded/attachment/2548.pdf
http://www.library.pref.osaka.jp/site/info/summary.html#hyoka
http://www.library.pref.osaka.jp/site/hyoka/juten2010.html
http://current.ndl.go.jp/report/no7
http://doi.org/10.11501/999319
http://www.library.metro.tokyo.jp/Portals/0/about%20us/pdf/24no2hyouka.pdf
http://www.library.pref.gifu.lg.jp/gaiyo/chosa/sheet25.pdf
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