カレントアウェアネス-E

No.445 2022.10.13

 

 E2546

第1回デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議＜報告＞

 

デジタルアーカイブ学会法制度部会・城田晴栄（しろたはるえ）

 

  2022年8月3日，デジタルアーカイブ学会（以下「学会」）の主催にて「第1回デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議」（以下「本会議」）を開催した。

  学会では，これまで，デジタルアーカイブ振興に向けてその社会的認知を高めるとともに，めざすべきデジタルアーカイブ社会の姿と，その普及・活用促進のための羅針盤を広く共有するため，「デジタルアーカイブ憲章」（以下「本憲章」）の策定へ向けた議論を，学会内の法制度部会（以下「部会」）を中心として進めてきた。

  本会議は，この議論を大きく一歩進め，本憲章の素案（以下「憲章案」）を公開し，アーカイブに関連する幅広い分野の登壇者による多角的な視点から意見を交わし，まさに「憲章をみんなで創る」ための場として設けた。当日は，昨今のコロナ禍の影響によりZoom，YouTube Liveを利用してのオンライン会議となったが，登壇者・参加者を併せて常時150人以上の参加があり，関心の高さがうかがえた。

  本会議では，数藤雅彦氏（部会メンバー）司会進行の下，吉見俊哉学会長からの開会の挨拶，「記憶する権利」への言及および今後に向けた問題意識の提起を行った後，まず，福井健策氏（部会長）より本憲章の背景を説明し，併せて憲章案を紹介した。憲章案は，前文，デジタルアーカイブの目的，行動指針などからなり，デジタルアーカイブをあらためて定義し，その価値，向き合うべき課題を共有し，デジタルアーカイブが活用される社会に向けて関係者が行うべきことをあらためて宣言するものである。

  続いて，各登壇者（上述の吉見氏，福井氏のほか，生貝直人氏，五味大輔氏（以上，部会メンバー），田中茂明氏（内閣府知的財産戦略推進事務局長）等全15人）より，デジタルアーカイブと各々との関わりについての簡単な紹介と，憲章案に対するコメントが寄せられた。

  その中で，憲章案に対し，「具体的で夢が広がる」「社会のつながり・豊かさがどういった形で発展すべきかを定めるものとなる」「デジタルアーカイブの今後の指針とする上で大変参考になる」「資金面，人的な面における持続性について，本憲章を拠り所とすれば経済的貢献や継続性・発展性があるのではないか」「本憲章やデジタルアーカイブの整備により，コンテンツを生み出す力が変わる」といった期待が表明された。また，地域アーカイブ・コミュニティアーカイブへの言及，人材養成の観点から「デジタルアーキビスト」の文言追加，業界を横断する人材育成への言及，元データのトレーサビリティへの配慮（データの出典や更新日の追跡可能性の追記）といった，憲章案に対する具体的な要望も寄せられた。さらに，本憲章が3年に一度見直される制度設計であることへの肯定的な評価や，「データ公共財化と権利処理が衝突してくる関係の下で政策のスコープをどこまで広げていけるのかの議論にも期待したい」との声もあった。

  本会議の後半では，登壇者より「本憲章は批准を目指すものか否か」という質問があり，これについては「憲章案に関する議論の中で，広くアーカイブに関する機関を巻き込み，繋がっていくプロセスの中でその要否は自然と見えてくる」との意見が出された。また，本憲章とデジタルアーカイブの利用者との関係についても「デジタルアーカイブの設置者が利用者になることも，その逆もあり得る点で，利用者を本憲章の主体の射程範囲とするか否かの観点が必要ではないか」「著作権リテラシーのみならず，デジタルアーカイブの活用者のリテラシーも重要である」「憲章案は利用者側の利用シーンも考慮すべきではないか」といった意見が出され，引き続き議論されることとなった。さらに，「本憲章の柱として『記憶する権利』を打ち立てるべき」との提起に対し，「『記憶する権利』はすべての国民にあり，現場の思いと政府の活動がどう結び付くかが今後の大きな論点である」「本憲章の中でどう整理されるかが重要である」との意見が出された。

  以上，本会議では憲章案に対する多角的な論点出しができ，また視聴者からも数多くの質問・コメントが寄せられ，盛会のうちに幕を閉じた。学会及び部会では，引き続き憲章案に対するオープンな議論を続けるべく，第2回を2022年10月11日に実施し，11月26日には沖縄にて第3回円卓会議を予定している。関心をお持ちの人には奮ってご参加頂きたい。

Ref;
“第1回「デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議」(2022/8/3)”. デジタルアーカイブ学会. 2022-07-20.
http://digitalarchivejapan.org/9156/
デジタルアーカイブ学会. デジタルアーカイブ憲章（案）. 第1回「デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議」（2022年8月3日）版, 2022, 4p.
http://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2022/08/DA-Charter-ver-20220803.pdf
デジタルアーカイブ学会. デジタルアーカイブ憲章におけるこれまでの論点整理. 2022, 4p.
http://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2022/08/RontenSeiri-20220801.pdf
“第7回研究大会企画セッション”. デジタルアーカイブ学会.
http://digitalarchivejapan.org/kenkyutaikai/7th/kikaku/